十二話 赤城神社ヒルクライム
赤城山ヒルクライムの高校チーム戦の志願書を提出し、あとは選抜結果を待つ事になった。唯とゆかりも願書を提出した。もし、選手に選抜されたら夏までに制限時間内に登れるようにしないと完走ボーナスが貰えないので今までより、綿密にトレーニングの計画を立てる必要がある。
新学期が始まって数日が過ぎて登坂と俺は席が近いので挨拶程度だが話しをするようでなったし、無視されなくなったので少し気が楽なった。
通学は朝だけ、三人で通学して、帰るは別行動となった。
さて、今日は日曜日、定例の唯のトレーニングに付き合う日だ。ただ、今日はゆかりも一緒だ。今日の予定は今、桜が満開の赤城山の中腹にある千本桜公園だ。距離と獲得標高、登る高さは先週の畜産試験場と変わらないので唯は大丈夫だと思うが、ゆかりが心配だ。そして、出来れば赤城神社まで登れたらいいなと考えている。
朝七時に通学時の待ち合わせ場所に集合として、朝食を軽く済ませて、俺は妹と一緒に家をでた。唯には今日は登るのでお弁当を持っていくと重いので用意しないように伝えた。
待ち合わせ場所には、待ち合わせ時間の10分ぐらい前に俺達の方が先に着いた。自転車を下りて待っていると、まもなく唯が来て。
「ごめんなさい!待ちましたか?」
「唯ちゃん、おはよう、大丈夫だよ、まだ時間じゃないし、私達も来たばかりだし」
「唯、おはよう」
唯も自転車を降りて。ぺこりおじぎをして。
「お兄さん、ゆかりちゃん、おはようございます」
「じゃあ、今日の予定はLINEで連絡したけど、大胡に向かって走って、フラワーパークの手前で休憩、そこまで10kmぐらいはほぼ平坦なので1時間かからないと思う。それから赤城神社方面に向かう。そこから残り5kmは急になるから頑張ろう」
「ハイッ!」
と唯とゆかりは元気よく答えた。なんか運動部みたいになってきた。
俺が先行して、ペースを作る。時速15から20kmぐらいで走った。大胡までは平坦だけど国道50号を越えるとわずかに坂になっている。俺は後の二人が無理なくついてこれるか確認しながら走った。
問題なく、大胡の町を過ぎて、橋を渡り、少しするとボロボロなトーテムポールみたいな、多分、国定忠次?があるところで左に曲がって脇道に入って川沿いを走り、一時停止を左折を越えた先にあるコンビニの駐車場に入った。
出発してからコンビニまで約45分、予定通りだ。俺はここで少し休憩することにした。二人の様子を伺うと、唯は少し汗ばんでいたが、ゆかりはけろりして、問題無さそうだ。
「どう、大丈夫かな?この先は坂が急になるから、少し休憩しよう」
「はい」
と二人は返事して、自転車を降りて、コンビニの脇に自転車を止めて、二人一緒におしゃべりをしながら店内に入り、トイレに向かった。
その後、二人は飲みものを買って、戻ってきた。コンビニ前の柵にもたれて、おしゃべりしながら紙パックにストロー刺して飲んでいるのを向かい側で眺めていると、妹が。
「にいちゃん、飲む?」
と言って、自分が飲んでいた飲み物を差し出した。俺は。
「サンキュ」
と言って、それを一口吸って返した。それを見ていた唯も。飲んでいた飲み物を差し出して。
「良かったら、私のも飲みますか?」
と飲み物を差し出した。俺は「えっ?良いの?」
と思ったが、遠慮なくいただいた。それを返すと、唯は恥ずかしそうにストローをすった。それを見ていた妹が。
「唯ちゃん、それ、間接キスだよ」
唯は焦って。
「だって、ゆかりちゃんだって」
「私はいいの!にいちゃんだから」
「すまん、気が付かなくて、いつもの癖で」
「ゆかりちゃんは良いです。お兄さんがいて」
妹はすまそうに。
「ごめんね、唯ちゃん」
なんか気まずい雰囲気なので
「まあ、俺は唯のことも妹のように思ってるから」
そういうと唯は複雑な顔をして、少し考えてから、にっこり笑って。
「もう一口飲みますか?お兄さん」
俺はまた飲み物を受けとって、飲もうとしたら空だった。
「空っぽだよ」
