第八話 苺沢:いちごさわ
桜並木を歩いていて、
その終着点から少しの間、苺の沢。
『苺沢』はもしかして、
そうやって魔法でできるのかもしれない。
とにかく通りに旅人たちが
挨拶をしあう習慣ができて、やっと落ち着いてきた。
最寄りの関所、
そこは吸収されずに残った名もなき場所と化している。
関所の門も半分ほど崩れ、
風当たりが強い気がする。
周りには難民があふれていて、
政策はとられているのか分からない。
助けようにも、まず、言葉が通じない。
困り果てたサカエルは俺の服の端をひっぱって、
「今までありがとう」と言った。
光り輝いたサカエルは、
「君のおかげで綺麗な願いでいっぱいだった」と笑った。
その輝きのまぶしさに
思ず目を閉じている間に
消えてしまったサカエル。
そして目を開けて広がった情景に、皆が驚いていた。
関所を皮切りに、豆苗が辺り一面に生えている。
「なんて美しいんだ」とぼやいた私に、どこからか声がした。
「魔法の杖は君にあげる」そう言ったのは、サカエルの声だった。
魔法の杖は持ち手に青い石と茎に螺旋じょうの飾りがある。
額の角のタガが外れて「君は、『栄える』と言う聖霊なのか」とやっと聞けた。
「そんな感じだよ」と空に溶けたサカエルの声がした。
後日、その場所は昔の名前を探し出され、復興を成すことが決定。
国は、私の話を吟味して、報せを出した。
この関所近くの地区を、昔「サカエ」と言った。
そしておそらく、私の出会った存在は、その意思サカエルである。
『サカエ町』という名前の地区に戻ると、
その場所の奇跡が新聞に載っていた。
おもに関所の前には屋台が立ちならび、
ゆくゆく市場として屋根などの施設も予定。
サカエ通り、と言うことになりそうだ。
それから、坂や道、酒のブランド、苺などにも
『サカエ苺』という風に親しみの名。
・・・寿だと皆が喜んでいる、と報告を受けた。
しばし滞在し実際に目で見るに、
ずいぶんとした速さで栄えたと思う。