第025話 誘い掛け
寝ているミオンの顔を眺めていると、ミオンがモゾモゾと身じろぎしだし、やがて目を開くと、私と目が合った。
「ミオンちゃん、おはよう。……大丈夫?」
心配そうに私が挨拶すると、ミオンはボーっとした表情で体を起こし、部屋を見回してから、再び私と目を合わせる。
そして……。
「お姉ちゃん、おはよう」
と、笑顔で挨拶をしてくれた。
「……うん。おはようミオンちゃん」
私は、改めて挨拶を返しながらミオンの様子を伺う。
……私には無理してるようには見えないけど……アキの言葉で、ミオンちゃんの心に少しは変化があったのかな? ……そうだったらいいな……。
「お兄ちゃん、おはよう」
「ああ。ミオン、おはよう」
私が考えてる間に、ミオンはアキに挨拶をし、アキは淡々と返していた。
そのアキの返しに私は既視感を感じた。
……あぁこれって……私がアキに接した対応と一緒なのか……。
私はアキと生まれた時からの腐れ縁の付き合いがあるから、アキなら大丈夫と信じられるし、その信頼の元、気に掛けながらもいつも通りに、そして、いざとなれば力になるという心境でいられた……おそらくアキもミオンちゃんに同じ心境なんだろうな……。
でも、私はミオンに対しては、心配が勝ってしまい、アレコレ構うつもりになっていた……構いすぎると逆に重圧になるかもしれないのに……。
私は考え直し、これまで見たミオンの強さを、ミオンを信じているアキを信じて見守る事にした。
それにしても、アキがこの世界に来て半年余り、その短い期間でミオンと、いや、他の人達ともこの関係性を築けているとしたら、それは、この世界で過ごす時間がとても過酷で濃密だったからだろうと容易に想像出来た……。
ミオンも起き、挨拶も済ませ、それぞれ身支度を整えると、丁度いい時間になったので私達は食堂に向かった。
朝食は、村長と今後の方針を擦り合わせしつつ進み、がっつり食べ過ぎてお腹を抑えてる人達が見受けられたくらいで、他は特に問題なく食べ終わる。
……アキ、ごめん! 空腹だろうと、多めに盛り付けちゃった……テヘ。
食後に、今日からは自由に過ごしてもらい、その際の注意点が告げられ、困り事や要望は村長を窓口に、こちらからの連絡事項は朝昼晩の食事の席でと伝えて解散となった。
フー、私の中で最優先事項だった教会への案内も出来たし……ついでに商店街も……商店街の案内は急に差し込んだから、ちょっとドタバタ気味だったけど……まぁ結果オーライで。
私の考えとしては、宿泊施設の中だけと狭い範囲に閉じ籠った状態にさせとくのは、窮屈に感じる人も出るだろうし、ストレスになる。
精神的に不安定な状態では、何が切っ掛けで爆発するか分からないから、不安要素は早目に無くしときたかった……出かけることで、いい気分転換にして欲しいな……。
そして、これで当面は、緊急な事がなければ私達に自由な時間が出来る。
その間に対魔王の準備に取り掛かるつもりだった。
私は、部屋に戻る道すがら、前を歩くアキに訪ねる。
「アキ、今日は何か予定とか、やることがあるの?」
「いや、俺には特に無いから、部屋でシミュレーションをするか、ミオンが何処かに出かけたいなら、それに付き合うくらいかな」
アキは立ち止まって振り返ると、一瞬ミオンに目をやってからそう答えた。
「つまり、アキの予定はミオンちゃん次第ってことね」
「ああ、そうだな」
……なるほど……アキはミオンちゃんに教会行きを言及しないで、ミオンちゃんが自発的に教会に行こうとするのを待つ姿勢か……。
アキの答えに、直接的にミオンに行きたい場所を聞くのは、言外に答えを迫ってるように受け取れるので、私は私から誘う形をとって、まずは外出を促すことにした。
「ミオンちゃん、この後なんだけどさ……お姉ちゃんとデートしよう!」
「……お姉ちゃん……デートって何?」
