乗鞍合宿最終日
朝食を終えて、トレーニング後に直ぐ帰れる支度をしてチェックアウトとなった。チェックアウト後は荷物預かってもらい、お昼までなら温泉も使って良いそうだ。トレーニングの準備をして、外に出ると昨日は晴天だったけど、霧が出ていた。天気予報では降水確率40%と微妙な感じだ。
自転車に乗って観光センター駐車場に行くと昨日より人がいる。今日も先生の母校の自転車部員と合同だと朝食の時に先生が説明していた。俺たちは部員たちが集まっている所に行った。そして、三郎先生が
「今日は実戦を意識したトレーニングをします。とは言え、公道なので交通ルールは厳守で自動車を優先させて、追い越しは安全確保してね、後、追い越し以外は1列でね…」
その他、荷物は最後尾に走行を特別に許可された車が付いてくるのでそれに預ける事ができる。また、レースではないなで一斉にスタートではなく、5、6人のグループで順次スタート、グループ分けは三郎先生が適当にするそうだ。また、昨日と同じように一般参加の人もいる。
上までいく路線バスが出てからすぐに三郎先生が適当に「次は君、そして…」と言う感じで選ばれた人が順次スタート地点までいって、自転車部のマネージャーらしき人が1分おきぐらいで順次スタートさせていた。俺はやや後半のグループで昨日、一緒にゴールした部員さん一人とエキスパートグループにいた二人と知らないおじさん二人と中級のグループの一人と紅一点の先生だった。なんか怪しい感じだ。
「フッフッふう、やっぱり高梨君とバトルができて、嬉しいよ。わたしに勝ったらまた、チュウしてあげるからな、頑張れよ。まあ、それは冗談だけど」
「また、先生、揶揄わないで下さい」
「ハッハッはあ、おっ、スタートだぞ」
結城と凛は後のグループで初心者の唯とゆかりは昨日と同じグループで最後尾で走るようだ。
スタート後、エキスパートの人がいきなり加速する。俺は後ろの方に付いて追いかけたけど、早速、おじさんが一人、追走を諦めて五人になった。エキスパートの人は速いけど、後先考え無ければ付いていけた。先生は俺の前で真剣に走っている。五分ぐらいして少し落ち着いてきた。先頭の二人は入れ替わりながら前を引く、本当なら俺も前に出るのがマナーなんだろけど付いていくのが精一杯だ。少しすると前のグループからの落ちてくる人が出始めた。
その人達を抜いて前にでると、抜かれた人はそのまま下がる場合と俺たちの後ろに着く場合もあった。更に走っていると他かのグループのエキスパートの人が前の二人と合流して、ペースを上げた。これに耐えらない人が脱落した。そんな感じで三本滝のレストハウスまで来た時には半分くらい集団のメンバーが入れ替わり、ペースが落ちついた。
平坦区間では先生の後ろで風を読んで少しでも楽な場所を見つけて走った。真後ろを走れば良いような気もするが走行による空気抵抗だけでなく、自然に吹いている風の影響で斜め後ろの方が楽な場合もある。前を走る先生を見ていると微妙に位置を変えているので先生も風を読んでいるのだろう。
しかし、だんだん勾配がキツくなって速度が遅くなってくるとその効果も薄れて、周りのペースが崩れてきた。先生が後ろを振り向いて「いくよ、高梨!」俺は考える事なく「イエッサー!」と答えて先生を追った。
先生は集団の前を走る人をダンシングで抜いてからシッティングに戻り徐々に今までいた集団から離れていった。俺は苦しいけど先生についていく事ができる気がしたので、余計な事は考えずに先生を追った。
何人か抜いて中間地点あたりまで登っる。先生の体から汗が迸り、それが風に乗って俺こ口元に当たった。俺はそれをペロリ舐めてみた。しょっぱかった。「これが先生の味なのか?」なんかわからないけど元気が出てきた。
前の方に速そうな集団が見えてきた。その集団の後ろにつくと先生は下がりながら「後は全力全開で登れ!」と言った。俺が「ハイ!」と答えると俺の腰をプッシュして後ろに下がった。
先生は俺をこの集団まで運んでくれた。きっと俺が付いていける集団なのだろう。そう思って、食らい付く、
集団は俺を入れて五人、昨日のエキスパートの人がニ人、知らないおじさん一人と昨日最後まで一緒だった中級の人が一人だった。たぶん、中級の人がいたので付いていけるはずだ。先生に引いてもらったが、ここまで上がるために心拍数は限界を超えているが、後ろについた事で少しペースが落ちて少しだけ心拍数を落ち着かせる事が出来そうだ。
