夏のロングライド
凛とイベントに参加した翌日は疲れてはいたけど、午前中は唯と赤城に登って、午後は唯の家でのんびりした。
その翌日は夏休みも残り少なくなってきたし、毎回、赤城では流石に飽きるので気分転換に遠出をしてみる事にした。
自宅から大胡を抜けて、唯たちとお花見をした千本桜まで上がって、国道を東に走った。そう言えばお花見に行ってから色々な事があった。凛と仲直り出来たし、唯と仲良くなれたし、ゆかりとも前より良好な関係になった気がする。そう言えば一番、変わったのは唯だ。三月にゆかりが連れてきた時はだらしない感じだった。俺的にはあれはあれで可愛いと思ったけど、今はスタイル的には学校で一番と言ってもいいだろう。
少し国道を走って、うどん屋さんの所を左折してゴルフ場方面に上がった。ゴルフ場脇は真っ直ぐで結構な坂だった。いつもなら、パワーを上げて駆け上がりたい所だけど今日はロングライドなのでパワーを抑えて登った。
登り切ると九十九折りの下りになって、温泉宿が見えた所を右折した。ここはずっと前の冬に家族できた事がある。崖沿い氷柱が出来る場所だ。
細い道で急な坂を下る。真夏だけど朝で森林の中なので涼しかった。
下り切って国道を左折した。渡瀬川沿いの国道は基本的には登りだけど緩やかで下りもあるので走りやすい。ただ、山の中なのにトラックや自動車が多いし、結果飛ばしていて、追い越される時は怖い、
夏休みはもう少しで終わってしまうけど、一日おきぐらいで赤城を登っている割にはタイムが縮まっていない、この辺が限界なのかと思う事もあるけど先生が「夏は暑くて、なかなかタイムはちぢまらないけど、続ければ必ず速くなるから」言っていたし、それを信じてトレーニングを続けている。体脂肪は落ちているし、筋肉もいい感じなので涼しくなる頃には速くなるかもしれない。
あと学校が始まると頻繁には凛や唯と一緒にいられる時間が少なくなる。特に唯とは週一ぐらいしか二人になれない、最近は綺麗になった唯を愛でるのが癒しになっているし、と少し一緒の時間を作りたい、それにしても、男子から注目を集めるようになった唯を作り上げたのは俺なんだと思うと誇らしい、まあ、トレーニングを続けた唯の努力なんだけどね。
色々考えながら走りダムサイトについて一回目の休憩を取る事にした。休憩と言ってもトイレだけだけど、午後はカーブの頂点に駐車場の出入り口があって、見通しが悪くて注意が必要だ。
そして、草木湖の脇を走る。コンビニや美術館を通り過ぎた。
ロングライドは草津以来か、でも帰りは輪行だったし、100Kちょいなのでロングライドとは言えないかな?一番のロングライドは去年の秋に赤城を登って、下って榛名山を伊香保温泉側から登り、ハルヒル のコースを下って、妙義山に登って帰った時だ。所謂、上毛三山という山を一日で走った。実際は榛名と妙義の間には峠があるので四つ山を登る感じだ。最後の妙義は急な所もあったけど、短かった。それでも疲れてやっと登った感じだった。そして、帰りの国道は基本的に下りなので自動車の流れに乗るような感じで調子良かった。それでも200Kには届かなかった。それと帰りが遅くなったので、ゆかりが心配して、怒られたっけ、
トンネルを超えて、栃木県に入った。地形的には宇都宮や日光からは険しい山を超えないと入れないので群馬のような気がするけど、
足尾銅山の町には入らないでバイパスを登った。バイパスを超えて信号を右折すると両側の山が近くなっきた。
そして、日光へ抜けるトンネルの手前で止まった。トンネルは長くてトラックがビュンビュン走る脇を通るのは怖い、旧道もあるけど道が悪いようなので夜間用のライトを付けて、テールライトの確認をして決心の覚悟でトンネルを走る準備をしていると後ろからロードバイクが近づいて来た。
「すいません!トンネルが怖いので一緒に走って貰えないでしょうか?」
