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八話 ハルヒル試走

 春休み最後の土曜日、俺は結城とハルヒルの試走に行くことにした。

 ハルヒルとは「榛名山ヒルクライム」の略で伊香保温泉とか某自動車バトル漫画の聖地で有名な榛名山を自転車で登るヒルクライム大会で赤城山ヒルクライムと並んで全国的に人気のあるイベントだ。 

 コースは伊香保温泉側ではなくて、榛名山の南側で高崎の室田から天神峠まで14.5km、標高差は約900m、最後、榛名神社からは15%ぐらいの激坂が待ち構えている。 

 俺は初めてなので、今回は下見という感じでのんびり登ろうと考えていた。

 結城は俺と同じ市内に住んでるが結城は高崎よりなので、ハルヒルのスタート地点に近い榛名支所の隣りの福祉会館前、八時に待ち合わせをした。

 俺は時間より15分ぐらい早く到着した。試走にくる人用のバイクラックに自転車を引っ掛けて、ベンチに座って待つことにした。周りには誰もいなかった。

 俺はスマホを取り出して、暇を潰していると、さーっと自転車が自転車が近づけて。

「おはよう!」

 顔を上げると結城ではなく、俺より十歳くらい年上の男性がいた。ママチャリヒルクライムで有名な北野耕大さんだ。見かけたことはあるけど、話をするのは始めだ。俺は慌てて。

「チャンピオンは?」

そうすると北野さんはガッツポーズで

「チャンピオンは俺だ!」

 北野さんはテレビの某自転車番組に出演していて、自転車乗りには有名だ。そのテレビの放送で「チャンピオンは?俺だ!」というやり取りがあって、面白かったので、とっさに口に出てしまった。

 北野さんは、バイクラックではなく、自転車のスタンドを出して、自転車を止めて俺の横に座って。

「今から、榛名登るのか?」

「はい、友達と一緒に登る予定です」

「そっかあ」

俺は北野さんの自転車を見て。

「ママチャリだけど結果、改造してるんですね」

「だけど、ロードバイクの倍くらいの重さだよ。で、榛名にはよくくるのかい?」

「いいえ、前橋なんで赤城ばっかりです。伊香保側からは一度登ったことがありますが、ここは初めてです。」

「ハルヒルにはエントリーしたんか?」

「はい、去年の赤城がヒルクライム大会初参加でハルヒルは二回になります」

「えーと、高校生?いいなぁ、ロードバイク」

「親父のお下がりですが」

「でも、ちゃんと整備してあるみたいだし、まあまあのパーツ使ってるし、大事にしているのが分かるよ」

「 ありがとうございます」

 そこに結城がやってきた。

「おはようっす!」

結城はバチンとビィンディングペダルはらシューズを外して。

「あっ!有名な北野さんじぁないですか、おはようございます」

北野さんはにっこり笑って。

「おはようっ!」

結城も自転車をバイクラックに引っ掛けて、ボトルをはずして、ベンチに腰掛け。

「あー、なんとか間に合った。急いできたので息が切れちゃたよ。少し休ませてくれよ」

とボトルの水をごくごく飲んだ。

「お友達?」

「はい、同級生です」

と俺が答えると。結城が。

「というか、ライバル、宿敵です」

北野さんは「ガハハ!」と笑って。

「いいなぁ、ライバルか、そうやってバトルすると伸びるだよな」

「俺は一人で登る方が好きなんですが」

 と俺が答えると、北野さんは。

「地道に坂を登のかクライマー向きだな。そうだ、一緒に登らないか?」

「俺たちなんか、北野さんについて行けませんよ」

と俺。

「大丈夫、俺はママチャリでおまえたちはロードバイクだぜ」

「いやいや、俺は北野さんにぶち抜かれたことがあるんだけど」

「ハハ、でも結構、登れそうな体してるじゃないか、さあ、登ろうぜ」

「でも、ここ初めてなんですよ」

「じゃあ、ハルヒルの攻略教えてやるから」

ということで、北野さんと登ることになった。俺たちは自転車に乗り、出発した。

 細い道からハルヒルのコースに入った。バスターミナルのところが大会でタイムを測り始める場所で、そこでサイコンのラップボタンを押す。北野さんが先行して、次が俺、結城の順で走り始めた。スタートしてすぐ、北野さんが。

「始めは俺が引くから、ついて来い!」

「はいっ!」

と俺と結城が返事をすると、北野さんはいきなりダンシングで加速する。力強く、体全体でペダルを踏む独特のダンシングだ。俺たちも反応するが追いつかない。スタート直後は緩やかな坂だったがすぐに勾配がきつくなり堪らずフロントをインナーに落としてギヤを軽くして登る。坂に入ると北野さんの速度が落ち、差が詰まって、自動車屋の近くまで来たところで追いついた。ここがこの坂の終わりかな?と思ったら、北野さんが。

