十五話 登坂と掃除
月曜日、登校すると登坂が。
「おはよう御座います、昨日はご馳走さまでした」
と挨拶された。周りのクラスメイトに聞かれたら、誤解されないか?
「おはよう、大したことないけど」
と返した。席に座ると、結城もやってきて。
「おいっす!昨日のサイクリングはどうだった?」
「おはっす、楽しかったけど、少し浮いちゃったかな」
昼休み俺と登坂は近藤先生に呼び出された。職員室に行くと。放課後、部室の掃除を頼まれ、鍵を渡された。なぜ俺と登坂なのか聞いたら、結城は部活、唯と妹は放課後、特別補講があるのだそうだ。
思いがけず登坂と二人きりになれるチャンスだ。俺はどう切り出すか色々と考えたので、午後の授業は全然、頭に入らなかった。
放課後、急に話を持っていくのも良くないと思って、平静を装って、差し障りのない話しをしながら、運動部の部室棟に行って掃除を始めた。
「それほど汚れていませんわ、埃を払って、床を箒で履いて、モップで拭けばいいかしら?」
「そうだな、掃除道具は隅のロッカーか、俺はバケツに水汲んでくるから、登坂は窓を開けてくれるかな」
「わかりましたわ」
俺はバケツに水を汲んできて、雑巾を絞る。登坂はマスクをして、はたきをパタパタしていた。しばらくは雑談はしないで真面目に掃除しながら登坂の様子を気付かれないように観察したがマスクしているので良く分からなかった。このまま、話を切り出さないと折角のチャンスを逃してしまうので、モップで床を拭きながら。
「なあ、登坂、こうやって二人で部室を掃除するのは、久しぶりだな」
登坂は雑巾で机を拭いていたが、ビクッと一緒、手が止まり。
「そ、そうですわね、あの頃は楽しかったですわ」
「なんか、しばらく話とかしてなかったな」
「そうでしたわね、なんとなく時間がすぎてしまいましたわ」
「それでさ、チームの事もあるけど、俺たち二人のことなんだけど」
登坂は掃除の手を止めて、俺の前に立ち、マスクをはずして、じっと見つめてきた。
「なんですの?」
「あのさ、中学の時は俺たち」
「まって、今、その話をするの?」
「チームのメンバーだし、俺たちの関係をはっきりさせたたいんだ。
登坂は少し間をおいて。
「わかりましたわ、でも、ここではダメ、少し考えさせて、今は掃除を終わらせましょう」
「わかった」
俺たちは掃除を再開した。取り敢えず話は聞いてくれるようだ。
掃除が終わって、帰り支度をしている時に登坂がスマホで何か打っていた。打ち終わると俺のスマホに着信があり。
「登坂がそこに来てちょうだい」
と一言だけ言って、立ち去った。スマホを見ると、場所と時間のメッセージが入っていた。
俺は部室の鍵を職員室に返してから、登坂が指定した学校と駅の中間にある公園に自転車で向かった。
公園に行くと登坂が待っていた。登坂は辺りを見廻してから。
「ついてきてちょうだい」
俺たちは無言のまま、自転車を押し少し歩いて、高級そうなアパートの前に着いた。登坂はアパートの駐輪場に自転車を止め、俺もそこに自転車を止めた。
登坂はアパートの一階のある部屋のドアを開けて。
「入って」
と一言だけ言った。俺は登坂について中に入った。
「お邪魔します。登坂、ここは?」
「わたくしの部屋ですわ。自宅から遠いので、一人で、ここに住んでいるの」
登坂のアパートは入ってすぐにクロゼットとトイレ、その奥に小さなキッチンとリビング、奥に寝室があるようだった。俺はリビングに通された。
登坂はテーブルに鞄を置いてから、振り向いた。そして、俺と登坂は向き合い、見つめ合った。登坂は今にも泣きそうな顔をして。
「それで、話したいことは?」
「うん、俺たち中学の時は付き合っていたよな」
「ええ」
「で、言いにくいんどけど、俺が、その、エッチなことして、凛にビンタもらって、その後、電話でしばらく距離を置こうって、電話もラインもブロックされて、そのまま、高校に入ったら、無視されたし、嫌われたのかと、思っていた。けど、二年になってから、話す機会ができたし、俺のことどう思っているか、はっきりさせたいんだ」
登坂の目からは涙がこぼれて、
「ご、ごめんなさい…」
えっ?やっぱり、ダメなのと、一瞬、思ったけど、そうではなさそうだ。
