ゴールデンウィーク3
日曜日はいつも通り唯のトレーニングに付き合う。唯からLINEでもう少し上まで登りたいと言う連絡があった。先週は料金所跡までだったけど、その先は次の目標として、区切りのいい場所がない。姫百合駐車までだと、ハルヒルと同じくらいだし、まだ難しい気もする。だけど、チャレンジしたい気持ちはモチベーションとなる。そこで二時間で登れる所までとした。体力がもてば姫百合駐車まで登れるかも知れない。
いつものように通学時の待ち合わせ場所に行くと、唯はサイクルジャージを着ている。サイクルジャージ姿の唯とサイクリングは初めてだ。
「おはよう御座います。今日もよろしくお願いします」
「おはよう、三日連続のトレーニングだけど大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですよ。やっぱりサイクルジャージとサイクルパンツは楽ですね。パッドが付いているのでお尻もだいぶ痛く無くなりました。それと見てください」
唯は足を前に出して、靴を見せる。
「おお、ビンディングシューズだ」
「へへ、二日間これで走ったのですよ」
「へー、コケなかった?」
「ええ、先生が特訓してくれました。ゆかりちゃんもですよ」
「じゃあ、出発するか、ビンディングペダルは油断するとこけるから注意してな」
「お兄さんはコケたことは無いんですか?」
「一年ぐらいは無いかな」
サイクリングロードを走り、山形公園で少しだけ休んで、赤城山を登り始めた。赤城山ヒルクライムのスタート地点でサイコンのラップボタンを押す。サイコンは停車時には計測が一時停止する設定だ。さて、二時間でどこまで登れるだろうか?
俺は唯の後ろを走る。唯も慣れ来たので無理はしないでマイペースで登っているようだ。速度は10〜15キロぐらい、勾配の変化に合わせた速度で走っている。登り始めた時はランニングしている人に抜かれるようなペースだったが今はサブ3レベルでないと抜けないだろう。
畜産試験場の通過タイムは30分を切った。唯には途中、休んでもいいけど大丈夫だと思ったら料金所跡まで行っていいと言ってある。
畜産試験場を超えると勾配かきつくなってくる。それでも10キロ切ることはなかった。おそらく、唯は10キロを切らなようにしているのだろう。空っ風街道との交差点前の緩い所では速度を上げていなかった。しかし、交差点を過ぎると勾配が少し上がる。それでも頑張って踏んでいるようだ。
そして料金所跡にたどり着いた。タイムは40分と少しだった。バス停スペースの先にあるベンチのほうに入って止まった。ハアハア息をして苦しそうだ。俺は唯の横に自転車を止めて背中を摩る。
「あ、ありがとうございます。大丈夫です」
「よく頑張った。このペースならゴールまで二時間を切るのも夢じゃない」
唯が落ちたととろで自転車を降りて、バイクラックに自転車を置いてベンチに座った。
「五分休憩したら登るぞ、行けそうか?」
「はい!頑張るけど頑張らないで登ります」
「そうだ、とにかくゆっくりでもいいから、心拍数が170を超えないように登ろう」
「はい、でも、少しだけ手を握ってもらえますか?」
「ああ、いいよ、こうか?」
俺は唯の手に自分の手を重ねる。
「はい、グローブごしなのがちょっと残念ですがこうすると元気がでます」
五分後、再び登り始める。勾配はさらに上がり、流石に10キロペースは無理のようで一桁台になる。頑張って踏んいる唯には悪いがこのペースは遅すぎで俺には苦痛だ。そこで前のギアをアウターにして重たくしてみた。これはキツイ、でも唯と苦しみを共有したかった。ケイデンスは50ぐらいでハルヒルの激坂区間のような感じだ。筋肉には効くけど、パワーは出ていないので心肺は楽だ。これは筋トレだなと思った。
長い直線の登り坂は退屈だし、唯の後ろ姿は目に毒だ。前は体操用のジャージだったがピッタリとしで体の線がよくわかるし、前はだらしない感じもあったがしまっきた。どちらにせよずっと見ているのは悪い気がする。
それにしても、前はゆさゆさ体が揺れていたが、だいぶ揺れが少なくなってきた。多分、体幹がしっかりしてきたのだろう。しかし、さらに締まってしまうのはもったいない気がする。柔らかさを確かめてみたい。
俺の妄想はさておき、森の声の看板を過ぎた。ここからさらにキツくなる。唯は遅いけど頑張って登っている。唯のモチベーションはなんなのだろう。痩せたいと言う気持ちだけでは続かないと思うが、ひょっとして坂馬鹿に目覚めたのだろうか?