「チャンピオンは俺だ!」

とガッツポーズで叫んで再びダンシングで加速する。俺の後ろの結城が「ガチン」フロントをアウターに上げ俺の前にでる。俺もアウターに上げて結城に続く、その先はやや下りで、俺たちも加速する。右手に学校が見え、スピードは30キロを超える。坂の下には信号があるが押しボタン式で人も車もいないので、そのまま進む、信号を越えると急に勾配がきつくなり、ガソリンスタンド跡の前でまたインナーに落とす。坂に入ると北野さんがスピードを緩めて、後ろを確認し、右手で。

「前に出て」

 と合図した。俺たちも後方から車が来ないことを確認して、北野さんの前にでた。北野さんは、

「ここから病院のまでは、少し坂が続くっから、ペースを上げ過ぎないように」

「はい!」

と俺たちは答えた。坂の勾配は10%を超えているだろうか?結構、きつい。病院が見えてきたが、病院の前の坂は壁?のように見えて、心が折れそうになる。病院の先は切り通しでカーブしていて先が見えない。後ろの北野さんはダンシングとシッティングを繰り返して一定のペースで登っているようだ。

 やっと、坂が終わり病院の入り口付近にたどり着いたが、息付く暇なく、後ろから北野さんがまたダンシングで俺たちを抜き去る。ううん、ついて行けない。

 短い平坦が終わり、登りやすい勾配になり、周りが開けてきた。左側は川でその向こうには広い公園になっていた。公園を超えると、坂が急になっていた。また、北野さんとの距離が縮まった。そして、その坂を越えると直線の平坦区間になった。また、北野さんがダッシュするかと思ったがダッシュはしないで、振り向いて。

「ここは家が多いから、試走の時は安全運転でな」

そう言って25キロぐらいで前を引く、大会の時は30キロを越えるだろう。この平坦区間は長く600メートルぐらいだろうか、直線の終わりは直進する道もあるが直角に曲るカーブになっていた。カーブを過ぎた所でタイムを確認するとここまで15分ぐらいだった。

 カーブを過ぎると緩い勾配の坂になっていた。そこは20キロぐらいで北野さんについていく。なんかロードバイクに乗っていてママチャリに引いてもらうのも微妙な気がするが、北野さんを抜き去ることはできなそうなのでついて行った。数分後、北野さんが下がり俺たちの後ろついて。

「鳥居を過ぎると下り坂だ。最速ポイントで奥のカーブの先は見えないけど、減速しないで突っ込んで大丈夫だから、レースの時は減速すると、後ろから突っ込まれるから注意な!」

「はい!」

「あとスピードが出るから周りも気をつけてな!とっ、鳥居が見えてきたぜ!」

北野さんは鳥居の手前でダンシングで俺たちを抜き去る。俺たちもダンシングして加速する。橋の辺で40キロぐらいになる。赤城では出ないスピードだ。そのまま緩い右カーブに入る。北野さんは体を小さくして、空気抵抗を減らしているようだ。俺たちは後ろに付いているが、頑張れば抜けそうなきがした。これがママチャリの限界か?

 カーブを過ぎても平坦だっが、すぐにまた登り坂になって、ギヤをインナーに落とした。少し登ると丁字路になっていて突き当たりにフランスの国旗が描いてある看板が見える。ここも激坂だ。

 登り切ると、平坦で、また、北野さんがダンシングで加速する。一息つく間もなく、俺たちも続く、結城が

「本当にママチャリか?電チャリじゃ」

「本当、速いや、付いていくのが精一杯だ」

ちぎられないように必死にペダルを踏んだ。少しアップダウンがあるがこの平坦区間はタイムを縮めるポイントかも知れない。やがて左側に白い小屋が見え、また坂に入った。なんと変化に富んだコースなんだろうか、ひたすら登る赤城とは大違いだ。

 平坦は無くなり、急な坂が続く、勾配は10%強か、スピードは落ち、何かの修行の様だ。ひたすら登ると途中に古い民家風の飲食店があった。そこは少し勾配が緩くなって、一息つけるかと思ったが例によって、北野さんがダンシング。

「あと少しで榛名神社だ!がんばれ」

「はいっ!」

と答えて、頑張って登る。やっとわかってきたが、やっぱりママチャリとロードバイクは登り方が違うのではないか?

 ヒルクライムのイメージは頑張って坂を登り、平坦区間は息を整えてた方がいいんじゃないかと思っていた。でも、平坦区間で飛ばした方がタイムが縮まるんじゃ?でも急加速は体力を消耗する。理想的には平坦区間前の坂は息が切れないようにして、平坦区間の手前で少しだけ加速して、スピードを乗せて走るのがいいのかな?

