舞と式夜【3】
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成瀬統也が立体体育館から出て帰宅した後。
午後10時を過ぎていたため居残り練習をしているホワイトの生徒数も徐々に少なくなってきた。
「おい舞、さっきのどういうつもりで言ったんだ?」
観戦席に座っている式夜が強めの口調で舞に問う。
「なにがーー?」
陽気な舞は黄緑色の棒付き飴を取り出しそれを舐め始める。
「進藤に惚れちゃうだとか統也に言ってたろ……お前、進藤のこと嫌いだったんじゃないのか?」
「えーーーブラックをゴミ扱いする人なんて大嫌いだけど?」
「じゃあなんであんなこと言ったんだ?」
「うーん、なんでだろ」
「とぼけるのか?」
「とぼけてないって。……進藤くんって確か、一日目の異能士学生臨時解放のときにいきなり影に遭遇して、そのまま討伐しちゃったんでしょ?」
「……って話だな。なんか昼間に影人が出現したとかいう特別的な事例でもあったんだろ? 普通は夜にしか活動しないはずなのに、ってな」
「しかも進藤くんは私たち異界術士をブラックと毛嫌いしてる。そんな前提で、とうちんが彼と知り合う状況はかなり厳しいと思うなー」
彼女は優れた頭脳で、当然のように彼らが異能関係の知り合いであることを見抜いていた。
「は? 何言ってる? 普通にプライベートの知り合いかもしれんぞ」
「一回しか会ってないって言ってたよ?」
「一回しか会ってなくても同じことだ。プライベートで一度会っただけの関係かもしれんだろ」
「なわけないよ」
舞がぴしゃりと言い切る。
「……どうしてだよ? どうしてそう言い切れる?」
「とうちん、『進藤』って苗字を言っただけで反応してたしー」
「ん? どういうことだ?」
「だーかーらー、進藤って苗字は別に珍しい姓じゃないでしょー? なのに異能関係の進藤という姓を口にしただけで進藤樹くんだって断定している時点で、異能関係の付き合いなの! 分かる?」
「すまんな、ちょっとわからん。IQ200以上のお前のことだ。何か考えあっての発言なのは分かるが……」
「私は最初、異能に関わってるって前提で『進藤くん』って苗字しか言わなかったの! なのに、とうちんは進藤という苗字を聞いただけでその人を樹くんだと決めつけてた感じだった。ってことは、『異能に関わる進藤=進藤樹』って彼は考えたの!」
「んん……?」
式夜はまだ舞の言いたいことを理解していないようだった。
「つーまーりー、異能士学校であるこの場で発言した「進藤」って姓に反応してたってことは異能関係で彼ととうちんは知り合ってるはずなの!」
式夜は気付いていないが、舞はさっきから同じ説明を言い換えているだけである。
「やっぱお前、頭はいいけど説明は下手だ」
「なんで凡人以下の頭脳視点に立たなきゃいけないのー? てかもういいよー。シッキ―は想像以上にバカなんだから。……彼と違って」
舞は呆れながら、脳の糖分補給である棒付き飴を口の中で転がした。