そのロードに乗った人は女性だった。途中で抜いた記憶がないので、もしかすると速く人なのかもしれない。
「いいですよ」
「ありがとう」
と言う事で一緒にトンネルを走る事になった。女の人もライトを準備し、背中には反射するタスキを被った。トラックが走った後に車が走ってくる気配が無かったのでスタートした。トラックはゆっくりだったのでついていけたと言うか、引っ張られる感じだ。車の音が響いて怖いのでついついスピードが上がっしまった。女の人を確認するとピッタリ後ろについている。やっぱり速い人のようだ。
トラックに余り接近すると危ないのであまり接近しないように注意した。けど、後ろから自動車が来るし、煽ってはいないのだろうが、音がすごいのでついついスピードを上げてしまう。スピードはあまり確認しなかったけど40キロを越えて、心拍数も上がり、ヒルクライムでタイムアタックしてるぐらいの強度でトンネルを走った。距離は2キロちょっとだったけど、凄く長く感じた。
トンネルを抜けて「ぷふぁ」という感じで息を吐いた。なんとか無事にトンネルを抜けて、振り向くと女の人が親指を立て挨拶をした。
トンネルを抜けると下り坂で結構なスピードが出て緩やかだけどカーブもあって少し緊張した。
下り終わって橋を渡った信号を左折して、いろは坂方面に向かった。後ろの女性はまだ、後ろについてくる。川沿いの緩やかな坂を登り、駐車場に入った。
「君、速いね、付いていくのが大変だったよ」
「すいません、トンネルが怖くて、ついついスピードが出てしまった」
「あっ、それ分かる。で、ありがとうおかげ様で無事にトンネルを越せたよ」
トイレを済ませて戻って、少し休んでいると女の人が戻ってきた。
「君もこれからいろは坂を登るのかな?」
「はい」
「じゃあ、一緒に登らない?」
「いいですよ、じゃあ、レディファーストでどうぞ」
いろは坂を攻めたい気もするけど、今日はロードライドだし、アタックはやめて、女性と登るのも悪くないだろう。
こうして、女の人の後に付いて登り始めた。走り始めて左カーブを過ぎるといきなり坂が急になった。そして、女の人はダンシングで加速した。「えっ?」一瞬、反応が遅れたけど俺もダンシングで離されなように加速した。女の人は俺が追ってくるのを確認して、ニヤリ笑った気がした。「この人、速い、もしかして先生級かもしれない」こうなると本能的にアタックモードになってしまう。今まで後ろにいたので気が付かなかったけど、この人、太ももがかなり太い、もちろん筋肉なので「もしかして競輪選手?」「いや?、なんか違う」ペダリングは力強く、ケイデンスは低めだ。
速いけど、ついて行けないほどではない、少しして、「手信号で前へでて」ときたので加速して前にでる。その時、
「君、坂も速いね、思った通り」
その後、先頭を入れ替わりながら坂を登った。イロハ坂は一方通行で二車線あるので車は自転車を大きく避けて追い越ししていくので少し気が楽だった。やっぱりヒルクライムはギリギリが気持ちいい、それにしても、この人、唯者ではない。急な九十九折りが終わりなだらかになった所で女の人が速度を緩めて、
「ふう、楽しかったよ、疲れたからティータイムにしない、奢るから」
俺は「はい」と答えた。
坂は終わり景色の良いロープウェイの駐車場をすぎて、トンネルを抜けると高原といった感じになってきた。中禅寺湖はもう少しだ。
信号を右折してすぐに大きな鳥居が見えてその向こうに中禅寺湖が見えた。信号を渡って湖を見渡せる場所で女の人が写真を撮ってと言うので中禅寺湖をバックに自転車と一緒にスマホで写真を撮った。スマホを返すと「君も」と言って右腕を俺の肩に周して、左手を突き出して一緒の写真を撮られた。
「ふふ、ごめんね、君、可愛いくて、つい、じゃあ、お茶行こう」
「すいません、俺も写真を撮ってもらっていいですか?」
俺も写真を撮ってもらって、近くにあった喫茶店に入った。もしかして、ナンパされた?
