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それぞれが見えた



  *



 俺の名は木下(きのした)(きょう)。32歳。

 腹違いの妹がいるが一般人として生まれた子で、異能世間のことは何も知らない普通の女子高生。

 父は特殊な第三級異能を代々引き継いできたが、妹には継承されなかったようだ。 

 俺はその妹に怪しまれていただろうが仕事のため外出してきた。 



 俺の任務は、そのほとんどが汚れ仕事で工作活動。

 所詮、代行者(だいこうしゃ)とはその程度。


「木下代行だ」

 俺は自分の代行認定カードを提示し、現場の公園に入る。


 入るとすぐに認識できるほどの結界の内部に、報告通りの女性型影人。

 特に暴れる様子もなく膝を折り、俯きつつ体から光を出している。

 そんな体勢でピクリとも動かない、まるで石像のようだ。

 

「ほう、これがCSS(シーズ)かもしれないと? 一体誰の主張だ」

 俺は隣にいるギアの、20代前半の羽柴(はしば)に問う。

 基本的に命星(ガイア)に所属する代行者は一人での活動もできるが、その役柄上ギアを組んだ方が有利に、そして安全に事を進められる。


「二ノ沢の娘です。結界の指示も、女性型の影の制圧も全て彼女自身が自分でやったと供述しています」


CSS(シーズ)の第一発見者、二ノ沢楓か。確か成瀬(なるせ)とかいう男子と霞流(かする)家の長女の担当異能士もやってるだとか」


「ええ、元『(あお)い閃光』のギア」



 ……A級異能士である彼女だけで、そう簡単にCSS(シーズ)の捕獲に成功したりするのか?


 俺は妙な不自然さを感じつつも、その感情を振り払う。


 なんでもいいけれど、とにかく俺はあたりを観察した。

 公園内には沢山の異能関係者。代行者だけじゃない。著名な異能士や、あの人気歌手、伏見玲奈までお越しか。

 さすがCSS(シーズ)の捕獲に成功したとなると話がでかいようだ。

 恐ろしく優秀な面子(めんつ)が揃っている。


 これからこの切れ者たちに包囲されつつ、時には命を狙われるかもしれない。本部へ引き渡されるまでの間、そんな過程がある女性型影人に同情した。


「どうです? あの影人……何か見えますか?」


 赤い結界の内部にいる女性型に視線を送り、そう聞いてくる羽柴。


 他人が聞けばその言葉の意味は不明なものだが、俺や俺のことを詳しく知る人物からすると、明白な内容だろう。 


「いいや相変わらずだ。影人のオーラは読み取れない」


 だがなんだろう。彼女……この女性型には敵意が湧かない。


「『第三の目(オーラサイト)』保持者の(きょう)さんでも、やはり人間以外の物のオーラは読み取れませんか」


「相変わらずだ」


「それでも、人間のオーラや象徴を読み取るなんて、凄いですよ」


「時に邪魔なことはあるがな。見たくない物だったとしても見える時がある」


 伏見玲奈は燃えるような橙色(オレンジ)のオーラが見えるし、その中にある因子からは「決別」の色が見える。何との別れかは見当もつかない。

 同様に他の奴も何かしらが見える。それはその人自身の雰囲気だったり、人生の方向性だったり様々。

 俺の妹は最近、ピンクのオーラが漂うので恋をしているだとか、大体そんなことも分かる。

 要はその人を象徴する何かが見える、(うらな)いのような技術でもある。

 占いと言えば霞流(かする)の旧当主の妻、霞流ミトは凄腕の占いを異能力として持っていたとか。

 

 そんなことに思考を巡らせつつ俺は結界に近づこうとした矢先、目を大きく見開く。


「お、おい……」


 俺は羽柴の肩を軽く叩き、身体の向きを変えさせてある男子の方へ向ける。


「はい……どうかしました?」

 不可解な面持ちで尋ねてくる。


「あの男子はなんて名前だ?」


 俺は切迫していたか、この時のことをよく覚えていない。

 あまりにも衝撃で、今まで見たことのないような異様な、まさしく驚異のオーラを保持している者がいた。それだけを記憶している。


「えっ……どれです?」

 

「ほら、あれだ。あそこにいるマフラーをした男子だ。霞流の長女と一緒に談笑している高校生くらいの」


「あー、彼が先程も話した成瀬統也(とうや)です。二ノ沢の見習いギアかと思われます。彼がどうかしました?」


 俺の脳内は混乱に沈み、まるで現実を受け入れきれなかった。



 信じられない。


 どういうことだ?

 

 一体何が起こっている?


 俺は今、何を見ている?

 神秘か、概念か、次元か。


 いや違う。




 あれは―――――――。



 

 俺はその青年、成瀬統也を見て口を開く。


「羽柴、お前……あれが……。あれが………ただの人間に見えるのか?」


「えっ……それはどういう意味です? どう見ても人間に見えますよ。普通の男子高校生じゃないですか。……珍しいですね。京さんがこんな時に冗談を言うなど」


「冗談な……ものか……」


 ああ、冗談なんかじゃない。


 彼が人間だというならそうなのかもしれない。


 だが、それ以上にあの異質な表徴……。


 ……まるで次元が違う。




 あれは……。





 ―――――――『(おう)』そのものだ。





  *

 


 私、(リー)翠蘭(スイラン)は考えをまとめ、一つの結論を出す。


 彼は―――侵入者―――で間違いない。



 名瀬統也さん、それが彼の本名で名瀬一族の直系。

 彼が展開する『檻』を目視したので確実。

 

 しかしそんなはずはない。

 この世に実在する名瀬一族は、名瀬杏子さんただ一人しか存在しないはず。


 私の見た資料に散見される内容ではどれも、杏子さんが名瀬一族最後の希望と書かれている。

 機密情報なので一般の異能士が知ることはない事実ですが、それでもやはりおかしい。


 あり得ないのではなく、おかしい。

  

 雷電一族に関してもそう。小坂(こさか)鈴音(りんね)さんが雷電一族であるのは明白。

 その彼女が存在するのも、あり得ないわけではない。しかし不可解。


 その事実を隠しているのは他でもない「青の境界」の力。



 でも、どういうことなんです? 


 仮に統也さんが侵入者だったとしても、その目的が分かりません。


 九神(くじん)の奪取? 


 いや……。



 彼はおそらく私たちなんかより、ずっと多くの情報を持っているでしょう。

 影の正体、発生原因。それらもとっくに掴んでいるのでしょう。

 そしてその上で何かをしようとしている。


 実は、かく言う私も初めから影人が何なのかを知っています。


 里緒さんの前でやるか迷いましたが、彼に影の正体について意見もしてみました。

 結果、彼は予め察知していたはずの木の裏に隠れる影人にその時反応したかのよう振る舞い、誤魔化した。

 つまり今、この段階では影の明確な正体を明かしたくないと考えている。だから私の意見を拒んだ。

 

 この際その理由は置いておいても、彼の目的が分かりません。


 少なくとも私から見た彼は、背負い過ぎている。





  

お読み頂きありがとうございます。今日はまだ投稿する予定ですが、時間は未定です。


この作品に興味を持ってくれた方、続きが見たいと感じてくださった方がいれば、高評価、ブックマークなど是非お願いします。


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