三人で笑って、気まずい雰囲気は消えた。仕切り直して。
「さて、登るか、ここから先は急坂だからなるべく、ゆっくり登ろう。特に登り始めが急だから注意して、ギヤはインナーロー、一番軽くして、えーと、唯、出来れば先頭走ってくれないかな?道は分かるかな?」
「はい、フラワーパークの方に曲がって、後は真っ直ぐですよね」
「にいちゃん、なんで唯ちゃんが先頭なの?」
「ああ、それは唯はこの間、ここじゃないけど、坂を登ったことがあるし、二人の走りを確認したいから」
「そうなんだ、分かった」
「あと、もう登れないと思ったら足ついて止まっていいから」
「大丈夫だよ、にいちゃん」
そして三人で登り始めた。赤城神社までは5km弱で5%ぐらいの坂が続き、初心者向けと言えるが7から8%ぐらいのところがあり、始めたばかりの二人が登れるか心配だ。ただ、赤城山ヒルクライムのコースの急なところと同じくらいの勾配なのでここを登る事ができれば、赤城山ヒルクライム完走の可能性が見えてくる。
後ろについて、走り方を観察すると二人の走り方は全く違う。唯は体が重いのか体をゆさゆさ振って登る。多分、ペダルを力強く踏まないと登らないのだろう、逆にゆかりは軽いのであまり踏んでない感じだ。体重差は20kgはあるので当然だろう。
自分の体験だが、デブは速くなる可能性が高い。デブは普通の時でも重い身体を動かすための筋肉が必要だ。例えばバーベルを一日中持って筋トレしているようなものだ。そしてデブが坂を登るのはハードトレーニングだ。脂肪が落ち、筋肉は鍛えられ、心拍機能も強化される。更に体重が減ると速く登れるようになる。例えば、赤城山ヒルクライムの場合は体重が1キロ減るとタイムが一分縮むそうだ。つまり、20キロ減れば20分、更に筋力の心拍機能強化により10分短縮となり、単純には赤城山ヒルクライムのタイムが二時間だったとしたら一時間半で登れるようになると言うことだ。
登り始めて2kmぐらい、時間にして15分、二人はかなりキツそうだ、唯はかなり汗をかいているようだ。
「大丈夫かあ?」
と声を掛けると。
「にいちゃん!いつまで続くの!ずっと坂じゃない!」
唯までは声が届かなかったのだろうか、黙々と登っている。
「あと少し、国道まで登ったら一休みしよう」
この道は赤城神社への参道で登りでは右手は松並木になっている。松の下にはツツジが植えられて四月下旬から五月上旬までが見頃でなかなか見事だ。
交差する国道353号の信号手前で俺はギヤを二枚重くして、軽くダンシングして、二人を抜きながら。
「信号の手前で歩道に入るから、一休みしよう!」
俺が先導して、歩道に入る。続いて、唯、ゆかりが歩道に入る。唯は自転車に跨ったまま、息荒くハアハアしている。ゆかりは自転車を降りて、自転車を歩道脇にそっと倒してから、手は後ろでお尻ついて、ハアハアしながら。
「にいちゃん、やばい、唯ちゃんに付いていくのが精一杯だったよ、唯ちゃん凄いよ!」
「そ、そんなことないよ。お兄さんなんか全然、平気そうです!」
「そうよ!にいちゃんは凄いんだから!」
「ゆ、ゆかりちゃん、お兄さんが大好きなんですね」
唯がそう言うと妹は顔を赤くして。
「そんな事ないよ。エッチだし」
まあ、それは否定しないが。
「いいな、ゆかりちゃん、お兄さんと仲良くて」
五分くらい休んで、二人の息が整ってきた所で。
「さて、まだ登れそうかな?この信号の先は急に見えるけど、ここを過ぎればだんだん勾配が緩くなるから、あと、俺も登りたくなったので先に登るから、二人でゆっくり登って、それで良いかな?」
二人は「わかった」返事したので、俺は二人と別れて登ることにした。
自転車に跨り信号が青になったところで三人で再スタートした。俺はいきなりダンシングで急な所をやり過ごす。息が上がって苦しくなったところで、シッティングに移り、巡航速度で登る。約五分で神社手前の空っ風街道と交差する信号に捕まったので、そこで折り返し、登ってきた道を下る。