 結局、心拍数がなるべく一定になるようにしたらいいんじゃないかな?でもそれがなかなか難しい、パワーメーター欲しいかも。

 そんな自己問答していると激坂になり、やがて大きな鳥居が見えてきた。必死に踏んでなんとか鳥居をくぐる。直進は神社の参道でハルヒルのコースは左らしい。また、北野さんが飛び出すと思ったら

「この先がハルヒル名物の激坂だ」

「えっ?これまでは激坂じゃなかったんですか?」

と俺が答えると、結城が

「この先、鬼きつかった!」

 スタートから40分、激坂が見えてきた。壁⁈と思える坂が続いている。坂に入るといきなり激坂、ギヤをインナーロー、一番軽くして登る。きつい、ケイデンス(一分当たり片足のペダルを踏む回数)が60以下、スピードも10キロ以下になる。なかなか終わりが見えないし、進まない、けどペダルを踏んでいれば必ず進む、終わりはあるはずだ。そう自分に言い聞かせペダルを踏む。北野さんもここは抑えているようだ。

 やがて、右手に一軒家が見えきた。そこを過ぎるとやっと坂の終わりが見えきた。橋の所でこの坂は終わるようだ。時間にして五分ぐらいだと思うが永遠に思えた。

 橋の所にたどり着くと、また北野さんがダンシングで加速する。楽しそうだ。

 俺たちはすぐには反応せずに息を整えてから加速する。短い平坦区間の終わり、左カーブ内側が急になっていた。うっかりするとそっくり帰りそうだ。カーブを過ぎると、また、激坂、さっきよりはましでなんとか10キロぐらいのスピードで登る。

 大きな連続したヘアピンカーブを超えると、勾配が少し緩くなった。この先は九十九折りになっているようだ。赤城の後半に似ている。残り1.5km、1kmと看板があり、もう少しだ。頑張って登る。途中、しめ縄が巻かれた大きな岩が見えた。看板に「男根岩」と書いてある。「男なら頑張れ」と力を振り絞る。北野さんが。

「あと少しだ頑張れ!」

と叫ぶ、左カーブ、また、内側がキツくなっている。というか、その先は激坂だ。最後が激坂かよ!心が折れそうになる。でも、あと少し、赤城なら最後はダッシュするんだが、ここは無理そう。ゴール地点の天神峠なんだろうか?ゲートが見えてきた。北野さんは30メートルぐらい離れている。俺は結城についている。北野さんがゲートをについた所でガッツポーズ、俺たちはそのままゲートを越える。タイムは58分だった。突き当たり、観光案内の看板前は駐車スペースがあって、バイクラックが見えた。北野さんはそこに自転車を止めた。俺たちはその傍に自転車を止めて、ハンドルに肘をついて、ハアハアしていた。北野さんが

「どうだ?一時間切ったろ、しかし、初めてで一時間切るとはすげーな!」

俺は、

「ハアハア、北野さんのおかげです」

「あざっす!でも、北野さんについて行くのは、余計に体力が削られる気がしました。

「アハハ!よく言われるよ。やっぱ、ロードとは登り方が違うのかな?」

「それにしても、あの激坂、よくママチャリで登れますね、それに平坦になると、俺なんかは休みたいと思うけど、いきなりダンシングで加速するんですね」

「あー、それはママチャリは重いので坂は不利なんだ。だから、坂は体力温存して、平坦で頑張るんだ」

俺はその体力温存して登るママチャリについて行くのが精一杯なんだが。

北野さんと話しをしていたら、速そうなおじさん達がが上がってきた。おじさん達は北野さんに挨拶をした。どうやら知り合いの様だ。俺と結城は邪魔にならないように帰ることにした。

 帰りはハルヒルのコースではなく、伊香保温泉側の道で帰ることにした。俺たちは北野さんに分かれてをつげ、榛名湖畔に向かう。榛名湖はカルデラ湖でハルヒルのゴール、天神峠から湖畔までは下りで湖畔に降りると榛名神社の向こうに榛名富士が見える。まだ、観光シーズンではないので人影は疎らだ。俺たちは公衆トイレで連れションしていると、結城が

「北野さん、速かったな、次は絶対、負けないぜ!」

「まあ、ママチャリに勝っても、自慢にはならないけどな」

用を済ませて、湖畔のベンチで少し休み、伊香保温泉方面に向かう。湖畔を過ぎて、ひたすら直線の道を走る。直線の最後は登り坂になっていて、地味に体力を削る。登り切ると広くなって、駐車場がある。ここは昔、有料道路の料金所があり、某自動車バトル漫画の聖地だ。

 下っいくと、遠くにまだ雪が残っている山が見えで眺めのいい道だ。前橋の街の手前、利根川までずっと下りで楽だ。

 途中、結城と分かれて、いつもの桃の木サイクリングロードで家に帰った。


 明日は、唯が坂に挑戦する。どこまで登れるだろうか?鳥居まで上がることが出来ればいいんだかけど。

前は参考にしたママチャリダーより、速かったけど、最近はタイムが落ちる一歩だ。歳なのかなぁ

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