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正体【3】


 オレは事情を素早く察知し、玲奈の腕を掴み、手を引く。


「えっ……? なんですか?」

 物事に対する反応が微かな女子で感情の起伏などは読み取りずらいが、それでも軽く驚き焦る様子の玲奈。


「な、名瀬?」

 里緒も意味不明といった表情でその場に立ち尽くす。


 オレは玲奈の手を引いたまま里緒から十分な距離を取り口を開く。


「さっきの、どういう意味だ?」


「えっと……何が?」


「さっき言ってたろ。『そうは見えなかった』って、あれはどういう意味で言ったんだ?」


「え……そのままの意味ですけど? 姉との戦闘に苦戦しているようには見えませんでした」

 なぜか若干いじけた目線でオレを見てくる。


 おそらく玲奈は気付いたな。オレが里緒に実力を隠してることに……。

 正直オレは里緒に自分の全力の四割すら見せていない。というか、IWという世界で暮らすようになってから、オレは一度も五割を超えた実力を出していない。


「いや、結構苦戦した。正直危ない場面も多々あった」

 オレは少々ムキに言い張る。

 オレ自身、旬さんとの決闘や訓練で(たい)(ころも)戦闘はかなり鍛えていたとはいえ、かなり()()()()()のは事実。


「とか言ってますけど、さっきだって汗一つかいてなかったし、息切れだってしていなかった」

 彼女の目つきが少しだけ鋭くなる。


「偶然だ」


「姉を殺さないように戦闘していたのも気付いてますよ? 姉は知らないかもしれませんが、私はあなたの姉、杏子さんにも指導してもらっていた時期があったので、名瀬の特殊異能『檻』の最低限の殺術くらいは知っています。けど、あなたはそれをただの一回も実行しなかった。それも偶然だと?」


 しかし、よく見ている。あれだけ速い戦闘をしたのにその間に何が起こったのかをしっかり観察していたらしい。

 伏見玲奈。瑠璃もそうだが優秀な異能士たちだ。姉妹揃って旬さんの血を引いたか。

 そもそもオレの姉が杏子だとは誰も一言も言っていない。なのに玲奈がその事実に気付いているということは、オレの檻の純度で直系だと判断したということでもある。

 迅速な処理能力と優れた理解力。それら全て、この歳のそれじゃない。この若さで当主だと聞いた時は少し焦っていたが、どうやら心配いらないようだ。


「私の姉相手に随分と余裕だったように見えました」


「余裕だったんじゃない。殺さず殺されず戦うのが難しかったんだ」


「それも同じことです。殺すのは簡単だったと言ってるようなもの」


「まあ正直、バケモノだとは思ったけどな。数年違えばオレも瞬殺されていたかもしれない。だが……そういうあんたも実の姉には本気を出せなかったようだな」


「っ……! 気づいていたんですか?」


「ああ。君の姉さんはあんたのことを本気で殺そうとしている場面が何度かあったが、あんたの方はそうは見えなかった。まあ、無理もないだろう。実の姉を殺すのに抵抗しない方がおかしいからな」

 そもそも玲奈の実力があの程度のはずがない。全力がどれ程のものかは知らないが、あの程度の実力で最年少の当主になり、異能士協会議会の立案を務めるなんてことが可能なわけがない。


「ごめんなさい。結果的にあなたに負担を()いた……」


「気にするな」


「でも……姉妹関係のけじめは私自身が付けたいんです。もし次に瑠璃姉さんの情報があれば、私に連絡をくれませんか?」

 そう言いながらスマホを取り出す。


「君の姉さん……瑠璃は何か重大なことを隠していたようだった。吐かせるまでは殺せないしな。……いいだろう。その代わり、そっちの情報もいくつか貰うが」


「はい。もちろん」


 オレはスマホを出し、彼女と連絡先を交換した。オレの連絡先欄に新しく「伏見玲奈」が追加される。アイコンがアイドルのような衣装だったので、彼女が歌い手だったことを思い出す。


「分かっていると思うが、別家同士でこんな情報交換を行っていると知られたら大変なことになる」


「でしょうね」


 本来別家、特に名瀬家、伏見家、三宮家の御三家は互いがその権力拡大のため、せめぎ合っている。

 今のオレと玲奈、玲奈と杏子など。このような他家同士での人脈の繋がりは厳しく取り締まられ、そのことが表に出れば懲罰を食らうほど。


「里緒、帰るぞ」 

 オレは言いながら出口へとつながる階段へ向かう。急いで走ってきた彼女もオレに並ぶ形で隣を歩く。

 後ろから玲奈もついてくる。

 

「ね、名瀬。玲奈さんと(なに)話してたの?」


「秘密だ」


「へっ? ちょ……は? 教えてよ」


「駄目だ。どうしても知りたいというのなら玲奈本人に聞け」

 それに関しては玲奈も口を(つぐ)むと分かっていたので、そう言ってみる。


   *


「何を話してたんですか?」

 彼……名瀬に誘導された里緒が振り向き、私に問いかけてくる。


 説明するのが面倒だからといって私に押し付けるなんて、彼は本当に不思議な人。

「秘密かな」

 私も彼と同様の回答をする。


「え、なんかひどくない? みんなであたしの事()()()()()?」


「別にはぶってない。御三家同士の大事な話をしてただけだ」

 彼が返す。


「はーーほんとに?」


「ああ、ほんと………


 彼らの声が遠のいていく。

 私は自分の中の思考に入る。

 

 彼は私を歌手だと特別視しない。

 私が権力を持つ当主でも関係なく(しか)ってくれた。他の大勢を巻き込むのか、と。

 