喫茶店に入って椅子に向かい合って座ると女の人がサングラスを取った。年上だけど可愛い綺麗なお姉さんと言う感じだ。年は母さんより若い感じがする。そして鍛えてあげられた無駄のないスタイルだ。
「ねえ、君、お昼にはまだ早いけど、いろは登って、お腹すいたでしょ、パンケーキ食べるでしょ」
女の人がコーヒーとパンケーキを二人分注目してくれた。
「あっ、わたしは高山と言います。トンネルで一緒に走ってくれてありがとう、心強かったよ」
「僕は高梨です」
「高梨くんは高校生くらいかな」
「はい、そうです。速かったし高山さんは自転車の選手かなんかですか?」
「いいえ、元々はスケートやってたんだけど、引退してからはトレーニングで乗っていた自転車がメインになったのよ」
「そうなんですね、それにしても速かったです。僕は限界に近かったけど、高山さんはまだ余裕が感じられました。ヒルクライムの大会とか出た事はあるのですか?」
「ええ、フジヒルで入賞したよ、高梨くんは?」
「すごいですね、僕は地元が群馬でハルヒル と赤城に参加しましたけど、ぜんぜん入賞には届きませんでした」
「まだ、高校生だし、まだまだ伸びるよ、ところでロードに乗ってどの位?」
「本格的に始めたのは高校に入ってからで一年ちょっとです」
「そうなんだ、でも、基本はできてるし、誰かに教わっているのかな」
店員さんがコーヒーとパンケーキを持って来て、高山さんはコーヒーを飲み始めた。
「はい、家が自転車屋の学校の先生です。えと、女の人ですが凄く速くて」
「んっ?群馬だよね、先生の名前は近藤?」
「えっ?そうです」
「そうか、もしかしてと思ったけど、菜々ちゃんの教え子か」
「知っているのですか?」
「ああ、ヒルクライム大会でなんどか会った。二年前だったかな、フジヒルで一緒に表彰台に上がったよ、優勝は私の妹で二位が私、そして三位が菜々ちゃん」
「すごいですね」
「それにしても、偶然だね、菜々ちゃん元気?」
「ええ、この間は一緒に乗鞍に行きました」
「えっ?二人で?」
「違います。他にも学校の生徒が一緒でした」
「なんだ、君は菜々ちゃん好みかと思ったから」
「先生の好みですか?」
「菜々ちゃんは君みたいに鍛えがえのある体が好きだし、なんとなく君は母性をくすぐるし、で、私もお茶に誘っちゃたし、あっ!でも、安心して、私、これでも旦那と子供もいるから、それに三十代だし、君からみたらおばちゃんだし」
「いやそんな事ないですよ、若そうだし」
俺の母さんも三十代とは言わな方がいいだろう。
「ありがとう、でも、君はモテるでしょう」
「いやそんな事ないです」
「ふーん、モテると思うけどな、いい体してるし、あっ、ごめん、ほら、私は一応、スポーツ選手だったし、ついチェックしちゃうんだな、特に私はスピードスケートだったので、足が太くて、君みたいにロードバイクに適した体に憧れてしまう訳よ」
なんか高山さんの目つきが怪しい、
「ねっ、ちょっとだけ筋肉を触らせてくれないかな?」
「えっ?恥ずかしいです」
「大丈夫、横に座ればここは死角になるから」
高山さんは俺の横に座って、太ももの筋肉をまさぐった。
「くすぐったいです」
「あーやっぱりいい肉だわ、柔らかくて猫みたい、ちょっと力入れて、うん、硬くなった。ヒルクライマーの足だ」
「そうですか?」
「これじゃ、菜々ちゃんがほっとかないでしょ」
「いいえ、いつも揶揄われてばかりです」
「そうなんだ、うふふ、あっ、本当にごめんね、会ったばかりなのに菜々ちゃんに怒られちゃうから、内緒にしてね」
高山さんは下って、宇都宮の森林公園によって、宇都宮から輪行で帰ると言う事で中禅寺湖で別れた。
それにしても、高山さんと先生が知り合いだったとは自転車の世界はそ狭いのだろうか?
湖畔をのんびりと景色を眺めながら走る。戦場ケ原まではそれ程急な坂なかった。後は金精峠を抜ければずっと下りだ。足はさっき休んだし問題ない。戦場ケ原でトイレを済ませて走り始める。湯の湖を過ぎると勾配もぐんと上がってヒルクライムモードだ。峠までの距離は短いので全開で登り始めた。
カーブを幾つか過ぎるて、見晴らしが良くなって、勾配もきつかったのでギヤを軽くしようとしたら、「上がらない?」
「なんで?」下を見てギヤを確認するとまだ二枚残ってる。シフトすると違和感がする。安全な場所を見つけて自転車を止めた。確認するとリアディレイラーは問題無さそうだ。STIブラケットのカバーをめくると束ねてるワイヤーの何本かが切れて絡まっていた。シフトレバーを動かすとますます絡まって、シフトできなくなるかもしれないと思って、なるべくシフトしない事にした。
