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乗鞍ヒルクライム トレーニング

 朝はいつもより遅めに起きたけど、朝食までは時間があったので、顔を洗うついでにペンションの温泉に浸かった。あまり、長湯すると今日のトレーニングに支障があるかもしれないので、目覚まし程度に入った。温泉から出ようした時に入れ替わりに結城が入ってきた。

「おっす!今日は負けないからな」

「おお、俺もお前に負けないように頑張るぞ」

 と拳を当てた。


 朝食は和食だった。米の方が何となくパンよりパワーがでる気がした。先生とゆかりは元気そうだったけど、凛と唯は少し眠たそうだ。きっと昨夜は女の子同士のおしゃべりが盛り上がったのだろう。


 お揃いのジャージを着て、観光センターの駐車場に向かった。凛デザインのジャージは女の子達には可愛いくて良い感じだけど、ピッチピチで俺と結城はちょっと恥ずかしい、でも、やっぱりお揃いのジャージだと速そうでカッコいい。

 

 観光センターの駐車場にはこれから乗鞍を自転車で登と思われる人が昨日より多勢いた。俺たちのようにお揃いのジャージを着てガチな感じの人が多い、自転車から降りると、その中から、一人の小柄なおっさんが俺たちの方に近づいてきた。

「菜々ちゃん、おはよう」

「三郎先生、おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、また、菜々ちゃんと乗鞍を登れて、嬉しいよ。こっちが菜々ちゃんの教え子かな」

「そうです、可愛い教え子たちです。紹介しよう。こちらが私が大学のときの自転車のコーチで、何と乗鞍と富士の覇者の三郎先生だ」

「もう昔の事だよ、今はもう一時間切れないし、ああ、紹介してくれるかな」

「えーと、高梨ですよろしくお願いします。んで、こっちが妹のゆかりです」

「へー可愛い妹さんで羨ましいな」

「わたくしは登坂 凛と申します。高梨くんと仲良くさせてもらってます」

「という事は彼氏という事かな」

「あの、わたしはゆかりちゃんとお兄さんの幼馴染の大倉 唯です」

「ブッ、高梨くんなんか凄いな」

「あっ、俺、結城っす。よろしくお願いします」

「ほーガッツがありそうだな」

「あざっす」

「じゃあ、早速、今日はのトレーニングついて説明するぞ」


 先生の説明は、たまたま?母校の自転車部が合宿で乗鞍に来ているので合同トレーニングしようという事になったそうだ。事前に俺たちのレベルをコーチの三郎先生に送ってあって、そのレベルにあった部員さんたちと走り、三郎先生が指導してくるそうだ。部員には初心者もいるので唯とゆかりは初心者クラス、凛は中級クラスで先生が一緒だそうだ。そして、俺と結城は上級クラスだが、その上にレースで入賞を狙うエキスパートクラスがあった。参加者は自転車部員だけでなく、OBや三郎先生の知り合いも何人かいるそうだ。総勢は20人くらで、俺と結城は6人のグループとなった。おじさんもいたけど、皆んな速そうだ。


 一番初めに、エキスパートクラスがスタート、そしてすぐに唯とゆかりたち初心者クラスがスタートした。そして五分置いて、凛と先生たちの中級者クラス、更に10分後に俺と結城が混ざる上級者クラスがスタートして、最後に三郎先生がついた。

 

 駐車場から出るといきなりハイペースで平坦区間を走る。俺と結城は様子を見ながら集合の後ろについた。平坦から左カーブで坂になった。先頭はダンシングで加速してるし、なんかガチ感ハンパない、俺たちは乗鞍の大会に出る訳ではないし、そんなに頑張らなくてもいいんだけど、まあ、ついていける所まで頑張ろう。

 俺たちの前は一緒に走り慣れているのか、先頭をローテーションしながら走っている。ずっと後ろだとなんか悪い気がしたけど、先頭から下がってくる人は俺たちの前に着くので、ローテーションに加わらなくてもいい感じだ。

 だけど、スキー場脇にホテルなんかがある平坦区間で、結城が我慢出来なかったのか、加速して先頭にでた。こうなると俺もローテーションに加わらない訳にはいかない、橋を渡り、平坦区間が終わったところで集合のスピードが落ちた時に加速して前にでた。

