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六話 ライバル

 唯とお花見に行った翌日、俺は早朝、いつものように、一人で赤城山を自転車で登っていた。春休みは一日おきに登る予定だった。その日はあまり強度を上げずないように心拍数を160前後で登っていた。何故かは分からないけど150以下だと楽しくない、170を超えるとやや苦しくなるがなんかハイな気分になって楽しい、180までなら一時間は耐えられる。去年の赤城山ヒルクライム大会の時の平均心拍数は178だった。最近はそれより低い心拍数でも同じくらいのタイムになったので、少しはレベルが上がったのだろうか?

 春とはいえ、まだ肌寒い、俺は長袖のサイクルジャージにビブタイツ、登っている時は寒さを感じないが、下りは寒いので冬用の手袋やネックウォーマーをバックポケットに入れている。

 料金場跡をすぎての長くほぼ直接の坂で後ろから自転車で上がってくる気配を感じた。ドロップハンドルの端末につけた小さなバックミラーで確認すると、少しづつ差を詰めてくる。なんか見覚えのある感じがした。俺に追いつくとそいつはすぐ後ろについて、息を整えて抜きにかかる。そのまま前に出るのかと思ったが横に並んだ所で。

「おはようっす!」

「ああ、お前だったか、おはよう」

そいつは挨拶だけして、俺を抜かずに、下がって、また俺の後ろに付いた。

「高梨ぽいと思って、追いかけたら、やっぱりそうだった。調子はどうだい?まだ、本気じゃないみたいだけど」

「まあ、今日はサイクリングモードだよ」

こいつの名前は結城数馬、同じ高校の同級生で数少ない自転車繋がりの友人である。何度か一緒に走った事があるがこいつはサッカー部に入っているのでなかな時間が合わないのと、俺は一人の方が好きなので、俺から誘うことはない。

 結城は俺をライバル視していて、なにかと絡んでくる。多分、去年の赤城山ヒルクライム大会で俺に負けた事が相当悔しかったのだろう。


 去年の九月末の大会当日、俺と結城は一緒にスタートした。俺は初めての大会参加で完走が目標だったので、スタートしてすぐは無理をしないでマイペースで走ったが結城はスタートから飛ばして、すぐに見えなくなった。 

 俺は自分より少しだけ速い感じの人を見つけて、その人を風避けにして登った。自転車は風の影響が多いので人の後ろについた方が空気抵抗が減って少しだけ楽になる。前の人に付いて足を休め抜けそうだったら抜く、逆に付いて行けそうもない時は下がる。さっき俺を抜いた人が下がってきたり、逆に抜いた人に抜き返されたり、その繰り返し、周りの人達はあまり変わっていない感じがした。

 料金場跡を過ぎて、坂が急になってくると、一緒に走っていた人のペースが変わりバラけてきた。俺は淡々と自分のペースで登った。 

 姫百合駐車場を過ぎて九十九折りの区間は変化があって楽しくてペースを上げた。最後の給水所を超えた所で結城の姿が見えてきた。じわじわと結城の後ろに近いて、すぐ後ろまできたところで一声かけてから抜こうと思ったが、結城をよく見るとかなり息が荒くなっていて、

汗だくで苦しそうだった。俺は声をかけるのをやめて、しれっと抜いた。

 ゴールまで1kの標識が見えてきた、もう体力を温存する必要はない、全力全開でペダルを回す。そしてゴール、サイクルコンピュータでは一時間二十分を過ぎていた。

 ゴールを過ぎて息切れしていて苦しかったが、大会スタッフが「止まらず進んでください」と案内してるので指示に従って進んだ。ゴール地点の観光案内所をでて、赤城大沼湖畔の駐車場へ下山用の荷物受け取りに向かった。ヒルクライムは少しでも軽い方が楽なのでウィンドブレーカーなどの防寒具を上まで運営スタッフが運んでくれる。

 荷物を受け取り、ウィンドブレーカーを着たり荷物をまとめたりしていると、結城がやってきて。

「くそっ!飛ばしすぎた!」

「よう、おつかれ」

「まいった、お前に負けるとは、次は絶対、負けねーぞ!」


そんな感じで去年の赤城は終わった。ちなみに結城のタイムは俺から一分遅れで大差は無かった。

 

