七話 ミーティング
結城とのバトルの翌日、俺は昼飯を食べたあと、自宅のリビングでノートパソコンを開いて、唯のダイエット計画を練っていた。妹は店の手伝いをしているのでしばらくは来ないだろう。
「ピンポン♪」とインターホンの呼び鈴が鳴る。おそらく唯だろう、俺は玄関に向かう。ドアを開けると、予想通り可愛い唯がいた。今日はスポーツウェアではなく、基本ピンク色でミニスカートにニーソだった。ロードバイクではなくてママチャリで来たようだ。
「こんにちは、お邪魔します」
「やあ、わざわざ来てくれて悪いね」
「いいえ、わたしこそ、色々、お世話になってます。あっ、これ、おやつにどうかなと思って」
とにっこり微笑んで、お菓子が入っていると思われる紙袋を差し出した。
「あっ、どうも、気を使わなくていいのに、まあ、散らかってるけど、上がって」
俺は唯をリビングに案内して、ノートパソコンが置いてあるテーブル後ろの三人掛けソファーに座ってもらった。リビングと繋がっているキッチンに行って、紅茶と唯に貰った焼き菓子を皿に盛って、リビングに戻り、お菓子と紅茶をテーブルに置いて、唯の右隣に座った。
「じゃ、始めようか、唯は真面目にサイクリングロードとか走って、だいぶ自転車に慣れてきたみたいなので、そろそろ本格的にトレーニングを初めてもいいと思うんだ」
「はい」
「まず、ネットで調べたんだけど、コレ見て」
と唯にダイエット関連のサイトを見せる。
「まず、自転車で痩せる方法なんだけど、自転車に限らず、運動で痩せるというのは、運動でカロリーを消費するという事、で例えば脂肪を1キロ落とすには7000キロカロリー分運動する必要があるらしいんだ」
「はい、でも7000キロカロリーって?」
「そうだね、ピントこないよね。例えば、赤城山を下から上まで上がると、体重にもよるけど、だいたい1000キロカロリーなんだ」
「わわ、大変そう、10キロ痩せるには、えーと70回もですか⁈」
「まあ、単純にはそうなんだけど、体重は脂肪だけじゃなくて、水分とかもあるから、特に塩分が曲者らしい、家はラーメン屋だけど塩分が多いので要注意なんだ」
「美味しいですよね、お兄さんちのラーメン」
「ありがとう。で、だいたいダイエットは月に1キロぐらいの目標が無理のないダイエットだと思うんだ」
「月に七回、赤城を登らなくちゃなんですか?」
「まあ、それもありなんだけど、いきなり赤城というのは無理だと思うよ」
「じゃあ、どうしたら?」
「例えば、一カ月、二十日、トレーニングしたとしよう。7000割る20だから」
俺はパソコンのキーボードを叩いて。
「えっと、一日当たり350キロカロリーでいい事になる」
さらに、インターネットで自転車を一時間漕いだ時の消費カロリーを調べる。
「えと、平坦な道で時速20キロぐらいだと400キロカロリーだって」
「あっ、それなら、お兄さんに言われて始めたサイクリングロードのトレーニングと同じくらいです」
唯はにっこり微笑んで続ける。
「うふふ、実は最近、体重が減り始めたのですよ」
「だろ」
「ありがとうございます。お兄さんのおかげです。でも、もっと頑張らないと」
「あっ、そうだ、女の子に体重のこととか聞くのは失礼だとは思うんだけど?」
唯は少し考えて。
「そうですね、もちろん恥ずかしいけど、ダイエットのコーチしてもらっているので教えます。自転車乗り始める前が一番太っていて、その時、68キロで、流石に70キロ超えたらまずいと思って、唯ちゃんに相談したんです」
「ちなみに俺は80キロまでいった。今は58キロぐらい」
「わわっ、想像出来ませんね、その頃こっちにいなかったし」
「そう言えば、中学の時は引越してちがう学校だったんだっけ?」
「はい、おばあちゃんの家にいたのでが、おばあちゃん、入院しちゃったし、退院しても施設みたいで、本当はこっちに呼べればいいんですけど、お母さん、仕事忙しいし、家、お父さんいないし」
「ああ、そうだったね、寂しくない?」
「ええ、大丈夫ですよ。一緒には住んでないけど、近くに、お父さんのお父さん、おじいさんの家があるし、最近はゆかりちゃんとお兄さんが優しくしてくれるし」
「ハハ、なんか照れるかな、で話を戻すけど、一応、目的の体重は?」
「特にはないですが秋までには10キロ落としたいです」
「えーと、四月から八月だから五ヶ月で10キロ、月2キロだね、ちょと頑張らないと、でも俺の減量ペースもそんな感じだったから、なんとかなるかな」
