第002話 少女と少年
日曜日の午後、私が休日には、いつものように行う、動画をあさっては視聴をする、という作業を朝から続けていると、インターホンの音が聞こえた。
ん? 誰か来たかな? ……まぁ、ママが出るでしょ……続き、続き。
私は、ママが出迎えるだろうとスルーした。
そのまま動画を見ていると、再びチャイム音が聞こえたので、椅子に座ったまま振り返り、後ろのドアに向かって「ママぁー!」っと、家中に伝わるように大きな声で呼びかけ、対応を促す。
これで大丈夫だろうと、引き続き動画を見ていると、三度目のチャイム音が聞こえ、ようやく私は思い出した。
あ! 今日ママ居ないから、私が留守番だったわ。
「イケナイ、イケナイ、テヘ」
自分のミスを誤魔化すようにあざとく笑うと、対応しようと椅子から立ち上がる。
……動画を止めてっと、いっちょ出迎えに行くかぁ!
「フンフンフーン」
私は動画を止め、鼻唄を口ずさみながら二階の自分の部屋から玄関に向かい、来客者の顔の確認のため、モニターの前に立つ。
さぁて、アテクシ様の貴重な娯楽の時間を奪った不届き者はどんな顔かなぁ?
「いざっ! 確認っ!」
掛け声と共にモニターに映った顔を確認すれば、知ってる顔だったので即座にドアを開けると、私の耳に聞き慣れた声が聞こえてくる。
「よお」
「あらあらあら、アキちゃんじゃないでちゅかぁ。どちたんでちゅかぁ?」
「フ。相変わらずだな、あかり」
プププ……格好つけちゃって。
相変わらずなのはアキの方じゃん。
ドアの前に立っていたアキのいつもの素っ気ない挨拶に、私もいつものお姉ちゃんキャラで返す、お互いのいつものやり取りを交わすと、アキが来訪理由を告げてくる。
「今日はおばさん居ないだろ。うちの母さんと一緒に出かけたよな」
「う、うん」
やっばー、完全に忘れてたし……気づかれてないよね。
「母さんにあかりが一人きりで心配だから様子を見るように言われてたんだ……それとほら」
アキが手に持っていたコンビニ袋を差し出してきたので、私はいつもの事と素直に受け取った。
「どうせ、ご飯食べるのも忘れて動画でもあさってたんだろ」
うっ! バレテーラ……アセアセ……スーハー……平常心、平常心。
「ア、アキちゃぁん。あ、ありがちょうねぇ」
「動揺しているぞ。どうやら図星だな。あかりとは長い付き合いだから推測するのは簡単だったぞ」
そう! 私とアキは生まれた時からの腐れ縁だ! 理由? お互いのママが親友で、家が近所で、私達は同い年でって、どこにでもあるありふれたもので、何のドラマも無かった……ショボーン。
「まあ、このくらいの事なら気にするな」
ついでに腐れ縁の私達の自己紹介をするね。
私の名前は立花あかり。
16才、現役バリバリのJK……キャピ…………フー……似合わない事はするもんじゃないね。
身長は、女の子にしては高めの173cm、体型はボンキュッボンのナイスバディ……なんて事はなく、至って一般的な体型かなぁ……あ! 髪は黒髪で清楚系ですっ。
そして、この微妙にクールぶって格好つけてるのが大空アキ。
生意気にも私より背が高く、確か、180cmだったかなぁ? 背の高さに比べると細身に見えるけど、所謂、細マッチョだっ! きっと隠れてこっそり筋トレしているのだろう……プークスクス。
そんな、高身長、細マッチョ、黒髪の雰囲気イケメンのアキは、私と同い年だけど弟みたいなもん! でも、アキはアキで私を妹扱いしてくるんだよねぇ……。
その心はっ! 私とアキは物心ついた頃から、どちらが姉、兄かのマウントの取り合い中なのだぁぁ! ドンドンドンパフパフ。
でも、そんな私とアキのやり取りを見てママはよく苦笑いしている……特に私に対して……げせぬ。
「アキ。お礼にお茶出すよ。寄ってって」
「……いや、やめとくよ」
私の誘いにアキは、困った顔で断ってきた。
「なんで? 遠慮しなくてもいいよ」
「いや、さすがにあかりが相手でも、女の子一人きりの家にあがるのは……」
「まぁまぁまぁ、お姉ちゃんを気づかってくれるなんて、アキちゃんはエライ子でちゅねぇ」
「当然だろ」
おおぅ! 即答するとは、やるなお主……私の中の株が上がったぞ。
茶化す私を見るアキの顔は、とても真剣だった。
「フフフ。じゃぁ、ママの居る時にでもまた来てよ……この借りはその時返すっ!」
「ああ。じゃあ俺は帰るけど、何かあれば直ぐに連絡しろよ」
妹を心配する兄、といった感じのアキに、私は少しだけ嬉しくなった。
「りょーかーい」
歩いて行くアキの背中を見ながら手を振っていると、私の足元に突然、円形の複雑な図が現れ輝きだした。
「うわぁっ!」
……え? まぶしぃ! ……何これ?
「あかりぃぃぃ!」
驚いて動けずにいる私の耳に、私の名前を呼ぶ声が届き、そちらに視線を向けると、異変に気付いたアキが必死な顔で向かって来てる。
「ア……キ……」
その呼びかけに応えようと、私もアキの名前を呼ぼうとするが、段々意識が薄れ、私に向かって必死に腕を伸ばすアキの姿を眺めながら私は意識を失った……。