ギヤは重いけど峠を越えれば、後は下りだ。なんとか誤魔化して自転車屋まで走ろうと頑張って金精峠のトンネルを超えたけど、太ももがぱんぱんになった。
トンネルを越えると結構急な下り九十九折りの坂だった。金精峠は冬場は閉鎖されていて、春に開通する直前にヒルクライムのイベントがあるそうだ。遠くて自走するのは無理なので自動車に乗せてもらわないと参加は難しいけど、いつか参加してみたい。
スキー場の下まで下るとカーブが緩くなって坂もなだらかで快適に走れた。ただギヤはフロントだけしか切り替えられないので不便だった。
沼田までは少し登りもあったけどなんとか走り抜けた。途中、トイレ休憩で自販機のドリンクと水分補給をしたけどお昼も過ぎたし、疲れてきたのでガッツリとスタミナが付く物が食べたいと思った。ラーメン屋は時々あったけど、気分じゃ無かったし、焼肉屋は高いだろしと国道を下っていくと、カーブを抜けてふわっと、食堂が見えた。良くテレビに出てくるモツ煮で有名なお店だ。迷う事なく、後方の確認をし、一旦停止して道路の反対側にあるお店に向かった。国道なので交通量が多いし、カーブがあって見通しが悪いので駐車場の出入りに注意が必要だ。
自転車を停めて早速カウンターに座った。トラック運転手らしい仕事の人もいたけど平日なのにオートバイの人や一般の人も結構いた。お昼ご飯の時間帯は過ぎたのかわ空席は幾つかあった。
モツ煮定食を注文すると店員のおばちゃんが「量が多いけど、残さないでね」と言った。俺が「大丈夫です」と答えると、にっこり笑って「お兄ちゃん、若いから大丈夫か」と言って厨房の方に行った。
モツ煮定食はすぐ来た。どんぶりに山盛りのご飯だった。確かに普通の人だと残してしまうだろう。だけど俺は腹ペコなのでがっつくように食べ始めた。モツ煮は濃厚な感じで大盛りご飯に良く合っていた。ペロリ食べ終わるのを店員さんが見て嬉しそうだった。
満腹になって回復した感じだ。食べて少し休んだ方がいいだろうが、帰りに近藤輪業によりたかったので、水を一杯ゆっくり飲み干して食堂から出発した。
渋川の大正橋からサイクリングロードを走り、自動車の教習場がある所でサイクリングロードからでた。利根川の橋を渡って市内に入って近藤輪業に着いたのは三時過ぎだった。
店に入ると、先生が暇そうに店番をしていた。俺に気がつくと嬉しそうに近づいてきた。
「あれ?始業式まで待てなくて私に会いにきたのかな?」
「いいえ、自転車の調子が悪くて」
「なんだ、ガッカリ、森本さん、お願い」
すぐに店員の森本さんが自転車を見てくれた。
「あーワイヤーが絡まってるね、このくらいだとすぐ直るけど、STIの中で絡まっちゃうと大変なんだ。ワイヤー交換するから、ちょっと待って」
「お願いします」
「それじゃ高梨くん、お茶しよう」
そう言って、先生はお茶を淹れるに行った。俺は椅子に座ってお茶を待った。近藤輪業には修理を待つためとお客さんと話しをするために椅子とテーブルが用意されている。
先生はすぐに麦茶を自分のと俺の分を持って来て俺の横に座った。
「で、今日はどこかに行って来たのかな?」
「はい、日光のいろは坂を登って、金精峠を登っている時に調子が悪くなって」
「それは大変だったね、それで出会いとか無かった?キレイなお姉さんとか」
「あっ先生もしかして、高山さんから連絡来ました?」
「ふっふっ、きたよ、可愛い男の子に会ったって」
「一緒にいろは坂を登ったんですよ、高山さん、結構速かったです。まだ余裕あったみたいだけど」
「だろう、本物のアスリートだし」
「先生はフジヒルを高山さんと一緒に登ったんですってね」
「ああ、あの時は悔しかった。ずっと高山姉妹と協調して登ったけど、ゴール手前の坂でちぎられちゃった」
「それは、惜しかったですね」
「まっそれが実力だし、それで高山さんに触られなかったか?」
「えっ?そんな事まで連絡してきたんですか?」
「ふふ、あの人は筋肉フェチだから、いい筋肉を見るとこうして触ると言う癖があるから」
「先生、くすぐったいです」
「うん、良き筋肉に育ったな、これも私の指導の賜物だな」
「そっそうかも知れませが、高山さんはそんなふうに触りませんでしたよ」
「いいでは無いか」
「こら!菜々、いい加減にしないか」
と先生のお父さんに頭をコツンと突っ込まれた。
「済まないこんな娘で」
「いいえ、先生にはいつもお世話になっています」
「ありがとう高梨くん、これからも娘をよろしくな」
「はい」
先生は何故か顔を真っ赤にして固まっていた。
自転車を直してもらい、森本さんに八月最後の日曜日にクラブで赤城山ヒルクライムに誘われたので参加することにした。