「わたし、意地を張ってました。ずっとあなたから、そう言ってくれるのを待ってました。あなたに声けて貰いたくて、一生懸命、綺麗になろうと努力したけど、あなたは、声をかけてくれなくて、いつしか、そっぽ向く様になってしまって、でも、あなたへの気持ちはかわらなくて、同じクラスになったのを機会に少しだけ、わたくしから近づきましたの」
登坂は俺の胸に飛び込んできた。俺は肩を抱き、頭を撫でた。しばらく無言で抱き合っていたが、登坂は少し離れて。
「コーヒー、淹れますね、ソファーに座って、少しお待ちください」
(挿絵はイメージでAIで作成)
俺は二人掛けのソファーに座る。ソファーの前にはローテーブル、その前には大画面のテレビがあった。さらに部屋を見廻すと、窓側にロードバイクが固定ローラーに設定されている。よく見ると最新型のスマートローラー、俺の固定ローラーは後ろのホイールを外さないでタイヤでローラーを回すタイプでタイヤのカスは出るし、五月蝿いし、マグネットで負荷がかかるだけの安いやつだが、これはダイレクトドライブといって、ホイールを外して直に自転車を付けるタイプだ。しかも、スマートローラーといって、アプリと連携して色々なトレーニングが出来るやつだ。流石、お金持ちだ。
俺は立ち上り、登坂の自転車の所にいって、あちこち見た。後ろから登坂がやってきて、テーブルにコーヒーを置いて、後ろから耳元で囁くように。
「あら?高梨君、わたくしの自転車のサドルを触って、いやらしいですわ」
あっ?無意識にサドルかに手をのせてしまったが、ここは登坂が跨って、汗を流しながらトレーニングしているサドルだ。俺は慌てて手を引っ込め、振り向いて。
「すまん、そんなつもりでは無かった。憧れのスマートローラーがあったので思わず」
登坂はいたずらぽく、微笑んでいた。
「いえ、減るもんじゃないし、構いませんわ」
「でも、いいなぁ、もしよかったら試させてくれないか」
「ええ、構いませんわ、ただ、わたくしの自転車はわたくしに合わせてあるので、あなたの自転車を使ってくれないかしら、取り敢えず、コーヒーをのみませんこと」
俺たちはソファーに座ってコーヒーを飲みながら、これからの付き合い方について話し合った。基本的には中学の頃と同じ感じだけど、スキンシップはキスまで、ハグとか触るのは服上からはOK、もちろん嫌がるようなことはしない。
話をしている時、登坂は意外にも俺にすり寄ってきて、俺は登坂の感触を味わう事ができた。ただ、登坂にビンタされた事もあるので、肩と頭を撫でるぐらいにした。あと、妹の事も気にしていて。
「あなたの妹さんに嫌われるのは嫌なの、出来れば仲良くなりたいし」
「うん、昨日のサイクリングでだいぶ良くなった気がするけど、もう少しかな」
「それにしても、妹さん、とっても可愛いし、あなたととても仲良くて、ちょっと、羨ましいですわ。わたくしもあんな可愛い妹がほしいですわ」
俺と一緒になれば付いてくるぜ、とは言えなかったが、もし、そうだとしても、仲良くならないとな。
ずっと登坂のアパートのいるわけにはいかないので一時間ほどで帰る事にした。玄関で靴を履いて、挨拶しようとしたら登坂が俺を見つめて、目を閉じた。
えっ?キスしろと?だが、俺は登坂の前髪を指で退けて、額にキスして。
「今はこれで精一杯」
と言うと、イタズラっぽく、唇に指を当てて。
「次はここにくださいね」
「おっおう、覚悟しておけよ」
俺はアパートをでて、スッキリとした気分で家に帰ったら、妹が。
「遅くなるなら連絡してね」
「いや、まだ七時だぞ」
「なんか怪しいなあ、スッキリした顔して」
と言って、俺に近づいて。
「クンクン、女の匂いがする」
えっ?確かに登坂はいい香りだったが、自転車で風切ってきたし、匂いなんてわかるか。
「別に、登坂と部室の掃除してただけだよ」
「おっかしいなあ、私たち授業、終わって部室にいってみたけど、誰も居ませんでした。お掃除のあと登坂先輩と一緒だったんでしょ!」
「うっ、それは…」
「で、仲直りは出来たのかな?」
「はっ、はい」
「それは良かった。良かった」
と俺の頭をポンポンと撫でた。
「心配かけて、悪かった。あとでちゃんと話しするから、取り敢えず風呂入ってくるわ」
風呂に入り、妹が作った夕食後、俺は今日の出来事を妹にはなした。登坂が妹と仲良くなりたいと言ってた事については「私も努力する」との事だ。