 ローテーションに加わり、集団のリズムに乗れてきた。基本的にはまだ勾配は緩めで速度は20キロぐらいだけど時々、平坦もあって30キロぐらいになることもあった。集団にいる人から時々声を掛けてもらう事もあり、集団の仲間に入れてもらった感じだ。

 ハイペースだけど、乗鞍を走り慣れている人達なのだろう、いい感じのペースだ。


 スキー場の中を走りレストハウスがあって、一般自動車が規制されてるゲート付近の平坦も足を休める事なく走り続ける。道幅が狭まり、九十九折りでは勾配がキツくなってきた。俺は大丈夫だったけど、集団から脱落した人がいた。よく見ると辛そうだ。後ろから三郎先生が上がってきて、

「さあ、これからは実力勝負だよ!」

と叫んで、前に出た。


 そして、少しペースが上がって、また、脱落者がでて、残ったのは俺と結城と多分、先生の後輩が二人と三郎先生だ。先頭は三郎先生で絶妙なペースで集団をコントロールしているので、俺は限界ギリギリだけどなんとかついていける。

 やがて、ゆかりと唯の姿が見てきた。余裕を持って登っているのか、脱落者はなくまとまって登っていた。追い越す時に声をかけると「先輩と先生はさっき抜いていったよ!」と教えてくれた。「お兄さん、頑張って!」と唯、俺は「おお、お前たちも頑張ってるな」と返して、先に進んだ。

 

 俺は前の三人について走って、俺の後に結城がいる。結城はだいぶ辛そうな感じだ。三郎先生は九十九折りカーブの立ち上がり、軽い感じでダンシングしながら後方を確認して、ペースを作っているようだ。乗鞍の登り方が分からない俺はとても助かっている。楽ではないけど、何となく三郎先生についていけば、乗鞍は初めてのアタックにしては実力かそれ以上のタイムがでそうな感じだ。

 

 ゆかりたちを抜いてから五分ぐらいして、中級者グループからの脱落者だろう一人が見えてきた。どうやら、中級者グループはばらけているようだ。三郎先生は「頑張れよ〜」と声をかけて、抜いて行く、それに続いて俺たちも声掛けして抜いて行く。

 また一人、また、という感じで間隔を開けて中級者を抜いていく、まだ先生と凛の姿は見えない、三郎先生のペースは生かさず殺さずといい感じだけど、前の二人はカーブで勾配が急になると少し遅れて、三郎先生から遅れてしまう。ダンシングしているけど追いつかない、それに気づいた俺はカーブの手前で少しだけ足を緩めて、間隔を開けて失速しないようにした。そして、ダンシングはしないでやり過ごす。たぶん三郎先生はダンシングが上手くて、カーブでのスピードダウンは最小なんだろう。

 

 そして、凛の姿が見えてきた。集団の後ろについている。先生は先頭で集団を引いているようだ。それを見た三郎先生は「おっ、菜々ちゃん先生らしく大人しく引いているな」と言った。そして、中級者グループのメンバーに声をかけながら抜いていく、俺は凛に「がんばれ!」と声をかけると「あなた、頑張って!」と返した。先生にも声がけすると「三郎先生に勝ったらキスしてあげる!」と返した。三郎先生は前で笑っているようだ。


 やっと位ヶ原山荘が見えてきた。あと少しだ。頑張ろうと思った時に三郎先生が「ここまで良く付いきた。これからはフリーだ」と言って、一旦、最後尾まで下がって、気合いを入れ直してダンシングで加速する。俺を抜く時に「菜々ちゃんの唇は渡さないぞ!」と笑って、抜いていった。まあ、先生の唇はさておき、挑発に乗って俺も前の二人を抜いて三郎先生を追う。だけど、全然追いつかない、次元が違うようだ。

 「くそっ!」と追うのを諦めたら三人にも抜かれてしまった。気を取り直して、三人の後ろについて体勢を整える。三人の実力はほぼ互角の感じだ。結城も頑張っている。足はまだ余裕がある感だけど、思ったようにパワーが出ない、心拍数は175くらいだから巡航できる限界ギリギリなのになんか変だ。周りの人も限界に近い感じだし、俺だけが調子悪い訳ではないようだ。

 先頭を入れ替えながら走り、やがて雪渓が見えてきたとに、誰が「空気、薄っすー!」と叫んだ。そうか、昨日はゆっくりで気が付かなかったけど、パワーが出ないのは空気が薄いせいなのか?

