五話 お花ライド
春休みになった。
桜が見頃になったので、トレーニングを兼ねて、唯とお花見に行くことにした。妹も誘ってみたが、「店の手伝いがあるからお二人でどうぞ」とのことだった。俺も手伝うことがあるが、人手的に二人で手伝うと手が余ってしまうので交代で手伝うことが多い。
朝、いつものサイクリングロードのスタート地点で唯とおち合う。唯はサイクルウェアではなく、ピンク色のスポーツウェアでかわいい。
「おはようござます♪今日は天気が良くてお花見日和ですね、早起きしてお弁当を作ったんですよ」
「へー、それはすごい」
「うふふ、楽しみにしてくださいね」
「じゃあ、今日は南に行ってみようか」
俺と唯は一旦、河川敷のサイクリングロードから土手を上がり、一般道を渡って、桃の木川と合流する広瀬川のサイクリングロードに入った。
「ここは通ったことある?」
「ええ、伊勢崎まではあります。それで、今日はどこまで行くんですか?」
「利根川まで行ってみようと思う。往復30kぐらい」
オートレース場をすぎて少し走ると桜が沢山咲いている公園が見えた。
「わー桜、綺麗ですね」
「そうだろう、ここでお花見しようと考えているけど、まだ、走り始めたばかりだから、お花見は帰りにして、もう少し走ろう」
「お楽しみは後ですね」
サイクリングロード脇には桜や菜の花が咲いていてなかなかいい眺めだし、道も基本的に交差する一般道の橋の下をくぐるので信号がなくて走りやすい。ただ、サイクリングロードは並走禁止なので、あまり会話が出来ないのは少し残念ではある。女の子と一緒なのでなおさらだ。それに唯は俺の後ろを走っているので姿が良く見えない、だけど逆に唯の後ろだと少しムラムラらして、恥ずかしいので前を走る。
1時間ほど走ると市街地を抜け田園が増えて、広々としてきた。
「あと少しで利根川と合流するよ」
「なんか景色がいいし、風が気持ちいいですね」
利根川と合流した所に公園があり、今日のライドの折り返し地点とした。公園で利根川の眺めが良さそうなベンチ近くに自転車を止めて。
「ここで休憩して、折り返そう」
「はい、ここ結構、景色いいですね、桜も少し咲いてるし」
「まあ、花見の名所というわけじゃないけど」
「でも、人が少なくて静かだし、日差しも暖かいし、気持ちいいですね」
俺と唯はベンチに座って、
「ホント、春だね、気持ち良くて寝ちゃいそうだ」
「眠いんですか?」
「実は、おそらくまでアニメ見ていて」
「そうなんですね。そう言えばお兄さんアニメ好きなんですね。どんなのを見ているのですか?」
異世界ハーレムとは言えなかったけど。
「異世界転生ものかな?今は引きこもりが異世界に転生して、赤ちゃんからやり直すやつかな?」
「えーと、よくあるパターンですね。わたしも結構、観ますよ、異世界ものも見るけど、丸メガネでオタクの高校生が自転車レースをする話し」
「ああ、自転車乗りなので俺も見ている。まだ、連載続いているな、確か小学生の頃からやってるよね、あれで親父が自転車にハマって、無理矢理付き合わらたんだ」
「うふふ、その話、ゆかりちゃんに聞きました」
「そう言えば、その主人公みたいな人がママチャリで赤城山をよく登っているんだ。俺も何度か見かけたことがあるんだけど、ママチャリとは思えない速度で、一度、ぶち抜かれたことかあったよ」
「へー、すごくですね」
「まあ、俺が遅いだけなんだけどね」
その後、アニメの話とかしていたが、寝不足なのと、日差しがポカポカなので、睡魔に襲われて、大きなアクビが出てしまった。
「眠くなりました?」
「うん、少しだけ横になってもいい?」
そういうと、唯はにっこり微笑んで、太ももをパンパンと叩いて、
「じゃあ、どうぞ、私の膝枕、評判、いいんですよ」
と言って太ももを差し出した。一瞬、戸惑いはしたけれど、どうせ唯は俺のことを異性は思ってないのだろと納得して、お言葉に従うことにした。唯の太ももはとても柔らかくて気持ち良く、すぐに寝てしまった。
グーというお腹がなる音で目が覚めた。
「んっ?」
と唯に膝枕してもらっていたのに気がついて起き上がる時に頭の後ろに柔らかい感触が。
「キャ⁈」
と小さな悲鳴が、どうやら唯の胸に当たった様だ。
