決闘大会当日【7】
オレと舞、式夜の三人が…雷の加護という名らしいパッシブスキル…防御の弱点について会話していたときだった。
「次の試合は、ホワイトDクラス、現在序列第三十二位『切梨沙月』。ホワイトCクラス、現在序列第四十一位『高山玄貴』」
次の放送が流れる。
その試合が始まり、二人の決闘が幕を開ける。
同様に観戦からの声援。
気持ちを切り替えたオレを含め、三人はしばらく会話もせずただ決闘を眺めていただけだったが数分後、ホワイト生徒同士の戦闘を見ていた舞が唐突に口を開いた。
「三十二位」
「ん?」
彼女は三十二位という順位だけ単体で述べたため、オレにはその意図が理解できなかった。
仮に決闘順位のことを言っているのであれば、現在決闘中の生徒「切梨沙月」さんがその順位……三十二位だが。
「お前が言うならそうなんだろ」
式夜はその言葉の意味を理解しているようだった。
どうやらこのセリフを理解していないのはこの中ではオレだけらしい。
言葉の意味は分からなかったが、オレは再び決闘の試合へと目線を向けた。
数秒後。
ビーーー!
「只今の決闘、高山玄貴の行動不能により、勝者、切梨沙月」
放送と同時に周りの生徒が沸き立つ。
切梨という女子生徒が体内熱量を変化させる異能で相手に勝利する。
―――これは……。
次の試合。
「十七位」
舞は試合が始まってしばらくしてからそう告げる。
その数秒後。
「只今の試合、笹山美奈江の戦闘不能により、勝者、佐上アイ」
まただ。
今回の勝者、佐上アイは決闘順位第十七位と決闘前の放送で紹介されていた人物。
さらに次の試合。
「十四位」
恒例とでもいうように試合の途中で舞がポツリと発言する。
「只今の試合、工藤美央の戦闘不能により、勝者、シュペンサー・火花・クルス」
同様に十四位のホワイト生徒が決闘で勝利する。
なんだこれは。何かの冗談か?
オレは耐えかねて口を開く。
「舞、まさかとは思うが決闘の結果を予知できるのか?」
隠しているようではない、むしろオレにこのことを故意に教えようとしているようにも感じたため何のオブラートにも包まずダイレクトに尋ねた。
「え~どう思う?」
ブドウ糖入りと書かれた黄色い棒付き飴を舐めながら聞いてくる。
普通の飴に含まれる糖分はいわゆる砂糖、ショ糖といわれる単糖。ブドウ糖とは異なるものだが、ブドウ糖入りの飴ならしっかりと脳内に必要な糖分を摂取できる。
「ふざけてないで答えてやれ」
と式夜。
「ん~でも、あたしが答えなくてもとうちんほどの頭があれば、何かしらの結論は出せると思うけど」
「はぁ……お前、わざと統也に教えてたんだろ? 気づくよう仕向けてた……そうだろ? いいから答えてやれ」
「え~でもー……」
オレはその言葉が言い終わる前に、
「先ほどから舞が出してる結論は数秒後の事柄だけ……そう感じる。例えば決闘中の数秒先の未来を何かしらの方法で予知し、それをオレ達に伝えていた、とかな。よって、数秒後のことを予知できる能力か何か……を持ってるのか?」
そんな強力な感覚系統の異能など聞いたことが無い。
だが今思えば、決闘の対戦相手、組を知らされていない一般生徒……しかも異界術部である舞が、鈴音さんの二回戦目出場を予め知っているのは不自然だった。
オレのように鈴音さんと個人的な付き合いや関係があれば話は別だが、そういうわけでもないだろう。
「わぁおー。さすがとうちん」
この反応。
「……当たってるんだな?」
「ん~? どうかなー」
よく分からない曖昧な返事が返ってくる。
「……まあいい。詮索しない方がいいならそうするが」
「別にー。そんなことは言ってないよ~」
すると耐えかねたか、式夜が割り込んで会話に入ってくる。
「統也、あまり大きな声で言えることでもないかもしれんが、お前は相当頭がいい。舞はおそらく後々バレるくらいなら今、明確に教えようとしてるんだ……多分な」
ああ式夜、それは分かっている。
「とうちん個人がどんな人で、どんな秘密を隠しているのか。それを私に教えてくれたらねー……。もしかしたら教えるかもねー」
それで交渉のつもりなのか。功刀家の次女。
「オレは何も隠していない」
「さーどうだろね~」
「たとえ隠していたとしても、こんな観戦席のど真ん中で答えると思っているのか?」
「それはとうちん次第では?」
舞が普段とはかなり異なる鋭い目線でオレの目を見る。
オレはその目線から一切逸らさない。
今日の朝の式夜。この立体体育館の入り口付近で。ホワイト生徒が朝早くから来ているオレらブラック……特に舞を貶した際に、彼はいつも以上に反抗的な態度を取っていたという場面があった。
オレが式夜を手で押さえ、何とか事は未然に防げたというシーンだ。
あのとき既に、オレは確信を得ていた。
あの時の式夜の言動とその流れは舞が貶されたことに耐えられなかったということ。
つまり舞は、実力が貶された場合に評価が下がったと感じられるほどの実力を持っている。
彼のホワイト相手に突っかかろうとした行動などから考えるに、舞は相当に強いということか。
普通「実力のない者」に対し「実力がない」との言葉を浴びせても、それは正論であり反抗するほどのことじゃない。
だが式夜は異常なほどに今朝受けたホワイト生徒の軽蔑の口説に苛立ちを覚えているようだった。
それは、舞が本当は「実力がない者」ではないから。
オレはゆっくりと口を開く。
「舞、もしオレが君の想像通り何かしら秘密を持っていたとしても、それを話すのはオレがあんたを相当に信用したとき」
だが……。
そんな時は一生訪れない。
そもそもオレはここの人間を信用していない。
いや……できないんだ。
例えそれが、鈴音でも、里緒でも、玲奈でも、命でも。
それは同じこと。
「そんな時……来るの?」
舞が静かに聞いてくる。
「さあ」
オレは嵐のような思考を巡らせつつ、自分の口調を落ち着かせ、答える。
オレと舞は騒がしい二階観戦席の中で、場違いな緊張感を走らせた。
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