「デートは仲のいい人とお出かけする事だよ。……昨日、色々なお店が並んでるのを見かけたでしょ? お姉ちゃん、あの中に気になってどうしても行きたいお店があるんだけど、せっかく行くなら、ミオンちゃんと一緒に他のお店も見てまわりたいなって思ったの。……勿論アキも一緒だよ」
「ああ、ミオンが行くなら俺がガイドとして案内するぞ」
「おおっと、今のは聞き捨てならないな! ……フフン、私は昨日通りすがりに軽くだけどガイドしたし、今日は本格的にするんだから! ……ウフフ、ミオンちゃん、案内はお姉ちゃんに任せて!」
「フッ、あかり! 語るに落ちたな。……昨日、今日と同じような事をミオンに聞かせるのか! その点、俺ならあかりとは違った印象になるはずだ。フハハ……ミオン、俺に任せろ!」
あわや、私とアキによるミオンへのガイドと称した妹可愛がり権争奪戦が勃発しかけた時、「クスクス」と笑い声が響いた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、仲いいね。私も交ざりたいな。アハハ、お兄ちゃん、お姉ちゃん……一緒に行くね」
そう笑いながら言ったミオンの顔には、やはり何の憂いも見えず、その心からの笑顔に、ミオンは何かしらの答えを出して前に進み始めてるのだと理解し、私は、改めてミオンの強さに敬服した。
次いで、ミオンの言葉の意味に私は舞い上がる。
「うっひょー! ミオンちゃんとデートだっ! 一緒にお出かけ嬉しいなぁ。……アキ! そうとなったら、私達は争っている場合じゃない! 協力してミオンちゃんをもてなすよ!」
「あ、ああ」
「フンフンフーン。おっでかーけおっでかーけ、フンフフーン……」
「……ミオン。……あかりは基本的に思ったままを口に出してるからな……。交ざりたいからって、ミオンは、あそこまではっちゃけなくても大丈夫だからな!」
「……うん……わかった……」
有頂天になっている私は上機嫌に鼻唄を口ずさみ、アキからミオンに失礼な注告がなされていても気にする事なく聞き流して、率先するように部屋へと向かって歩き出した。
部屋へと戻ると早速とばかりに出かける準備をする。
準備と言っても、私は鞄を用意するだけだ。
でも、アキとミオンは最初に会った時のように装備を着用している。
防具は、私のような全身鎧ではなく、二人とも革製のパーツを要所要所に着ける形だ。
武器は、アキは腰に剣を吊るしているけど、ミオンは身長程の長さの棒だった。
おそらく、戦うためではなく、移動の補助に杖として、そして、敵を近付けさせないように牽制として使うためだと思われる。
何故、デートに行くのにこんな物々しい準備が必要なのか……。
それは、昨日の反省点からだった。
基本的にビーの世界は安全だ。
だから、昨日の教会への案内で参加者は皆ラフな格好だった。
だけど、予定外に、帰還のためにビーの世界の外に出ることになった。
ここで、もしの話をすると……。
もし、突然消えた私達の集団を不審に思い、砦の街が捜索隊を出していたら……。
もし、タイミング悪く、私達がビーの世界から出た時に遭遇してたら……。
もし、私達の様子に襲い掛かってきたとしたら……。
……私以外は、全員丸腰……その上、身動き出来ない人達を抱えていた……メトルとビーのお陰で、私一人でも対処は出来たと思う……最強勇者の力は隔絶してるからね……だけど……全員を守れたかと問われると……答えは分からないだ……。
もしの話に意味はない。
実際には、何も起きていない。
それで済ませるには、余りにも不用心過ぎた……。
こうした反省から、出かける際には、戦う、あるいは、自衛の手段を用意するのが注意点の一つだった。
……それに……完全融合中は大丈夫でも、素に戻った時……私は、敵とは言え、人を殺したという事実に耐えられるのか……。
……守る為には仕方無い……そんな心構えでは……いつか私は壊れてしまうかもしれない……。
二人の様子を眺めながら、この先、いつか訪れるその時、二人を、皆を、そして私自身の心を守る為には、殺す覚悟が必要だと自覚するのだった。