 本当に変わった人だ。

 今まで会ってきた人は、私を罠にはめようとするか、私に媚を売るか。ほとんどがこの二択。

 私の歌手や伏見家当主という立場を崩し、その座を奪うために私に幾度となく罠が仕掛けられた。くだらない詐欺のようなものから、専門の探偵を利用する者までいた。

 私に近づくイケメンや、私を過剰に称える者。正直どれも飽き飽きしていた。


 でもどうだろう。彼は私に媚を売るどころか利用してきた。


 私は気づいていないふりをしてるけど、彼と私が連絡先を交換するまでの流れは、実は彼が作り上げたもの。姉、瑠璃の情報共有のために彼と連絡先を交換したいと思っていた私に気付き、それっぽい話で霞流さんからの距離を置き、私がその話を提案しやすい場を整えた。……とんでもない策士。


 加えて彼のあの戦闘における実力。

 すべて見ていたわけじゃないけれど、彼の動きや判断速度は常人のそれじゃなかった。

 あれで手心(てごころ)を加えているのだとしたら、本来の彼が見せるフルの戦闘力は一体どれほどのものなの?

 しかもあの姉と渡り合うどころか、確実に姉の実力を凌駕している。

 海外の、もっと詳しく言えばイギリス本部の国際異能士協会からのS級異能士認定試験を辞退しなければS級異能士に昇格していたであろう、姉すらをも超える彼。

 彼はおそらく杏子さんの弟。檻の精度や純度、彼の持つ独特な雰囲気で分かった。


 それとあの不思議な匂いも。甘いとかいう話じゃない。とてもいい匂い。

 マナの匂いは通常、直接嗅げば鼻を壊しかねないほどの刺激臭。そのマナを大量に保有している異能力者も同じように刺激臭がするもの。

 けれど彼と(みこと)からは甘い匂いがする。的確には匂わないという表現がいいだろうか。

 


 思考の中から帰宅し、私は前を歩く彼に口を開く。

「あの。名瀬さんの自己紹介をまだ聞いてないです」


「ん? オレの? あー、……オレの名は名瀬(なせ)統也(とうや)。異能士階級はなし。好きな食べ物は甘い物。嫌いなことは冷たさと寒さ。以上」


 自己紹介ですら面倒そうにする彼。どうやら名前は統也というらしい。


「階級なし? A級とかではなく?」

 私はその発言に度肝を抜かれる。


「違うんですよ。この人、ほんとに階級なしです」


 里緒が呆れたように教えてくれるけれど、それにしても。彼が階級なしは本気で信じられない。一体何をどう間違えたらそんなことになるのか。

「それは……信じられない」


「ですよねー」


「なんだよ、不満なのか?」


「いいや別に? 不満ではないけど。ほんとはめっちゃ強いの知ってるし」


「誤解だ。あの時は偶然そう見えたんだろう」


「あーまたそれ! 偶然見えるわけないでしょ! 私のこと馬鹿にしすぎ。これでも主席だったんですけど?」


「主席以上の実力があるのは知っている。でなきゃ里緒をギアにしたりしない」


「そ、そう?」

 後ろからでも里緒が赤面しているのが分かる。耳も赤い。


「ああ。里緒には戦闘的なポテンシャルがある。『波動振(パルスブレイク)』の細かい波動コントロールや異能規模、展開速度はもちろん、身体的な素質も悪くない。将来的に間違いなく優秀な異能士になる。オレのギアとしても頑張ってほしい」


「そんなに言われたら、し、しょうがないな……。統也のために頑張ろうかな……」

 

 そんな会話をする統也と里緒の後ろ姿を見つめる。


 私はそんな中で一人、姉……瑠璃(るり)のことを考える。


 姉さん……どうしてこうなったの……?

 青の境界が築かれる前はあんな人じゃなかったのに。

 一体何があったというの?

 なぜ(みこと)ちゃんを狙うの? 

 (みこと)ちゃんは正真正銘、紛れもなくただの一般人。異能の才もなく、保有マナも少ない。なのに、どうして彼女を狙うのか……。

 彼女の護衛をさらに強化しないとな……。



 これは私の勘だけど、統也も瑠璃も互いに別の何かを隠している。重大で、そしてとても重要な何かを。この世界をも変革させるほどの何かを。

 それが何かは分からない。見当もつかない。けど、これだけは言える。

 統也と瑠璃、互いが別の目的を持って対立し、敵同士になるのだとしたら、その時私は統也の味方につかなくちゃいけなくなるだろう。

 それは姉を裏切る行為。

 統也につけば、姉を裏切ることになる。しかし、姉につけば、世界を裏切ることになる。


 この先私は、私を板挟みにするその二律背反(ジレンマ)に直面していかなきゃいけないだろう。

 この神の悪戯のような矛盾(パラドックス)に、私は打ち勝たなきゃいけない。

 亡くなった父のために。伏見という一族のために。この世界(インナーワールド)のために。

 私はその立ちはだかる運命(さだめ)(なん)としても勝つ必要がある。




 けど、このときの私はまだ知らなかった。

 私を裏切っていたのは統也でも姉でもなく―――――この世界だったという事実を。

 

 







 お読み頂きありがとうございます。


 興味を持ってくれた方、続きが見たいと感じてくださった方がいれば、高評価、ブックマークなど是非お願いします。


 物凄い文章量になりました。純粋に一話にまとめようとすると、長くなっていしまいました。


 次回は新章「異能士学校編」です。


 いよいよ、主人公の統也が異能士学校に配属されます。待ちに待ったあの人の再登場もあります。乞うご期待ください。 





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