「ごめん」
「ううん、わたしこそ、お腹がなって、起こしちゃいましたか?」
「あれ?結構、寝ちゃった?」
「いいえ、1時間くらいですかね、うふふ、気持ち良さそうに寝てましたよ」
「あれ、結構、寝ちゃったな」
時計を見ると、もう少しでお昼の時間だった。
「お腹空いちゃった?」
と聞くと恥ずかしそうに。
「ちょっと」
「ホントは桜が沢山咲いていた公園でお昼にしようと思っていたけど、ここでもいいかな?」
「そうですね、ここも結構、いいですよ」
「桜も咲いていない訳ではないし、まあ、ほとんど葉っぱだけど」
この公園の桜は河津桜だった。
「じゃあ、お弁当の準備しますね、ここより、テーブルのある所がいいですね」
と唯はお昼の準備を始めた。唯が作ってくれたお弁当はおにぎりとだし巻き卵、それにブロッコリーとにんじん、ウインナーなどを炒めた者だった。
「どうですか?足りるでしょうか?」
「うん、十分だよ」
「本当はもう少し作ろうと思ったけど、重くなっちゃうから、あの、どうぞ召し上がって下さい」
「それじゃ、遠慮なく、いただきます」
おにぎりを一口、まだほんのり温かく、いい塩加減で唯の温かみを感じるようだった。次にだし巻き卵をいただく、出汁は上品な感じだし、ほんのり甘さを感じる。
「美味しいよ、料理、上手いんだね」
「よかった」
「誰かに、教わったの?お母さんとか?」
唯は少しだけ複雑な顔をして。
「ううん、おばあちゃんから教わったんです。
「へーそうなんだ。あれ?一緒に住んでいるんだっけ?」
唯は寂しそうに
「うーんとね、おばあちゃんとは、この間まで一緒にいたんですが体調悪くなって、入院しているんです」
「なんかそれは心配だね」
「いえ、年だし、仕方ないです。さあ、食べましょう」
おばあさんの事はあまり、触れて欲しくは無さそうだった。食事後、少しアニメや自転車のことを話して、サイクリングロードを戻り、桜が満開の公園に着いた。
俺と唯は自転車から降りて、花見をすることにした。園内は花見客で賑わっていた。そして、眺めが良さそうな芝生の所に自転車を横倒しに止めて、二人並んで腰を下ろした。
「綺麗ですね」
「うん、本当はここでお昼にしようと思ったけど」
「でも、さっきの公園も良かったですよ」
「利根川にもサイクリングロードがあって海まで行けるんだ。俺は途中までだけど親父は海まで行った事があるんだ」
「わー⁈すごいですね」
「まあ、帰りは電車で帰って来たんだけどね」
「あれ?自転車はどうしたのですか?」
「輪行袋という大きなバッグがあってね、バラして、輪行袋に入れれば電車に乗る事ができるんだ」
「へーそうなんですね」
「あっ、なんか今日はトレーニングというか普通のサイクリングになっちゃたな」
「えーそうですか?結構、走って疲れましたよ」
平坦とはいえ30kは初心者にはきつかったか。
「そう言えば、自転車には慣れた?」
「ええ、だいぶ慣れましたけど、お尻が痛いのはなかなか慣れません。お兄さんが履いているスパッツみたいなのにはなんかパッドみたいのが付いているみたいですが、それって楽ですか?」
「ああ、これは長いのでビブタイツ、確かに楽だけど、まったく痛くない訳ではないよ」
「わたしも、もう少し乗れるようになったら買おうかな、まだちょっと抵抗はあるけど」
「女性向けにスカートみたいなのもあるよ」
「そうなんですね」
「あっ、話が変わるけど、今後のトレーニングについてミーティングしたいんだ。パソコンとかいるので、出来れば家でやりたいと思うんだけど、いいかな?」
唯はなぜか恥ずかしそうに下を向いて、小さな声で。
「いいですよ」
「あれ?まずかったかな」
唯は今度はしっかりと俺の目を見て。
「いいえ、大丈夫です!」
「じゃあ、明日は午前中、自分のトレーニングで午後は家の手伝いなんで、明後日の午後イチはどうかな?」
「ハイ、わたしも大丈夫です」
「じゃあ詳しい時間はLINEするから」
花見から帰って、自転車の整備をしていたら、妹がきて。
「お花見、楽しかった?」
「ああ、綺麗だった」
「唯ちゃん、明後日、家にくるんだって?部屋に連れ込んで変なことしちゃダメだよ」
やっと5話
俺も女の子とお花見ライドしたい。