 そして今日、しばらく俺の後ろで走っていた結城が姫百合駐車場手前にある食堂近く、そこは緩やかで道幅が広くなっている所で俺の左側に入ってきて。

「なあ、このままで淡々と登るのはつまらないので、勝負しようぜ!」

 確かに二人で争って登るのも実戦ぽくて面白い。

「よしきた。やろうぜ」

「負けたら、ソフトクリームな!」

「おお、だけど負けないぞ!」


 俺たちはペースを上げた。姫百合駐車場付近の平坦区間でボトルの水を飲んで気合いを入れて戦闘モードに入れた。始めに出たのは結城で俺は様子を見ることにした。数分後、カーブの間が長く、勾配のあるところまで来た所で結城を見るとハイペースではあるがまだ余力を感じた。こいつ去年の大会の用にオーバーペースで潰れるようなことはしないのか、少しは学習しているようだ。このままだと、最後にアタックして突き放される可能性がのある。こいつは体力はあるので油断は出来ないので、少し揺さぶりを入れた方が良さそうだ。

 そう思って、ダンシングで加速して前に出る。数十秒間、全力でペダルを漕いで様子を見る。結城は少しペースを上げたが追従はしてこない。このままだと、持たないので足を緩める。結城はじわり俺との距離を詰め、少しだけ後ろにつくと今度は抜き返してくる。その繰り返しで大会だと給水所が設定される「一杯清水のバス停」を過ぎて、最後の九十九折り区間に入る直前で、後ろにいた結城がゆっくりと俺を抜きながら。

「なあ、昨日、女の子と、お花見したろ!ああいう感じが好みなのかぁ!」

「ただの幼なじみ、だよ!」

なんか馬鹿にされた気分になり、ダンシングで結城を抜いて、さらに加速して結城を引き離す。しかし、ゴール手前1kで追いつかれた。結城は小判鮫のようにベッタリ貼り付けている。まずい、もうアタックする力は残ってない、ゴール手前の直線まで来た時、結城は俺の前にでてフル加速する。俺はそれに反応出来なかった。やられたと思った。十メートルぐらい差をつけられた。観光案内所に付いて、バイクラックに自転車を引っ掛ける時に結城が。

「幼なじみなんだ。サイクリングロードを走っている時にお前たちが見えんだ。離れていたし、ちらっとしか見えなかったけど、いい感じで、羨ましかった」

 俺は話をかえたくて。

「まあ、負けたからソフトクリーム、おごるよ」

「まだ、売店、開いてないんだけど」

「あっ、ハハッ!そうだなまだ寒いし」

「今は暑くなってるので、食べたいけどな」

「まあ、自販機のドリンクでいいか」

俺は自販機にコインを入れて。

「お好きなのをどうぞ」

「じゃ、遠慮なく」

俺たちは飲み物を買って、近くのベンチに座った。そこは先生にキスされた場所だった。一瞬、その事がよぎったが。

「高梨はさ、いつもはボーとしてるけど、登っている時はなんか燃えていて、違うよな」

「まあ確かに、基本はオタクだし」

「でも、見掛けは筋肉質でスポーツマンぽくて、カッコイイし、女の子にモテるんじゃね」

「いいや、サッカー部のお前の方がモテるんじゃない?」

「まあね、でも、今まではサッカー一筋だったから、だけど、お前を見習って、青春したいかな」

「だから、幼なじみだって」

「ふーん、そうなんだ。ところでハルヒルは練習している?」

ハルヒルとは、榛名山のヒルクライム大会で五月に開催される。俺は今年、初めてエントリーした。

「まだ、ハルヒルのコースは走ったことないんだ」

「そうか、俺は一回、いったぜ、今度、行こうぜ」

「ああ、春休み中に一回、行っとくか」

 結城と少し話をして、坂を下りながら、唯の事を考えた。唯は太めではあるが可愛いし、性格も好きだし、胸も大きいし、恋愛対象にしたいところだけど、好きな奴がいるし、多分、俺のことは友達のお兄さんぐらいとしか、思ってないんだろうな。だから俺も妹の様に接して、恋愛対象として見ないようにしなくてはいけないな。でも、妄想ぐらいはいいよね。そんなことより、明日のミーティングの事を考えなきや。

やっぱり、バトルは燃える。

でも、いちゃいちゃも描きたい

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