第005話 質問
私は、ようやく止まった涙のあとを拭いながら待った。
『あかり。落ちつきましたか』
「はい」
神様からの呼びかけに私は、これからの全てが、アキを助ける事に繋がるのだと覚悟を込めて返事をした。
『それはよかった。ですが、こちらはまだ時間がかかりそうです』
「何かあったんですか?」
『いえいえ。準備に時間がかかってるだけです。あかり用にカスタマイズしてますからね』
何をしてるのかわからないけど、アキを助けるのに必要な事だろうと、私はただ待つ……。
『あかり。待たせてる間に質問に答えますよ』
神様なりの気遣いなのかな、と思いながら、私は即座に質問する。
「ありがとうございます。それじゃアキの状況を教えて下さい」
『わかりました』
……よかったぁ。
アキは本当に無事だった。
なんでも、たどり着いた先は森の中だったようで、数日彷徨ったらしい。
でも、その森の中にある村の住人に保護されたみたい。
『その村は、過去の争いの被害者が寄り集まって開拓して出来た村です。もう住人は、その子孫達ですが、出来た理由が理由ですので皆温厚です。当面は安全でしょう』
「……当面は?」
私は敏感になりすぎて、ほんの少しの懸念でも、気になってしまう……。
『はい。魔王は今、何も行動を起こしていません。ですが動き出した場合、村の位置的に危険の可能性があります』
そんなっ! ……アキ……私、何したらいいのぉ……わからないよぉぉ! ……私が行くまで無事でいてぇ。
アキに危険が有るかもと知って、私の感情がぶり返してしまった……。
『心配でしょうがまだ大丈夫なはずです。……他に聞きたい事はありますか』
……うぅぅ…………こんな事じゃダメだ……よしっ! アキを助けるためにも、何でも聞いておかなくちゃっ。
「……この場所は何なんですか?」
『この場所は私の管理する世界との境界にある関所のようなものです。それと副次効果もあります。私のお願いを断った方を送還すると言いましたよね』
えっ! 舞台装置って……。
召還された者には断る者も居れば、適正が不合格の者も居る……結果、送還し、その際、記憶の対処もする。
そうした元の世界に戻る人達の、この場所の印象を薄くするための演出らしく、無くても問題ないけど、より確実にだとか……。
『配慮です』
管理する者……彼? 彼女? の姿を見せない事や、機械音声、名乗らない事も同じ理由らしい。
姿を見たり、地声を聞いてしまうと、その強烈な印象故に確実に記憶に残る。
名前も、真名は勿論、仮に偽名で名乗ったとしても神様が自分の名前としてその口から発すると、聞いた者は忘れられないどころではないらしい。
それは元の世界に戻ったあとの人生の足枷にしかならないからと……さすが神様。
『ですが、その配慮も無駄になりますね』
「何でですか?」
『召還したのはあかりが初めてだからです。そして、魔王はあかりに倒されるでしょう。だから以後、召還する必要がありません』
……気になる情報が多いけど、でも、まずはこれから。
「私が魔王を倒すんですか?」
『そうなりますね。あかりが私の管理する世界に行くのは少年のためですね』
「はい」
『少年に会えたら元の世界に戻りたいですか?』
「もちろんです」
私は、何でこんな当然な事を聞いてくるのかと、不思議に思いながら答えた。
『この場所でなら元の世界に送還出来ますが、私の管理する世界に行ってしまうと戻る方法は、魔王を倒す事。だからです』
「聞いてませんっ! それに私が魔王を倒せると何で確信出来るんですかっ!」
アキに会う事だけしか考えていなかった私は、この事実には我慢が出来ず声を荒げてしまう。
『それにはまず魔王システムについて説明しなければいけません』
私は、これからされる話を聞くために、より一層、集中した。