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乗鞍合宿 雲の上までヒルクライム

 早朝と言うか、まだ夜が明けてないので深夜かもしれない時刻にゆかりと起きて、玄関前で合宿に出かける準備をしていると店の駐車場にハルヒルでも乗せてもらった近藤輪業の大型ライトバンが入ってきた。

「先生、おはようございます」

「おはよう!」

「はい、よろしくお願いします」

 先生は車から降りて後ろのドアを開ける。自転車は前輪だけ外して荷室の床に固定して、荷物を入れた。

「狭いけど、高梨兄妹は前に乗ってくれるかな」

 前席は並んで三人乗ることができるが真ん中の席は補助的な席で少し小さめだった。

「わたしはにいちゃんの隣りで嬉しいよ」

 後席も三人に座れるし、荷室も広いが自転車や荷物でいっぱいになるだろう。


 家の次は唯、その次は凛、そして少し走って、結城の家に行った。結城を乗せてメンバー全員がそろったころには夜も明けていた。

 

 車は高崎の西から国道18号、松井田から高速に入った。先生は真剣に運転していて、あまり喋らない、俺はたまにゆかりと話しをした。俺の後ろには唯その隣りは凛で先生の後ろには結城が座っている。結城は朝が早かったせいか、時々うとうとしているようだった。

 真剣に運転している先生には悪いけど女の子が静かにしているはずはなく、朝食代わりの軽食なお菓子を食べたりして盛り上がっていた。


 合宿の予定は二泊三日で着いたら軽く登って、コースを確認、下山したら昼食、ペンションにチェックイン、二日目は気合いを入れて、乗鞍ヒルクライムに挑戦、三日は登れるところまで登って、帰りは少しだけ松本で観光して帰る予定だ。

 

 途中、休憩を取りながら松本で高速を降りた。そして乗鞍方面に向かう。だんだん山が険しくなり、湖やトンネルを潜り乗鞍高原には9時前に着いた。観光センターの駐車場に車を停めて、車から降りた。

「わー!にいちゃん、高原リゾートだよ」

「そうだな、空気が気持ちいいな」

「スキー場なんですね」

「雲で上が見えないですわ」

「うひゃ、ほとんど寝てたけどずっと座って背中がいたい、うーん」

 体が大きい結城は少し窮屈だったのだろう、大きく身体を伸ばしている。

「すまんな、商業車で乗り心地悪いし、一台に六人はきつかった」

「いや、先生こそ、一人で運転ありがとうございました」

「後でゆっくり温泉に浸かって、高梨くんにマッサージしてもらうかな、さて、自転車を下ろして、早速、登ろうか」


 俺たちは自転車を下ろして、男子は車の中で、女子は観光センターで着替えをした。

「さあ、登りましょう。今日はゆっくり登って、サイクリングを楽しみましょう」

 先生が先頭で女の子達が続く、最後は結城だ。スキー場手前の左カーブを曲がるといきなり坂だった。

 事前のミーティングでコースの概要は聞いるし、ネットの動画でも確認してきた。コースは岐阜県との県境まででエコーラインと呼ぶそうだ。距離は20.5kmで登る高さは1260mで赤城に近い感じがするけど、スタート地点の標高は赤城のゴールぐらいなので乗鞍のゴールは2700mで五月連休に登った渋峠より標高が高い、先生の話しでは2000mを超えると空気が薄くなり、パワーがでないそうだ。


 緩めのカーブを幾つか登るとスキー場脇にある宿泊施設があるところにでた。坂から平坦になったので、ゆかりと唯はほっとした感じだった。視界も開けているし気持ちいい、だが、レースならここは加速して、置いていかれないように必死かもしれない、いや、まだ、序盤のはずだし、流すべきなのか?

 橋を渡ると両側は森で視界が狭まる。道幅も狭くなったが、自動車が少ないので気楽に走れる。先生の話しでは環境保全のためパスなど許可車以外の自動車は途中までしか登れないそうだ。ただ、道が狭いので上から降りてくるバスには要注意だそうだ。そう言えば、親父の話では親父が若い頃は自動車で登る事ができたそうで、雪渓で夏スキーをしたそうだ。あと、観光センター近くに無料の露天風呂があって、なんと混浴だと言っていた。後でこっそり行ってみようかな、まあ、いってもおっさんが入っているくらいだろうけど、混浴露天風呂は漢のロマンだし、

