第007話 転送
『では、次に。転送先についてです。あかりを送る先は、少年が保護された森の中にある村から、半日程の距離の位置にします』
「えっ! 村の場所がわかるのっ? …………だったら直接村に送ってよぉぉっ!」
私は、直ぐにアキの元に行けるかもと気付いた瞬間、張り詰めていたものが決壊して、心のままに叫んでいた。
『落ちついて下さい、あかり。あかりを直接村に送って、突然現れるあかりに驚いた住人から攻撃された場合、対処出来ますか』
「それはっ! ……でもっ、でもっ、直ぐにアキに会いたいのぉぉ!」
神様の忠告は、間違っていないと頭ではわかっていても、私の決壊してしまった心が、どうしても納得させてくれなかった……。
『あかり。焦ってはいけません。あかりは、少年の事を知ってからずっと張り詰めたままです。心と体が参ってしまいます』
「うぅぅ…………ごめんなさい。……今は神様の……言うとおりにするのが……一番……良いんですよね……」
神様に諭された私は、なんとか気持ちを落ち着かせて、神様の続く言葉を待った。
『最初に私と対話してた頃のように自然体でいいんですよ。あの対話は、私にとっても新鮮でした』
「……え? …………まさかっ!」
突然、投げ掛けられた言葉に私は、何の事かと考えを巡らし、思い当たる事を予想して、驚愕した……。
『はい。筒抜けでした』
神様の答えに、私の予想が確信に変わり、即座に謝罪する。
「ごめんなさい」
私は、思い返すと条件反射で適当な事を考えていたなと反省した……。
『いいえ。本当に楽しい対話でした』
神様にそう言って貰えて私は、少しだけ救われた気持ちになれた……。
『……では、続けます。森の中にある村まで半日程の距離です。勇者システムにもサポート人格がありますので、移動しながら、サポート人格に勇者システム、戦闘方法、私の管理する世界の事など教わるといいでしょう』
「わかりました」
サポート人格かぁ……どうなるんだろう? とにかく、いい子だったらいいなぁ。
『はい。では、最後に。あかりに勇者システムを接続しますね』
「接続ですか?」
『召還された者に対応したシステムですからね』
召還された者が魔王を倒した後、元の世界に戻る事を考慮して切り離し可能にしたと……神様は戻った後の配慮に余念がないなぁ。
『魔王システムは私の管理する世界に必要なため、私の管理する世界に導入しても問題ありません。ですが、勇者システムを魔王システムと同じく導入すると、私の管理する世界で勇者対魔王の図式が成立してしまいます。そうなると、一部の人類に余裕が生まれ、魔王システムを導入した意味がなくなります。そこで新しい世界を創り、その世界に勇者システムを導入したのです。その世界と召還された者を接続する事で勇者にするのです』
なるほど……だから神様の管理する世界の外の者……異世界からの召還をする事になったのかぁ。
そして、魔王を倒したら、接続を切って、召還された者は元通りなって帰れると……見事なまでの予定調和だ。
『出来ました。あかり。これから目の前に球体が現れるので驚かないで下さい』
……えっ! なに? 本当に何か出てきた……これってビー玉? 目の前に浮かんでるし……。
目の前浮かんでる球体は、私が幼い頃に集めてたビー玉にそっくりだった。
『あかり。それが勇者システムの導入された世界の入れ物の仮の形です。あかりと接続した事で、あかりが、所有者、又は主、私と同じ管理する者、と呼び方は色々ですが、そう認識され常に傍に居ます。それと、先程、仮の形と言ったように自由に形を変えられます。強度も、これでも一つの世界を内包しているので壊れる事はないでしょう。後で名前でも付けてあげて下さい』
えー! 魔王を倒すまでとはいえ、私が一つの世界を手にする事になるとは……あ、魔王みたいな事言っちゃった。
……とにかく、常に側に居るなら失くす心配もないし、自由に形を変えられるなら、私の想像したアクセサリーなどにして身に付けても良し! さらに、武器に変化させて使えるとは万能すぎる。
そして、神様は、このビー玉のような球体を世界の入れ物と言った……つまり、中に世界があるのだ。
中の世界は箱庭になっていて、私が魔王を倒すまでの過程で支障をきたさないように、様々な機能が用意されている……そして、私は接続したことで世界に干渉する権限を得た。
『あとは、勇者システムを起動させる事ですが、それは私の管理する世界に行ってからにして下さい』
「わかりました」
『では、私の管理する世界に送ります。あかり。少年の件は申し訳ありませんでした。そして、魔王を倒して下さい。お願いします』
謝罪と願いの言葉が終わった瞬間、私は光りに包まれた……。