そんな感じで位ケ原山荘を通り過ぎた。集団は積極的にはローテーションしていないが、時々、先頭入れ替わり、俺も少しだけど先頭で頑張った。どうやら先生の読み通りに付いていける集団のようだ。
森林限界を超えて、雪渓が見えてきた。後少しだ。タイム的には昨日よりいい感じだし、乗鞍に慣れて来たのか余裕ある気がした。「ラストスパート行くか?」と思ったら後ろからおじさんが上がって来る気配を感じて、俺もダンシングで加速した。他の人達は反応しなかった。おじさんと二人で集団から逃げる。おじさんは力を溜めていたのかもしれない⁈
そのまま雪渓を過ぎた所でおじさんが手信号で「前へどうぞ」としたので、前に出た。ゴールまで一キロもないはずだ。もう出し惜しみする必要はない!「これが俺の本当の全力全開だ!」
そして、そのままゴール、ラップタイムを確認すると、あと少しで70分を切れたタイムだった。昨日より五分近く短縮できた。ゼイゼイしながら待機場所の駐車場まで下った。
駐車場で止まると、おじさんも息を切らしながら俺の横に止まった。
「ハアハア、最後まで息がもたなかった!」
「おかげ様で良いタイムが出ました」
「そっか、良かったな」
そう言って、おじさんは知り合いだと思われる人の所に行った。
さっきまで一緒に走っていた人達も上がって来た。挨拶をして通り過ぎていく、先生も上がってきて俺の横に止まった。
「本当に速くなったな、もう私では高梨君に敵わない」
「お疲れ様でした。先生のアシストのおかげです」
「うむ、二人の共同作業だな、ここでは人目もあるから、ご褒美は後のお楽しみだな」
「だから、先生、揶揄わないで下さいよ」
「いや、本気なんだが、お前たちを見ていると私だけ我慢するのが馬鹿馬鹿しく思えてな」
そう言って、先生はウィンクした。俺と先生は自転車から降りて、次々に上がって来る人たちに挨拶をした。結城も上がってきて、パワーを出し切ったらしく、自転車から降りて直ぐに座りこんだ。しばらくして凛も上がって来た。なんか爽快な表情をしている。
「お疲れ様」
と声をかけると、よろよろと俺の所にやってきた。よろけて倒れそうだったので凛を支えた。凛は俺の肩に腕を回して、ハアハア息を整えている。
「こら、あんまり見せつけるな、う、羨ましいじゃないか」
凛は俺から離れて自転車から降りた。
「大丈夫ですわ」
「凛ちゃんも速くなったな、結構良いタイムじゃないのか」
「ハイ、90分は切れたと思いますわ」
「凄いな、女子で90分切りとはなかなかだぞ」
「わたくしも先生ぐらいになって高梨君と一緒に走りたいですわ」
さて、更に時間が過ぎて、ゆかりと唯、最後尾の回収車もやってきた。これで全員が登り着いた。休憩後、回収車から下山用のジャケットなどを受け取り、下山の準備をして皆んな一緒で下山した。下山後は一緒に登った人達に挨拶をして別れペンションで汗を流してから着替えて荷物を積んで車で昼食のため、蕎麦屋に向かった。
蕎麦屋では蕎麦を注文した。手打ちの十割蕎麦だそうだ。出来上がった蕎麦は店主らしいおじさんが運んできた。
「皆さんは乗鞍にはハイキングかキャンプですか?」
「いいえ、自転車です」
「ああ、ヒルクライムの練習ですね」
「ええ、そうです」
「そうですか、私も若い時に大会に出た事があるんですよ、頑張ってください」
そう言って、厨房に戻って行った。まあ、大会にはエントリーしてないんだけど、美味しい蕎麦を食べながら楽しかった合宿の話しで盛り上がった。
食後はまた車で松本までくだり、松本城を見学した。大阪城などは戦後に鉄筋コンクリートで再建したので中はお城らしくないが松本城は昔ながらの作りで本物のお城と言う感じで、中に急な階段があって、一番後ろからから登った時、俺の前は唯でいつもようにミニスカートを履いていたので、中が丸見えだった。俺は焦って後ろを確認したけどだれもいなかったのでホッとした。その後、唯にそっと「見えてるぞ」と言うと「お兄さんなら良いですよ」答えたけど、他の人に見られるのは嫌なので、そのあとはしっかりガードした。
その後は大きなわさびの農園でワサビ入りのソフトクリームを食べて、高速に乗って、家に着いたのは深夜だった。