 そんな感じで岐阜県の看板が見えてきた。看板の前で三郎先生が携帯で写真を撮って、俺たちが通り過ぎると「お疲れ様」と声を掛けてくれた。俺たちも「あざっす」と返事をして、そのまま走って少し下った駐車場に入った。既にゴールしていたエキスパートの人達はそこで待機していて、話しで盛り上がっているようだ。俺たちも自転車を止めてグータッチして、健闘を称えあった。

「それにしても、君たち結構速いね、あと少しで1時間15分切れたよ」

「ありがとうございます。たぶん集団で登ったおかげだと思うます」

「そうか、楽しかったな、君たちも大会にエントリーしたのかな」

「いいえ、僕たちは次は赤城です」

「そうか赤城で会おう」

と熱い握手をした。


 少しして、先生と凛も上がってきた。

「凛ちゃん、凄い!1時間半切ったよ」

「お疲れ、頑張ったな」

「ええ、ずっと先生が引いてくれましたの」

「ところで、三郎先生には勝ったのかな?」

「いいえ、あんなのに勝てる訳ないでしょう」

「うーむ、残念、チュウはお預けだな」

「大丈夫ですわ、わたくしが後でたっぷりしてあげますわ」

「高梨君、いいなぁ」


 さて、ばらけてた人達も上がって、最後にゆかりと唯も上がってきた。

「どうだった?」

「うん、にいちゃん、昨日よりは辛かったけど、皆んなで登って、天気も良かったし楽しかったよ」

「そうですね、本当に景色が綺麗でした」

「まあ、赤城はずっと変わり映えしないからな」

「でも、お兄さんと一緒だと楽しく感じますよ」


 休憩後、皆んな揃って下山した。下山後は気合いを入れて登ったので、昨日よりお腹が減った感じだったのでガッツとカツカレーを食べて、ペンションの和室の畳の上で寝転がり体力が回復したところで、午後のトレーニングに入った。

 午後のトレーニングは昨日と同じく、三本滝のレストハウスまで皆んなで登り、俺と結城はまた上を目指して登り、女子は下でサイクリングをするのだそうだ。俺と結城は明日もあるので強度を落として登ったけど、二本目はそれなりにきつかった。


 また、下山して、軽くパンを食べてからペンションの温泉に浸かって疲れを癒やした。赤城だと下は真夏は朝から暑いので、前半は暑くて辛いけど、乗鞍は涼しいし、温泉は良く効く感じで夏合宿といては最高だろう。また、二、三日では効果が少ないけど、空気が薄いので高地トレーニングと言って心肺能力の向上にいいのだそうだ。出来れば夏はずっといたい。いや、冬はスキーも出来るのでずっといたい。


 夕食は和食だった。肉も出たし、スタミナ満点で明日も頑張れる気がした。

 食後はゆかりたちがサイクリング途中で見つけた星空が綺麗に見える場所があると言うので、天気もいいし、皆んなで自動車に乗って見に行くことにした。

 ペンションの外に出ると既に満天の星空が広がっていた。周りが明るいペンションのでもこれなのだから、周りに明かりのないところだと凄いだろう。

 車に乗って、周りに明かりのない原っぱの脇に車を止めて降りると、怖いぐらいの星空が広がって皆んな「凄い!」とか「綺麗とか」言っていた。確かに家の周りではこんなに綺麗に見えないし、写真でしか見たことが無かった天の川もしっかりと確認できた。登坂が「あれがアルタイルでベガ、デネブがあそこですわ」と説明してくれた。「俺はオリオン座しかわからない」言うと「オリオン座は冬の星座ですわ」と笑っていた。まあ、それくらいは知ってるけど。

「にいちゃん、七夕の彦星はどれ?」

「アルタイルの別名が彦星で、ベガが織姫ですわ」

「七夕といったら七月七日でナナだから、織姫がわたしで彦星は高梨くんかな」

「まあ、一年に一度くらいならいいですわ」

「うぐう、それは…」


 しばらく、星を眺めてペンションの部屋に戻ると結城はベッドに倒れ込むとすぐにイビキをかいて寝てしまった。

 

