襲撃【2】
「“やってみないと分からない”」
「本当にそうか?」
オレは右手に「マナ」という原動力物質を溜めることで青く光るオーラのようなものを出現させる。
その手で掴み取ったマフラーを瞬時に広げると紺色のマフラーに青白い光が付着し、青い炎のようになるのを確認する。
そのような操作と同時に奴との距離を最速で詰め、そのマフラーを奴に向かって剣で横に切り込むようにして振りかぶり、素早くスライドさせる。
「はっ!」
敵が槍を縦に構えオレの攻撃を塞ぐ。
通常、毛糸などの柔らかい布で構成されているマフラーで身体が傷つくほどの殺傷力を生み出すことは出来ない。ましてや、今のように切りつけるような動きをしても本来のマフラーでは何の効力もないだろう。
だが、そんな一般的な概念とは裏腹にオレのマフラーによる切りつけと相手の槍が衝突した際に部分的に電撃のような衝撃が走る。
相手の槍はその衝撃にかなりの反作用を受け、後方に吹き飛ぶ。
それでも相手はすぐに体制を整え反撃してくる。
「浅かったか……」
奴は吹き飛んだあと走って近寄ってきたと思えば、上方に高く飛び、自分の全体重をかけるように槍の刃先をオレに向かって振り落とす。
オレは素早くマフラーを折り畳むことで二重にし、その両端を手で押さえ床と並行に構えて頭上前へ突き出す。
赤色に光る槍と青色に光るマフラーがぶつかり合うことで、エネルギー体のようなものが衝突し、爆音と共にかなりの圧力と純粋な力が自身の体に伝わってくる。
マフラーは何とか刃先が赤く光る槍の攻撃を防ぐことに成功するが、なぜか相手の力加減に気持ち悪くなる自分がいた。
「オレはあんたを知っている……?」
「“どうだろうな”」
目の前の人物が初めて戦った相手じゃないような感覚に陥る。
すると相手は槍先にさらに力を加えてきたので、オレもマフラーを強く押し返すとその勢いでお互い同じくらいの距離を後退する。
オレはある考えから、その後すぐさま自分の右側にあった近くの廃ビルに走って近寄る。
足全体にもう一度「マナ」を溜めることで通常の人間の何倍もの跳躍力を得る。
その跳躍で廃ビルの二階にある窓ガラスを突進で軽く割り、中のロビーに侵入する。
そこから廊下へと走りながら後ろを振り向き確認すると、案の定相手もかなりの速度でオレを追いかけてきていた。
追いかけながら槍による攻撃を仕掛けて来るのに対して、オレは追いかけられながらそれにマフラーで対抗する。
「はっ―――!」
オレのマフラーによる青い電撃と奴の槍による赤い電流が何度も衝突するたび激音とともに紫電が発生する。
奴とオレは廃ビルを立体的に利用し高速で機動しているため、互いの赤い光と青い光が閃光のように煌めかせながら戦闘していた。
「やはりな。あんた、オレに一方的に殺意を向けてきている。だとすると派遣された刺客?」
いや誰が、何のためにオレを殺したがるのかが謎になる。
奴はしびれを切らしたのか、逃げ続けるオレの背に向かってエネルギー電気体のような赤色のパルス弾を槍から三つほど連続で放つ。
「赤い電撃……?」
雷電一族の異能模倣だと?
オレは廃ビル内の障害物をうまく使いそのパルス弾を避けていたが、ここは廃ビルである関係上、倒壊を避けるため出来るだけ柱などの破壊は少なくしたいと考えていた。
そんな考えとは裏腹に奴のパルス弾はオレが盾壁として使用していた柱を難なく破壊していく。
「これ以上、二階の柱を壊すのは危険か」
オレは廊下の床上をスライディングしながら奴のいる後方に向き直り、両手から出した青い光のオーラで自分の正面に青く透明な障壁を展開し、重ねて続けで放射されていたパルス弾を防御する。
辺りは粉砕し壁やガラスが割れ、煙が立ち込める―――。
おそらく敵である奴からするとかなり手応えがある一発であり、オレを仕留め切れたと思っているだろう。
だが相手にとっては残念なことに。いや、不運なことにオレの障壁は防御に特化したものだ。
世界最強の防御ともいわれている。
煙が消え、奴がオレの姿を視認するより先にオレは奴の背後に回り込み背中をとる。
煙が晴れた頃には、オレが「異能」を操作することでマフラーを敵の首に巻き付け、絞めつける。
「“なっ―――速い!?”」
適度な力加減でマフラーを扱い、奴を拘束する。
「余計な真似をすればマフラーで首を絞める。この意味が分かるな? 武器を床に下して、手を頭の後ろで組め」
マフラーは今やオレの体の一部のような状態。
ただでさえこいつの首をマフラーできつめに絞めているが、いつでもこの力加減を変化させることは可能であり、即座に絞め殺すこともできる。
奴はオリジン槍をゆっくり床に置き、手を組んで頭の後ろに置く。
「“貴様、やはり強いな。噂通りの少年だ”」
こいつは首を絞められていてもあまり焦っていない。
何故だ? 何か隠し玉でもあるのか。
「安心しろ……殺したりはしない」
まだ、な。
「“寛大な判断感謝する”」
「どうでもいい。早くオレを狙った理由を言え」
「“それを答えないと私はどうなる?”」
「分かるだろ? 当然……殺す」
こいつに聞きたいことは山ほどあるがそんなことよりも、あまり使いたくない手段である「異能」を使用せざるを得なくなるほど、オレがこの得体のしれない奴に追い込まれたのもまた事実。
通称「異能」または「異能力」と呼ばれている特殊能力。古来より一部の一族、家系によって人知れず相伝されてきた古の超能力。「マナ」を溜めることで発動できる。
また、異界術といわれる、速度、強度、強化を目的とした基礎的な技もこれとは別に存在する。
異能自体は一人一つが原則であり、二つ以上異能を持っている人間は基本的には存在しない。
発現に才能が必要な異能とは異なり、異界術はマナを扱う心得さえあれば使用できることが知られている。
そんな中でオレも「異能」を有している人間の一人だ。
「話す気がないなら別の質問だ。そこに置いてあるオリジン武装は?」
「………」
「何か答えろよ」
ただ、目の前でマフラーに首を掴まれているコイツは相性が悪かった、としか言いようがない。
オレはほとんどの攻撃は防ぎきれるほどの防御特化の「異能」。
お世辞にも相性はよくないだろう。
つまり、オレのことを詳しく知っている奴がオレを殺すようにこいつに命じた線は薄い、ということだ。
もしオレのことについて詳しければ、弱点や弱み、苦手な攻撃パターンも知っているはず。つまり、防御が得意だと知っていなければならない。
だが、防御型のオレと目の前にいるこいつみたいな相性の悪い人間を刺客に抜擢する可能性は低い。
「見たところ、あんたはかなりの戦闘経験者で手練れのようだな。オレにこうして拘束されたのは単に相性が悪かったからだ」
この時のオレの心には余裕があったことを、いや……油断していたことを否めない。
オレは他の人間にはない眼の才能を持っていた。
それは異能とは別のものと言ってもいいかもしれない。
だが、オレは――――――しくじった。