 勾配は少しある所もあるけど、基本的には緩めなので、いつも赤城を登っている俺たちは問題なく登る事ができた。ただ、両側は木があって景色は単調だ。


 30分ぐらいして、また、スキー場にでて、視界が開けて平坦区間に入った。そこのレストハウスの駐車に入って、一回目の休憩に入った。

「皆んな〜元気かな」

「まだまだ大丈夫です」

「わたしも大丈夫だよ」

「わたくしも問題ありませんわ」

「でも、天気ほ大丈夫かな、なんか霧っぽいけど」

「天気予報では降らないみたいだけどどうかな」

「皆んな、言われた通りに少し厚手のジャケットとグローブは持ってるかな」

「はーい、レッグカバーも持ってます」

「よろしい、乗鞍は高地だからな、天候が崩れると夏でも寒いぞ」


 小休憩して、また登り始める。ゲートがあって、管理のおじさんが「気をつけて、楽しんでください」と手振っている。俺たちも挨拶をしてゲートを通り過ぎた。ここからは一般車両は入って来ない、道幅は狭くなるし、路面も悪いところがあったり、崖が崩れたのか工事中でさらに狭いところもあった。少し赤城の旧道みたいだ。勾配もきつくなってきたけど、ハルヒルのような激坂はないようだ。

 俺たちは問題ないけど、先生が気を使って、事前に軽いギアに交換してくれたけどゆかりと唯は少し辛そうだ。なので時々、声を掛け合い頑張って登る。

 霧が濃くなって来て、視界が悪くなってきたけど濡れて体温を奪われるほどではなかった。時々、後ろから速そうな人に抜かれる時は少しビクッとした。今月末に乗鞍ヒルクライム大会があるので、結構、ガチな感じの人がいる。もちろん、俺たちのようにゆっくりサイクリングを楽しんでいる人もいる。

 それにしても霧のなかふわっとバスが現れると道端が狭いので怖わかった。途中、先生の知り合いなのか、先生に声をかけ、何か少し話してから、抜いて行った人がいた。先生はハルヒルでも人気者だったので、知り合いは多いのだろう。

 そう言えば、先生も学生の時に乗鞍ヒルクライム大会に参加したそうだ。「何位でしたか?」と聞くと「ないしょ」と教えてくれなかったので、ネットで調べたら、しっかり入賞していた。先生は自慢話は嫌いなんだろうか?


 だいぶ登って、山小屋みたいなところで休憩を取った。

「あと少しだから、頑張りましょう」

「先生、流石に疲れたよう。唯ちゃんは大丈夫?」

「いつもお兄さんに鍛えられてるから、大丈夫だよ」

「凛はどうだ?」

「問題ありませんわ、なんか渋峠を思い出しますわ」

「ふーん、誰と登ったんだか、それにしても、霧なのは残念だな」

「あと二日あるし、天気予報では明日からの方がいいみたいだし」

「まあ、下から上を見ると凄すぎて、登る前から心が折れちゃう人もいるそうだから、かえって良かったのかもしれない、まあ、ここから先は勾配も少し緩めだからゆっくりなら、問題ないぞ」


 そして、また走り始めた。周りの木がなくなって来て、凛と行った渋峠に感じが似ている。霧が薄くなって視界が少し開けて残雪が見えてきた。

 また、少し登ると大きな雪渓が見えてきた。そして雪渓を超えると崖の向こうに絶景が見えてきた。先生は自転車を止めて

「雲海だ!」

 皆んなあまりの絶景に言葉を失った。そう、雲の上にでたのだ!

「凄いなあ、写真撮ろぜ!」

「じゃ、皆んな並んで」

 先生は同じように絶景を眺めている人に声を掛けて、写真を撮ってもらった。雲海は赤城でも見た事があるけど、スケールが違って迫力があった。そして、雲の上には濃い色の青空が広がっている。何となく宇宙を感じた。

挿絵(By みてみん)

 乗鞍ヒルクライムのゴールはそこからすぐで、県境を超えると広い駐車場がみえた。お腹が空いたので登頂した達成感を味わうまもなく、ウインドブレーカーを来て早々に下山した。

 下山はずっとブレーキを握って降りる感じで握力を保つためにドロップハンドルの下を握り登りと同じ所で休憩を取った。俺の自転車はリムブレーキなので、ずっとブレーキをかけていると発熱のせいか音が変になるので時々、前だけとか後ろだけとか交互にブレーキをかけた。俺のはアルミのリムなので大丈夫だけど、先生の話しではカーボンのリムで乗鞍を下るとリムが溶けてしまう事があるのだそうだ。因みに女の子達の自転車は皆んな俺より新しいのでディスクブレーキで下りは少し楽みたいだ。


 お昼を少し過ぎて下まで降りて、そのまま、食べる所に直行して皆んなで美味しい蕎麦を食べた。

 食後はペンションにチェックインして、温泉で疲れを癒やす事になった。

先生は車に自分の自転車だけ乗せてペンションに向い、俺たちはその後に付いて行った。ペンションは観光センターから歩いてもすぐの所にあってすぐに到着した。俺たちは荷物を下ろしてチェックインした。結城と俺は洋室でベッドが二つの小さめの部屋で、女の子達と先生は広めの和室だった。