 さて、漢のロマンを求めて混浴露天風呂に行くか、まあ、いてもオッさんだろうけど。


ペンションを出て暗い山道を下り沢の近くにある温泉にたどり着いた。小さな小屋があって、そこが脱衣所になっている。よく見ると女性、男性と書かれた扉が合った。「何だ混浴じゃないのか」とガッカリしたがせっかくなので、入ることにした。

 中は小さな内湯と奥に露天風呂があった。露天風呂の方に行くと先客がいた。

やっぱり、おっさんで見覚えのある顔だった。

「よう、少年、君も入りに来たか」

「はい、今日はご指導ありがとうございました」

「えーと」

「高梨です。三郎先生、お邪魔します」

 温泉は静かでいい感じだった。

「君は、自転車に乗ってどのくらいになるのかな」

「えーと、本格的には一年ちょっとです」

「そうか、だから体がぶれていたのか、もっと体幹強化するといいぞ、心肺能力は高そうだし、ペダリングもいい、まだまだ速くなるぞ」

「そうですか、頑張ります」

「ハハ、頑張り過ぎるとかえって逆効果な事もあるから、普段のトレーニングは抑えめで、追い込むのは週一ぐらいがいいぞ」

「はい、注意します」


 それから少して、三郎先生は

「坂馬鹿の道は深く厳しい、達者でな」

と言い残し、仙人のように立ち去った。

「ふぅ」さっきまでは月が出ていなかったけど、今は満月が明るく光っていた。さて、そろそろ出ようとかなと思っていたら、ガサガサと誰かが歩いてくる気配がした。何人かいるようだけど、声は聞こえない。脱衣所で服を脱いで露天風呂の方にやってきた。近くなってきた所で

「にいちゃん、後ろ向かないで」

どうやらゆかりたちのようだ。俺は何が恥ずかしいのだと思っていると、後ろからタオルで目隠しをされた。

「先生、大丈夫だよ」

「なんか恥ずかしいな」

「大丈夫だよ。にいちゃんは慣れるから」

「では、邪魔するぞ」

 女子たちが温泉に浸かったあと

「にいちゃん、タオル取ってもいいよ」

 目隠しのタオルを取ると、唯と凛もいた。先生は恥ずかしそうに端の方で温泉に浸かっている。暗いし、温泉のゆげでよくは見えなかった。どうやら、露天風呂は混浴のようだ。

「お兄さんがコソコソ出ていったから、たぶんここじゃないかって、先生が」

「それにしても、やっと皆んなで入れてよかったね」

「先生は恥ずかしそうですわね」

「当たり前だろ、男性と一緒に風呂に入ったのは初めてだし」

「あら、わたくしはてっきり先生は経験者だと思ってましたのに」

「ふん、キスぐらいならした事あるぞ」

「あら、何方とかしら、気になりますはね、あなた」

「登坂、なんか意地悪だぞ」

「そうかしら、オホホ」

 露天風呂は漢のロマンと思っていたが、何度かおかしな感じだ。

「のぼせてしまいそうどから、もう、出るよ」

 俺が出ようとすると、両脇の凛と唯に腕を抑えられ、胸を押し付けてきた。

「だめ!まだ、入ったばっかりだし」

 仕方なく、もう少し頑張ることにした。混浴露天風呂は漢のロマンだけど、これは微妙な感じだ。

 ゆかりは暑いのか、温泉の縁に座って足だけお湯に付けている。先生は落ち着いたようでゆったりと温泉に浸かっている。

「恥ずかしかったけど、こうして高梨や皆んなと一緒に温泉に入るのも開放感があって良いもんだな」

「でしょ、なんかチームが一つになった感で」

「あれ?、結城は」

「さすがに、混浴はまずいですわ」

 温まったのか、唯と凛も温泉の縁に座って、やっと俺は解放されたので、俺も温泉の縁に座った。皆んなが体を出したので、先生も湯船から体を出して膝下まで温泉に浸けて座った。先生の後ろには月が輝いている。

「月が綺麗だ」

「こら、あんまり見ないでくれるかな」

「先生も綺麗ですね」

「あら、あなた、先生に反応したの」

「ニシシ、にいちゃんはエッチなんだから」

「もうでるよ」

 俺は立ち上がりその場を去った。妄想とは違うけど女の子と露天風呂に入れで良かったし、先生はやっぱり綺麗だったな。

挿絵(By みてみん)


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