俺は後ろから車が上がってこないことを確認して、唯の斜め後ろまで上がって、唯の様子を確認する。
「大丈夫か?」
「はい!」
唯は真剣にペダルを踏んでいる。不謹慎な妄想をしている俺は申し訳ない気持ちだ。俺はそのまま前にでて頭を冷やす。
唯のペースは大体分かったので唯のペースに合わせて前を引く、精神的に前に人がいたほうが楽だ。しかし、ペースが速すぎると体力を削ってしまうので匙加減が難しい。
桃畑のバス停まで来た。この辺は赤城山ヒルクライムで一番辛い区間だけどこのペースなら姫百合駐車場に辿り着けそうだ。最初のS字カーブC1の手前は赤城山ヒルクライムの最大傾斜区間だ。俺は出来る限りゆっくり走る。カーブに入ると少しだけ傾斜が緩くなる。一息つける瞬間のはずだ。
「お兄さん!もう少し速くても大丈夫です!」
「おお、わかった」
遅すぎたようだ、難しい。カーブを超えるとまた勾配が上がる。俺でも速度が10キロ以上を保つのはキツい、しかもまだ、アウターのままだ、後ろのギアはローより一枚上だ。ローにしてしまうどチェーンがタスキになってしまってメカによくない。結構、大腿四頭筋にくる、ヒルクライムを始めた頃のようだ。よくわからないが大腿四頭筋は踏む力になっていない感じがする。効率的なペダルリングはハムストリング、太ももの後ろ側の筋肉とお尻の筋肉だと思う。太ももの前側、大腿四頭筋が痛くなる時は無駄に踏んでいるのだろう。でも、効率が悪くてもその筋肉を使わないと登れない。当然、引き足も使う、これも効率が悪い。では、どうしたらいいのだろう。
考え事をしていたら、二つ目のS字カーブC9に差し掛かる。後ろを確認すると唯がいない。慌てて自転車を止める。でも、すぐに唯が登ってきた。
「ごめん、ぼーっとしてた」
「いいえ、お兄さん、ごめんなさい、遅くて」
「あと少しだ、頑張ろう」
こうして、なんとか姫百合駐車場にたどり着いた。芝生の前に自転車を止めた。
「お疲れ様、登れたね、二時間は切ったし、頑張ったな」
「ありがとうございます。お兄さんのおかげです。帰ったら、いっぱいサービスします」
「ありがとう。少し座って、休憩しようか」
俺たちは自転車を芝生の上に置いて、腰を下ろして休憩することにした。
「ゴールまでは後、どのくらいですか?」
「そうだな、このペースだとあと45分ぐらいかな」
「なんか登れる気がしてきました。サイクルウエアとビンディングペダルで楽になった気がします」
「そうか、次回はもう少し頑張って登ってみるか」
「はい、楽しみです♪」
下りはスピードを出しすぎないように注意して走った。そして、唯の家に着いたのは11時過ぎだった。唯は汗をかいたので髪の毛を洗いたい、時間がかかるからと言うことで俺が先にシャワーを浴びることにした。着替えは先日渡してあった。こうしておけば、妹が来ることもないだろう。というか、これは妹の提案だけど。
俺は5分ぐらいでシャワーを浴びて、唯と交代して、リビングのソファーでくつろぐ、今日はゆっくりだったけど、アウター縛りだったし、三日連続のヒルクライムは流石に疲れた。明日は渋峠に備えてゆっくりしよう。
「お兄さん、ご飯できました」
待っている間に寝てしまったようだ。俺は唯の声で目が覚めた。
「ああ…寝てた?」
「うふふ、可愛い寝顔でした。おまちどうさま」
「今日はナポリタンか、美味しいそうだな」
「ええ、時間が無かったので簡単な物にしました。どうでしょうか?」
「美味しそうだ。いただきます」
「どうぞ、召し上がってください」
「うん、美味しいぞ、ただ炒めただけじゃ無くて、オーブンで仕上げたのか、ベタベタしてなくて、香ばしくて美味しいよ」
「うふふ、ありがとうございます」
本当に唯の料理は美味しい。連日の疲れが飛んで幸せな気分になる。俺はお腹も空いていたので貪るようにナポリタンを食べた。そして、空腹を満たした。
「ご馳走様、お腹いっぱいになったよ」
唯はまだ食べている途中だったが嬉しそうに微笑んでいた。しばらくして唯も食べ終わり、食器を片付けててから。
「お茶にしますか?それともコーヒーにします。コーラもありますよ」
「じゃあ、コーラを」
「はい、ちょっと待ってくださいね」
唯はコーラを二つ持ってきて、それをテーブルに置いて、俺の隣りに座る。
「唯、今日は頑張ったな、大丈夫か?疲れてないか?」
「そうですね、大丈夫ですが少し筋肉痛ですかね。お兄さんは大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だけど、三日連続だったから少し疲れたかな」