 着替えとタオルをビニール袋に入れて結城とペンションの外にでた。温泉はペンションにもあるけど大きな湯船に浸かりたいので観光センター近くの湯けむり館に行くという事になった。まもなく、女の子達と先生が出てきた。

「さあ、行きましょうか」

「家族風呂はないかなあ、わたし、にいちゃんと入りたいな」

「家族があっても、きっと大浴場みたく広く無くて、のびのび出来ないぞ」

「なあ、高梨、お前、まだ妹と一緒に入っているのか?俺だって、姉貴とは小学生までだぞ」

「そう言えば、お姉さんがいたんだっけ」

「ああ、10も離れて小さい頃からずっと俺の世話をしてくれて、姉貴と言うよりおふくろに近いかな、もう結婚して一緒には住んでないけどな」

「わたしも混浴だったら高梨君と入りたいなあ」

「先生はダメですわ」

「冗談だよ、ハハ、さて、着いたぞ、残念だがここでお別れだ。奥に休憩所があるから温泉から出たら、そこで待ち合わせしよう。わたしはかまわんが他のお客さんもいるから覗くんじゃないぞ」

 

 女子と別れて温泉に入った。まずは身体を洗い、露天風呂が空いていたので結城と露天風呂に入った。

「うー今日は早起きして疲れたから温泉が気持ちいい」

「お前、車でずっと寝てたじゃないか」

「気を利かせて、寝たふりしてんだよ」

「なにを?」

「だって、俺はお邪魔虫みたいな感じだし」

「うーん、でも、女の子たちだけで合宿だと俺は一人で登る感じになるだろうからお前がいないとつまらないかな」

「じゃあ、明日はバトルしようぜ」

「楽しみだな」

「んっ?なんか壁の向こうが賑やかだぞ」


 女風呂の方から、「キャッキャ」と楽しそうな声が聞こえる。

「唯ちゃん、やっぱり凄い、それ反則だよ」

「そんなことないようー、ゆかりちゃんだって小さくないでしょう」

「あーあ、なんで年上のわたしが一番小さいのかなー、唯ちゃん少し先生に分けてくれないかな」

「ダメですわ、これはあの人のですわ」

「だから、ゆかりちゃん、あんまり揉まないで」


 結城がニタニタして、俺を見た。

「高梨、なかなかいい身体してんな、だいぶ絞れてきたし、腹筋もだいぶ絞れてきたな」

「ああ、夏で暑いからな、でも、お前には敵わないなあ」

「あんまり見ないでくれるかな、恥ずかしいじゃないか」

「女風呂は楽しそうだな」

「ああ、たしかに」


 確かに女の子たちは隣りで楽しそうだけど、露天風呂に浸かるのも疲れが癒されて気持ちいい。泉質は草津に似た感じで良く効くような気がした。

 温泉から出て休憩室で寝そべって、熱った身体を冷ます。女子たちはなかなか出て来ない、なんか気持ち良くて寝てしまいそうだ。結城はもうイビキをかいているし。


 俺は少しだけ寝てしまったようで、ゆかりに起こされた。

「にいちゃん、良く寝てたよ。わたし達も休んだし、少しこの辺を散歩しない?」


 夕食まではまだ時間あるし、少しだけ散歩した。そして、道路から川の方に下る無料の温泉への入り口をしっかりと確認した。後でこっそりと行ってみよう。


 散歩からペンションに戻って、少しして日が暮れるころから夕食になった。ペンションの食堂に集まった。

「では、皆さん、今日はお疲れ様でした。でも、温泉で回復したと思うので明日は気合いを入れて、やっと注文して届いたチームジャージを着て乗鞍を登ってくれたまえ!それではチームの勝利を祈って、乾杯!」

 パチパチと拍手をして、先生はビールをガブガブ飲んだ。当然、俺たちはソフトドリンクだけど、

 料理はフレンチ風のコースだった。凛と唯は流石はお嬢様だ。食べ方が上品で綺麗だ。おしゃれな料理だけど品数と量も結構あって、腹一杯になった。

 先生は少し酔ったのか、時々、危ない言動があってヒヤヒヤした。

「では、今日は朝早かったし、明日に備えて早めに寝るか、高梨くんはわたしとな」

 先生は俺の手を引っ張った。

「先生、ダメですわ」


 まだ、寝るのは少し早かったので、軽くペンションの温泉に浸かってから寝ることにした。


 





 




 



 


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