第014話 再会
街道に辿り着くと進路を変え、左に伸びる街道上を進みながら景色を見渡す。
正面は起伏がある為、先までは見通せないが、メトルの情報だとこの先に街がある。
左側は、今まで移動していた鬱蒼とした森に覆われている。
右側は、広大な平原が広がり、その果てに岩山が連なっているのが朧気に見える。
景色を眺め、地形を把握しながらも歩いていると、起伏の高い場所に到着し、今まで見えていなかった正面の景色が一望出来た。
そこには、私の居る場所から続く街道が湾曲しながら伸びており、その街道の終着点には、大きな壁に囲まれた街らしきものが見えた。
……あれが街……あれは、街というより……砦……。
〈メトル、彼処で合ってるの?〉
〈うん。合ってるよー〉
目に映る街の外観に困惑し、メトルに確認するも、肯定されたので再び歩きだす。
進む事で視点が低くなり、街の全容ではなく聳え立つ壁しか見えなくなる。
〈メトル、もう直ぐ街に着くね。……着いたら警戒と、もしもの時に融合お願いね〉
〈わかったー。メトルに任せてよ、あかりちゃん〉
この世界の住人に遭遇する事を考え、用心の為、メトルにお願いし、ビーを短剣に変えて身に付けておく。
壁がはっきり見える所まで近づくと、街の入口になる門前に数人が、壁に沿って疎らに人が屯していた。
ん? ……何か揉めてるのかな……それに……あの集団は……。
不思議に思いながら門に近づいていく。
そして、壁沿いに屯している人達の様子で気付いた。
あ! あれは村から避難した人達だ……間違いない! ……あの中にアキが……。
アキを捜す為、門への道から外れて壁沿いに移動する。
草臥れた格好で、座り込んでる者、横になってる者、嗚咽を漏らす者等様々だが、共通しているのは皆、疲労困憊のようだ。
そんな人達の前を通り過ぎ、まだ先に居る人達も遠目に確認すると……。
……居たっ! 座り込んで俯いてるから顔が見えないけど……私にはわかる! 絶対にアキだっ! ……やっと……見つけた……。
視線の先、他の人達とはちょっと離れた場所にアキは居た。
隣には、同じ様に座り込んで俯いてる少女が寄り添っている。
涙が溢れそうになるのを堪え、アキの元へ向かう。
アキに近づいていくと、私の足音に気付いたのか、アキが顔をあげ私を見て目を見開く。
アキの顔は驚きの表情だが、それでもわかる程、憔悴しきっていた。
つられて隣の少女も顔をあげて私を見ている。
少女は、ずっと泣いていたのだろう、泣き腫らした顔で虚ろな目をしていた。
二人の顔を見て私は理解する。
避難中に辛い経験をした事を……。
……そうだ……アキはこの世界で半年も過ごしていたんだ……その暮らしてた村が襲撃されて、村人が犠牲になってる……。
「……ア、アキ……」
再会出来た事で湧いた喜びの感情が萎み、何て声を掛けたらいいか躊躇ってしまう。
「あかり……やっぱりお前も来ていたんだな。……今までどこで何してたんだ? 心配したんだぞ。……でも、無事で良かった」
それでもアキは私を心配し、無事を喜んでくれた。
アキはアキなんだと実感し、気を取り直して話し掛ける。
「アキ……私は大丈夫だよ。アキこそ大丈夫? 顔色が悪いよ。……本当に大丈夫なの? …………私はアキを迎えに来たんだよ。……詳しい事を説明したいけど……」
「ちょっと待ってくれ! 俺の心配なんてしなくていいっ! そんな事より何か知ってるのか? だったら教えてくれ! あかりっ!」
私の言葉にアキは予想外の反応を示し、私は圧されるように今までの経緯とこれからの事を説明した。
「……アキ……ごめんね。……私が召喚されたから……アキまで巻き込んで……」
「何を言ってるんだ! あかりは何も悪くないだろっ! それより……俺だっ! ……俺が余計な事をしなければ……あかりは直ぐに元の世界に戻れてたし……わざわざ俺なんかの為にこの世界に来る必要もなかった。……本当にすまない」
「アキ……そこは気にしないで……。逆の立場だったら、私も同じ事をしたし……アキも私を助けにこの世界に来てたでしょ?」
「……そうだな」
お互いを不承不承納得させる。
「……それで、元の世界に戻るには魔王を倒すしかなくて……俺にも戦う為の能力が用意されてると……」
「うん。神様が気を利かせてくれて……まだ私も詳しくは知らないけど、魔王と戦えるようになれるって言ってたよ」
「……わかった。俺も魔王を倒すのを手伝うよ。……むしろ……望むところだっ! …………でも、あかり……向かうのはちょっと待ってくれないか? ……この子……まだ紹介してなかったな。……この子はミオン、俺がお世話になった人の娘さんだ」
そう紹介された少女、ミオンは、私とアキが会話を始めた時から、不安そうにアキの羽織っているマントをギュっと握っていた。
「ミオンちゃん。……私はあかり、アキのお姉ちゃんみたいなもんだよ。……よろしくね」
「……」
挨拶してもミオンに反応がない。
……あ、言葉が通じてないのかも……。
「あかり。ミオンの父親……レオンさんは村に残って、後から来ることになってるんだ。……レオンさんが来るまで待たせて欲しい」
……えっ……それって……。
〈メトル。……レオンさんって、ビーの世界に送った人達の中に……〉
〈うん。居たよー〉
私は、森の中の村でメトルに教えられた人の事を思いだし、メトルに確認した。
「あかり。……レオンさんは、俺がこの世界に来た時に助けてくれたんだ。それから、ずっと面倒見てくれて……俺に戦い方も教えてくれた……強い人なんだ。……そのうちここに来るから、その時あかりにも紹介するな」
アキは疲れた顔で、でも、誇らしそうにレオンの事を語る。
……い、言えない……でも……言わなくちゃ……。
私は意を決すると……。
「アキ……そのレオンさんなんだけど……」
「うん? どうした、あかり」
「……私ね……ここに来る前に……アキが居た村に寄ってきたの。……私が村に着いた時には……村に残ってた人達は全員。……もう。……その中にレオンさんも……」
「……は? ……な、何言ってるんだ、あかり。……それに……何であかりがレオンさんの事わかるんだっ!」
「う……うぅ……うわあぁぁぁん……」
私の言葉に、アキは詰問してきて、ミオンは蹲って泣き出した。
「アキ、落ち着いて! ……アキ……さっき説明した、私の中に居るサポート人格のメトルが知ってて教えてくれたの。……アキを保護して一緒に暮らしてた人って……レオンさんの事でしょ?」
私が回答すると……。
「うおおぉぉぉぉぉ……」
アキは突然絶叫し、膝立ちになり、右腕を振り上げては何度も地面に叩きつけた。
「畜生っ! ……俺は……レオンさん。…………シオン。……畜生っ!」
今まで見たことの無いアキの取り乱し様に私は衝撃を受け、呆然と眺めてしまう。
そして、マントに隠れて見えていなかった部分が露になり、私に更なる衝撃が襲う。
「……そんな……アキ……何で……どうして……」
アキには左腕が無かった……。