「お兄さんはトレーニングの後にマッサージとかするのですか?」
「ああ、大体、お風呂で体を洗うついでにすることが多いかな、こんな風に太ももをマッサージする」
俺はソファーに浅く座って、両手で自分の太ももをマッサージして見せた。
「ちょっと、触ってもいいですか?」
「ああ、いいよ」
唯は俺のハムストリングを触った。少しくすぐったかった。
「あれ、意外と柔らかいんですね、もっと硬いかと思いました」
「でも、力を入れれば硬くなるよ」
俺はギュッと力を入れる。
「本当ですね硬くなりました。不思議ですね、あっでも少しこの辺こってますかね」
「ああ、走った後だし、背中は少し筋肉痛かな?」
「良ければ、私がマッサージしましょうか?」
「いいの?」
「ええ、でも、私はあっちこっち筋肉痛ですので、私もお兄さんにマッサージしてもらいたいです」
「いいの?」
二度も繰り返して聞いた。
「あの、ダメですか?」
「俺は構わないけど」
唯は嬉しそうだ。俺は少しいけない気がするが、それは俺に疾しい気持ちがあるからだろう。唯はそんなことを考えてはないだろう。
「ここだと、マッサージしにくいので、私の部屋に行きましょう」
そして唯の部屋に行く、何年ぶりだろう前に入ってた時はランドセルがあったし、子供っぽいところがあったが、少し大人っぽくなっている気がする。机の上には俺と妹、そして唯が写っている写真が飾ってあった。唯は俺がそれを見たことに気がついた。
「うふふ、みんな可愛いかったですね」
「いいや、唯は今も可愛いだろう」
「もう、お兄さん、私も少しは成長しましたよ」
唯はほっぺたを膨らませている。可愛い。
「本当に色々成長したな」
「もう、お兄さん、これでもだいぶ痩せのですよ。あと少しで60キロです」
そう言って、唯はベッドにダイブした。
「お兄さん、お願いします」
うつ伏せに寝そべっている唯はショートパンツを履いている。靴下は履いているが生足だ。俺はふくらはぎからマッサージを始めた。基本的に柔らかだが少しこっているところもある。そういったところを揉みほぐす。少しづつ太ももに移る。本当はオイルとかあればいいのだけど、俺はお風呂でボディシャンプーを使って、身体を洗いながらマッサージするけど。
唯は気持ち良さそうにしている。次に腰をマッサージする。
「すいません、お尻もお願いします」
「いいの?くすぐったいかもしれないよ」
「大丈夫です」
本人がそう言うのだから、いいのだろう。俺は唯のお尻をマッサージする。流石に緊張しているのか硬くなっている。
「大丈夫?楽にしないとマッサージしにくいよ」
「ごめんなさい、そうします」
唯は少しづつ緊張を解いた。しかし、あまりに触り心地がいいので俺の方が緊張してきた。妹をマッサージすることがたまにあるので慣れてはいるけど、これはちょっと。少し耐えられなくなったのでお尻から腰、そして背中に移った。
しばらくして、唯は寝返りして仰向けになった。
「お兄さん、マッサージうますぎます。あと、太ももの前側もお願いできますか?」
俺は唯の大腿四頭筋を揉みほぐす。ここが一番こっている。少し疲れてきたけど、唯は目がトロンとしていて気持ち良さそうなので頑張る。大体、ほぐれたところで、
「お兄さん、ありがとうございました。だいぶ楽になりました。でも、最後に肩もお願いします」
俺は唯に覆い被さるように肩を揉んだ。唯の顔が間近にある。メガネは外している。目が大きくて可愛い。俺が見つめていると唯は目を閉じた。なんかキスするみたいな体勢だけど、肩を揉みつづけた。しばらくすると目を開いた。
「ありがとうございました。交代しましょう」
今度は俺がうつ伏せになって、マッサージをしてもらった。唯の指は柔らかくて気持ち良かったので、だんだん眠くなった。
寝てしまったのだろうか?息苦しさを感じて目が覚めた。目の前にふくよかな胸があった。その胸に埋もれていたので苦しかったのだろうか?俺は子猫のようにそれを揉む。
「お兄さんのエッチ」
目の前が真っ暗になって、 意識が遠のいた。ハッとして目を開いたら、目の前には唯の勉強机、その上には虫籠を持って笑っている幼い俺の写真があった。
夢だったか、よかった。あれ?でも背中にぬくもりを感じる。体を起こして確認すると唯が寝ていた。俺が起きたのに気がついて、目を開いた。
「おはようございます。お昼寝しちゃいましたね」
「ああ、寝たのに気がつかなったよ。どのくらい寝たんだろう?」
「もう三時過ぎですね、おやつにしましょうか」
ゴールデンウィークの三日目が終わった。明日、一日だけ学校にいけばまた休みだ。




