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里緒の独白


  *


 あたしは、この世に「本物」の天才がいると知った―――――――。

 

 今まではあたしが天才だと言われて育ってきた。

 霞流(かする)の中でも優秀な成績を(おさ)めていた自分には才能があると思っていた。

 だが、そんなものは幻想だったと知ったんだ。


 その「天才」である「彼女」との出会いが、あたしの異能に対する価値観を大きく変えた。

 異能がすべてなんだと。そう思うようにさせてしまった。

 異能の強さこそが、人の強さなんだと。

「彼女」のその強すぎる異能が、あたしにそう思わせてしまった。

 

 どんな速度の攻撃だろうと、どんな強力な一撃だろうと、「彼女」は完璧に防御してみせた。

 その姿はまるで「雷神(らいじん)による絶対守護(ぜったいしゅご)」を持っているかのよう。 

 


 防御と言えば、絶対的な防御を有するとされている異能「檻」を想像する。

 実際、その檻を持った人物…………名瀬統也と出会い、あたしの見える世界、景色、感覚、すべてが変わった。

 彼はあたしを信用してくれたし、あたしをギアと呼んでくれた。

 あたしと一緒に歩みたいとも言ってくれた。

 あたしが彼にどれだけ救われたのか、彼自身は知りもしないだろう。


 統也はあたしの行き場のない感情を真正面から受け取ってくれた。


 同じ御三家の人でも三宮(さんぐう)拓海(たくみ)とは大違いだ。

 彼はあたしにすべての依頼任務を押し付け、挙句(あげく)()てには、怪我をしたのもあたしの責任だと言い始めた。

 彼は本当に、どれだけ小さい男なのだろう。

 (たい)して強くもないのに異能「糸」を所持しているだけで偉そうで、傲慢(ごうまん)横柄(おうへい)


 逆に統也は何故(なぜ)あんなにも強いのに、謙遜的な態度を取れるのだろう。

 自分の強さに奢らず、他人を尊重できる紳士的。

 彼は本当に強い。

 あたしが人生で見てきた中でもトップクラスの強さ。

 そして「彼女」の強さはその彼の強さと似ている。

 強靭(きょうじん)で威厳的。


 あたしが知る限り、世界で最も強いとされた伝説級の異能士は、国際異能士協会会長を務めるセシリア・ホワイトの母「エミリア・ホワイト」と、現在伏見家当主・伏見玲奈(ふしみれな)の父「伏見旬(ふしみしゅん)」。


 ―――――――この二人。


 伝説の「純白の英雄」と「漆黒の英雄」。

 今は()き二人だ。


 伏見旬さんがアウターリスト(*)に記載されていたことは世界中の異能使いが知る事実。(*アウターリスト……OW(アウターワールド)に取り残され、IW(インナーワールド)へ避難できなかった者たちが載るリスト)

 この二人はあまりに強すぎる戦闘能力と卓越した分析力、観察眼、判断能力を持っていたために、彼らのいる国「イギリス」と「日本」が特定安全国に任命されたほど。

 彼らを知る者達は口を(そろ)えて言う。

 彼らの技、知識、頭脳、それらすべてが一級品だった、と。

 エミリア・ホワイトの異能「王権の光」は(ころも)に似た能力の異能で、青い鎧のようなものを出す能力。

 マナを凝結させる特殊な異能が本当の能力と噂されている。


 一方、伏見旬の異能「(ころも)」はマナをエネルギー変換し、炎のような形の異能体として具現化させる能力。

 さらにその衣は特殊変化を可能としており、その名は日本神話「記紀」に登場する火の神に由来する……「加具土命(カグツチ)」と呼ばれている。



 だがそんな二人をもしのぐかもしれない。

 そう思わせるほど「彼女」……リンネは強かった。

 特に「彼女」の異能。その防御。

 あたしはあの子に直接攻撃を当てたことのある人物を知らない。

 

 数週間前、私がまだ札幌中央異能士学校という異能士育成のための学校に通っていた時、あたしは「彼女」と出会った。

「彼女」のほうが編入してきたのだ。


 編入してきてすぐに、瞳の色が原因で嫌がらせを受けていたそう。

 でもそんな状況も「決闘」が始まると一変した。

 筆記試験や実技試験であたしの次に良い成績を出してきたし、その決闘で……あたしにも勝ってきた。

 ―――――――たった数日で。


 ちょうど二年で卒業の異能士学校を飛び級し一年で卒業したあたしは、もうあの学校には未練がないと考えていた。

 けれど……………。

 

 今頃、リンネはどうしているだろうか。

 あたしは「彼女」と連絡先を交換したかったのだけれど、何故かスマホを持っていないと言う。

 この時代にスマホを持っていないというのはどうなのだろうと思いながら、あたしはリンネに見送(みおく)ってもらった。




 あたしは唯一「彼女」にだけは勝てなかった。


 だからこそあたしは「彼女」の()るぎない強さを尊敬していたし、「彼女」の優しさや包容力(ほうようりょく)に憧れていた。



鈴音(リンネ)……。実はね、あたし、ギアができたんだ。すごく強くて、すごくかっこいい人。……彼もあなたとよく似ていて、揺らぐことのない強さを持っている。そしていつも、()()ぐどこか遠くを見ているような目をする………まるであなたたち二人だけ、あたしたちとは全く異なる目標を(とら)えているかのように」


 あたしは自分の部屋窓(へやまど)の外にある夜空を見上げながら、届くことのない言葉を「彼女」に向けて言い放った。



 以降、あとがきではその()に関係なく、用語解説をしていきたいと思います。

 作品全体の用語解説で、ネタバレはなしです。

 何か解説してほしい用語などがあれば、気兼ねなく感想欄にお書きください。(ただしネタバレを含んでしまう回答のみ解説せず、背景などの説明にしたいと思います)

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