「頑張ります。でも10キロ痩せても、お兄さんと同じだなんて、ちょっと複雑です」
「まあ、俺も去年の秋はまだ60キロ切ってなかったから、それで俺はこのアプリ使っているんだけど」
俺は自分が使っているスマホを唯に見せる。
「大手のサイクリングコンピュータメーカーはこう言ったアプリを提供していて、今日はどこにサイクリングいって、何キロ走ったとか、消費したカロリーはいくつだったとか、もちろん体重の変化も記録できるんだ。唯のサイクリングコンピュータ、略して、サイコンもアプリと連携できると思うよ」
「知りませんでした」
「それで、ほらパソコンでも確認できるんだ」
唯は俺の方に体を近づけて、パソコンの画面を覗きこんだ。
「なんかグラフとか、色々なデータが並んでますね、この推定パワーってなんですか?」
さらに唯がくっついてきて、意識してまう。
「あっあ、コレは車でいう馬力とかワットとかと同じでペダルを踏んでいる力をしめすんだ。本当はパワーメーターというセンサーがあれば正確なデータが分かるんだけど、高いから」
「いくらぐらいなんですか?」
「安いのは3万円ぐらいからあるんだけど本格的なのは10万円以上するんだ」
「自転車が買えてしまいますね」
「まあ、欲しいけどヒルクライムは心拍計があれば大丈夫」
「心拍計ってスマートウォッチについている機能ですか?」
「そう、だけど、サイコンにつながるやつがいい、五千円くらいあるから、買っおいた方がいいよ。とりあえずは俺の予備があるからそれを貸してもいいよ」
唯は俺を見つめて。
「あの?お兄さんのドキドキを測っている物ですか?」
じっと見つめる唯が近い、なんかぎゅっと抱きしめたい願望がムラムラと沸いてきた。やばい!と思った瞬間、「ガチャン」とドアが開いて、妹が入ってきた。
「はーい!二人とも、くっつきすぎ」
唯は慌てて、腰をずらして俺からはなれた。
「もうッ!唯ちゃん、にいちゃんはHなんだから、危ないよ!」
「ゆかりちゃん、大丈夫です。お兄さんは真面目にアドバイスをしてくれているだけです」
それから、妹の監視のもと、今後のトレーニングについて話合った。
ダイエットの目標を月2キロとすると、サイクリングロードを走るくらいだと、難しいし、俺は平坦は好きではないので、そろそろ坂を登るのをトレーニングに取り入れる必要がある。坂を登るには一定ペースを守ることが重要だ。そのためには、心拍計を利用した方がいいので、使い方を教える必要がある。今日はロードバイクで来てないので、次のトレーニングの時にアプリのセットアップや使い方を教えることにした。
また、トレーニングの結果や体重の管理もアプリで管理することを勧めた。
後半は、三人でお菓子と紅茶を飲みながら、入学式のこととか、近藤輪業のおねいさんはカッイイよね、にいちゃんと親しそうなんだけど、どういう関係なの?とかそんな雑談をして過ごした。
その日の深夜、一階の自室で寝ていると、誰かが二階から階段を降りてくる音で目が覚めた。誰かトイレか水を飲みに降りてきたのかな?とか思ったが、足音は俺の部屋の前で止まり、静かにドアを開けて、部屋に入ってきた。「ああ、またか」と思っていると、俺の寝ている布団に入ってきた。
「どうした?」
「お父さんとお母さん、激しくて、気になって眠れなくて、終わるまで少し寝させて」
「お父さんたち仲良しなのはいいけど、年頃の娘が隣りで寝ているんだから、少しは静かにやってほしいよな」
「わたし、妹が欲しいな」
「弟は嫌だな」
妹は明るくてしっかりしているようだけど、寂しがりやで甘えん坊だ。両親の仕事上、幼いころは夜は一緒に寝ていた。
俺が中学生になるのと、妹も女性として成長してきたので、別々の部屋で寝る用になったが、たまに布団に入りこんでくる。妹は仰向けで寝ている俺を抱き枕の様にして、絡みついてくる。俺が妹の頭を優しく撫でてやると、子猫の様に顔を俺の胸に擦り付けてきた。
俺はちょといたずらしたくなって、妹のお尻に手を伸ばして、中指でお尻の割れめに沿って撫でて、最後に押してみた。妹はお尻をキュッと閉めて。
「やっぱり、にいちゃんはHなんだから」
そのまま、何事も無く寝てしまったようだ。朝、「チュン、チュン」という鳥の鳴き声で目が覚めたときには、妹はもういなかった。これが「朝チュン」?お尻を触っただけだから、ちょっと違うかな?
さて、朝練しなくちゃ
ちょっと⁈
いいの?
大丈夫、
これは妄想だから(^^)