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第三十八話 これからのことを悩むのは今じゃないかもしれない
複雑な気持ちのするこの胸元を取り出しても、溢れてくるのは思い出みたいなもの。
とても美しい、楽しかった、彼への、思い出みたいなもの。
なぜこんな気持ちになるんだろう、と考えあぐねるには時間が必要かもしれない。
いったん実家に帰って、羽根を休めるといい、とチョウからの言伝。
パラリーの標本の献上は喜ばれ、
そしてチョウが推したこの記述は
そのあと書いたこの嫌味みたいなものごと王様に気に入られたらしい。
これが出版されたら、そう言えば休むんだった。
分からない。
今は。
旅の疲れが出たのかもしれない。
私の好むのはヒトガタの女性である。
冒頭に書いてあった。
ただ、自分の身を捧げてまで親友の羽根を結ったチョウは、
いつまでも私の心の中に、
お前はたしかに美しいよ、と嫌味なのかなんなのか分からないまま
たしかにしばらく、残りそうだ。
ここで、この見聞録は終わる。
【著 アリアス・サカユ 】