下りはかなりスピードがでて、汗が冷えて、気持ちいい、すぐに、懸命に登る二人の姿が見えた。すれ違いでブレーキを握って、Uターン、また、後ろについたところで、ダンシングで二人を抜く、抜きながら。
「頑張れ!あと少しだ」
そして、また信号まで登り、また下る。それを三回繰り返ししたところで、二人も信号まで登ってきたので、俺はまた二人の後ろに付いて、神社までの緩い坂を登った。
そして、鳥居までたどり付いた。
「よく頑張った。ここまで登ることができれば、赤城山ヒルクライム完走も夢じゃない」
「やったね、唯ちゃん」
「みんな、お兄さんのおかげです」
息が落ち着いて来たところで、境内に入り、交通安全、唯たちが完走できますように、それと良縁を願った。
参拝が終わり、自転車を止めた鳥居の前まで戻ったところで写真を撮ることにした。自転車を並べて、唯とゆかりの写真を撮る。
「にいちゃんも一緒に撮ろ、こっち来て」
妹の近くまで行くと、妹は俺の後に手を回して肩を引き寄せ、反対側の手を伸ばしてスマホで写真を撮った。
「ヘヘ、後で送るね」
「ゆかりちゃん、ずるい」
「じゃあ、二人並んで、撮ってあげるから」
と言うことで、唯は俺の横に並んだ。
「じゃあ、撮るから唯ちゃんもっとくっついて」
唯は俺の腕に寄り添った。
「はい、チーズ!」
あの唯ちゃん、俺の腕にふくよかな胸が当たってるんだが。
「参拝したし千本桜に向かおう、少しだけ坂があるけど後は下りだから、頑張ろう」
俺たちは少し下り、空っ風街道の信号を東に曲がり、少し登り、下って、川を渡りまた少し登った。これが最後の坂でそこを登り切ると、千本桜公園の北側の入り口だ。入り口付近で自転車を止めて。
「おつかれ様、二人とも大丈夫かな?」
二人からの返事はない、赤城神社がゴールで気力と体力が切れたところでまた登りでかなり辛かったのだろう。気配りが足りなかったようだ。二人が落ち着いたところで。
「ごめん、無理させちゃて」
「大丈夫です。お兄さん」
「にいちゃん、大丈夫だよこのくらい、少し休めば」
「じゃあ、動けるかな、お花見を楽しもう」
俺たちは園内は花見の時期は車両侵入禁止なの自転車をおして公園の北口から入った。自動車の場合は反対側の南側から駐車場に入る。
園内はまだ時間が早いのか、それほど混んでなかった。桜は満開で見頃だった。公園の中心部まできたところで唯が。
「綺麗ですね、見てください、菜の花がたくさん」
菜の花が一面に咲き、桜とのコントラストが素晴らしい。
「あそこに行ってみよう」
景色が良さそうなベンチを見つけて、三人で座って花見をする事にした。最初にゆかりがベンチの端に座ってその反対の端に唯が座って、真ん中が空いているが、俺はそこに座って良いのだろうか?
と考えていたら、二人して、「どうぞ、どうぞ」と言っている。俺は少し恥ずかしいが二人に挟まれて座った。
桜を見ていると心が和む、冬が終わり、やっと赤城を登れる。良い季節だ。左右の温もりも気持ちいいし、しばらく、桜の事とか赤城山ヒルクライムのチーム戦のことこか話をしながら花見をして、二人の体力が回復したのを見計らって、帰ることした。
家に帰りシャワーを浴び、昼食後、くつろいでいると、三人掛けのソファーに寝転んでいたゆかりが。
「にいちゃん、疲れたけど唯ちゃんも一緒、だったし、楽しかったよ。それにしても、にいちゃん、あんなに速いんだ。やっぱり凄いや」
「いや、なんかおまえにそんなこと言われると照れるな」
「それにしても、疲れた。明日、筋肉痛かもマッサージしてよー、でもお尻はダメだよ。ちょっとならいいけど」
と言ってうつ伏せになった。俺は妹の尻を軽く叩いて。
「バカなこと言ってんじゃないの」
「ちぇ、にいちゃんのケチ」
本当はマッサージしてあげたかったけど、それはまずいだろう。
赤城の千本桜は前は四月中旬だったけど、最近は四月上旬になってきた。
温暖化の影響だろうか、CO2排出削減のためにも自転車に乗ろう。




