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御三家の闇


  *


「K、聞こえるか。少し頼みがある……」

 オレは夜道を走りながらチューニレイダーでKに連絡を取っていた。


(できれば早めに出てほしいんだがな……)

 夜なこともあり、彼女がすぐ応答してくれるかは分からない。


 現在オレが走って向かっている方角は、里緒と三体の影が戦っている位置とは逆方向。

 可能ならば、里緒の討伐に加勢したいところだが、多分オレが戦闘に加わってもあまり意味がないだろう。

 それを解決するために、オレは今行動している。


 いつも通りの雑音と共に、キーンという痛みのような音が聞こえる。

 一般的な人は「痛みのような音」という表現に理解がないかもしれないが、こう表現する他ないような音なのだ。


 その後、雑音と共にKの落ち着いた声が聞こえてくる。

『$&*%¥………えっと、統也……? 私の声聞こえてる?』


「ああ。聞こえている。いきなりで悪いが、先刻言った通り頼みがある。出来れば急いでほしい」


『……わかった。けど、私は何をすればいいの?』

 何の説明もない状態で、突然こんな頼み事をしているのに、快く引き受けてくれたKには感謝しなければならない。

 普通なら、いきなり何言ってるんだと突っぱねられるところだろう。


「この付近で、異能を使える人を探知にかけてほしい」


『うーん……。多分それは出来ないかな。今現在異能を使用している人とかなら、まだ検知出来るかもだけど』


「いや、むしろそっちの方がありがたい」


『そうなの? まあいいや。今調べるから少し待って……』

 チューニレイダーの向こう側から、カタカタとタイピングしている音が聞こえてくる。何かしらのコンピューターを操作することで捜索しているのだろう。


『関係ないんだけど、なんかあったの? 軽く事情が知りたいかな』

 至極当然なことだろう。何の事情も知らず、いきなり調べろと言われても混乱するだけだ。

 Kにとっては唐突過ぎる要求をしているのだから当たり前と言える。


「実はな……。わけあって今、オレのギアと影が戦っている途中なんだが……」


『ギア決まってたんだ……。うん、それで?』


「その戦闘を遠くから観察している最中、影の後ろに無数の線のような物を見た。あれは異能士の仕業だと考えるのが妥当だろう」

 この線は、オレの「見えざるものが見える眼」のお陰で可視できたと言っていい。

 通常の可視能力では見えることのないものだろう。実際にオレがこの眼の起動を止めると、途端にその無数の線が視界から消えた。

 

『その線を動かしている異能士を探したいのね?』


「ああ、そうだ。だが問題は、その線が何なのかということだ。オレが3月に戦った影の背後には、あんな不気味なものはなかった」


『資料の中でも影の後ろにそんなものがあるなんて報告はない。高確率でその「線」に関わっている異能士がいるだろうね……』


 正確に数えたわけではないため実際のところは分からないが、あの無数の線はおよそ100本あり、そのどれもが地下へと続き、影と里緒のいる反対方向に繋がっていっていた。


「でもあの線……。あれは……」


 オレはあの線に近しい内容の噂をいくつか知ってた。


『ん? どうかしたの?』


「ん、いや、何でもない……」

 確証もないし、もしオレの想定通りなら、そいつの意図が不明すぎる。

 

『ところで、その線って一般的に可視できるの?』


「……できないって言ったら怒るか?」


『……やっぱりね。またあの「眼」を使ったの?』

 少々の沈黙の後、呆れるでもなく、怒るでもなく、(あらかじ)め知っていたかのようにそう訊いてくる。


「仕方なくだ」

 一応言い訳をしておいた。


『まあ、その話は後でするとして……。今統也が歩いている道を右に曲がって突き当りを左。その先に倉庫があるはず。高確率でその付近に異能使用者がいる』


「了解」


 関係のないことだが、説明していないのにも関わらず、瞬時に戦闘中の里緒をオレのギアだと見抜き、彼女を除外して捜索してくれたらしい。

 影と戦闘するために里緒も現在異能を使用しているだろうからな。レーダー検知には引っかかっていたはずだ。


 こういうところからも、Kがいかに優秀なコンダクターであるかが分かる。

 オレの幼少期からの師匠―――――伏見旬から特別推薦されるほどの補佐指揮官(コンダクター)

 旬さんから蓋世不抜(がいせいふばつ)高材疾足(こうざいしっそく)と称されていたのも過大評価ではないだろう。

 

 オレは頭の中に地図を描き、大体10分あれば到着するだろうと見積もる。

 一部の話では、夜の廃墟街は道に迷いやすいことで有名らしい。

 それでもオレは、ある程度高めの空間認識能力を発揮し、Kが特定してくれた場所へと向かう。


『その倉庫に着くまでに、まだ時間があるだろうから聞くけど「眼」を使ってたならどうしてその「線」の繋がれている先が分からなかったの?』


 オレはすぐにその言葉の意味を理解する。

 仮にオレが透視すればその線を追うことで発生点にまで辿(たど)り着けるはずだからな。


「ん……? ああ。地下へと続いているのを確認したまでは良かったが、その後すぐにオレの『眼』の効力が切れたからだ」


 オレの「眼」は一見便利に思えるかもしれないが、利点だけが存在するわけではない。

 実際、その正体も分からなければ、どんなリターンがあるかすら明らかになっていない。


 分かっていることがあるとすれば、発動中はオレ自身の瞳が青白く発光すること。

 物理的な距離を無視し透視を可能にすることやマナの(たぐい)を視認できることなどが挙げられる。

 本来「マナ」は特殊な光線を放っている関係上、一般人には視認できない。例外があるとしても、異能を発動する際に生じるマナ光波の波長が可視光線であるくらいだろう。


『なるほど、道理でか……』


「ああ」


『あと直接関係ないけど、その「眼」。正直言っていつまで本部に隠し通せるか分かんない……。だから早めに正体を解明してほしい……かな』


「分かってる。でもオレだってこれが何なのか知らないんだ」


『それは仕方がない事だけど』


「加えて、この眼を実際に使ってみないとその正体はおろか詳細なんて知れない」


『眼を使わないことには何も解決しない、と?』


「そういうことだな……」


 事実オレはこの眼の詳細を何も知らない。


「それとこの眼、呼び名が欲しい。『眼を使っている』って表現は誤解しやすいし、ややこしいからな」


『確かにそうだね………。浄眼(じょうがん)とかどう?』

 彼女は数秒でオレの「眼」に良くマッチした名前を考案する。


 ありえざるモノを視る眼―――――――か。


 確か浄眼(じょうがん)の瞳色は青だったはずだ。

 そんなところまで一致してる。悪くない案だろう。


「いいんじゃないか。浄眼(じょうがん)……」

 オレはそこまで話したところで、倉庫の前までくる。


『目標に着いたみたいだね。……行ってら。また後で』

 彼女はそれだけ言うと、チューニレイダーの連絡接続を切る。

 行ってきます、と冗談で言おうとしていたが、そんな暇もなく連絡を切られてしまった。


(塩だな……)


 そんなくだらないことを考えながら、オレは慎重に倉庫の敷地に入っていく。

 どうやらこの倉庫も他の建物と同様にもう使われておらず、廃墟と化しているようだ。

 街灯から離れるていくので倉庫周辺は完全に暗闇となった。

 オレは音が立たないようにそっと倉庫のドアを開ける。



お読み頂きありがとうございます。


興味を持ってくれた方、続きが見たいと感じてくださった方がいれば、高評価、ブックマークなど是非お願いします。


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