不信
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『影人レベルレートを判定する方法?』
「ああ……」
『まず前提として知っておいてほしいんだけど、レベルレートっていうのは影人の体中に流れるマナの量で決まる。だからその量さえ量れればレベルレートは判定できるよ』
「その言い方だと、=マナ保有量ってわけじゃなさそうだな」
『まあ、保有量とは別物だからね』
オレは借りているマンションの自室にあるベッドの上に座りながらチューニレイダーで茜と会話していた。
完全なプライベートでは、オレはKを本名の茜という名で呼ぶ。
現在時刻は22時を回っており、かなり長電話ならぬ長同調をしてしまっている。
最近ではこんなことも珍しくはない。
チューニレイダーの開発者じゃないため、オレも詳しいことは分からないが、同調に使用される聴覚神経……いわゆる内耳神経と呼ばれる脳神経とは関係ないはずの副交感神経、これの調子により、チューニレイダーの連絡持続時間が決定するらしい。
副交感神経とは、自律神経の1つであり、主に体や心がリラックスモードになると活発化していくことで知られる。
つまり、チューニレイダーのチューニング持続時間を延長したければ、夜の心身が休まるタイミングで連絡するのが効率的だということだ。
「まあでも、マナを視認できる『眼』があることが結果的に、オレにとっての利点になった。そういうことだな」
『できればあんまり使わないでほしいんだけど……仮に私がそう言っても統也はすぐまたあの「眼」を使おうとするから……』
「オレのことをよくわかってるな」
『よくわかってるな、じゃないってば』
茜は柔らかい口調で冗談ぽく言う。
「それはいいとして……。可能なら今週中に、紫紺石の情報ルートを探しておいてくれないか?」
『紫紺石の……? わかった、いいよ。さすがに今週中は難しいかもだけど、まあ善処はする』
こういう風に素直に受ける時もあれば、文句や不平不満を言うこともある。が、なんだかんだで必ず良い結果や功績を持ってくる。
それが茜という女性の性質だ。
「いつもありがとうな」
『どういたしまして。まあ、私はこれが仕事だから』
仕事……ね。
オレはふと、この仕事をやる以前のKは何をしていたのだろうと思った。
彼女が過去に、オレより年上だが十代だと言っていたのを思い出す。
今オレが12月12日に誕生日の16歳であることを考慮すると、茜の年齢は17歳から19歳だとかなり狭い範囲に絞れる。
「関係ないんだが、茜ってこの仕事の前は何をやってたんだ?」
『ん……? 補佐の前……うーん、どうだろ。学生……かな』
少しだけ曖昧な回答が返ってくる。
(まあ、そうなるか……)
オレの推測では、今の彼女の年齢はおそらく18か19歳。であるならば、彼女が指揮官という地位に就くより前は、高校生だった可能性が高い。
『やっぱり、アドバンサーのみ個人情報が開示される今のこのアドバンスの仕組みは少し改良を入れるべきだと思う。コンダクターをコードネームで呼ばなきゃいけなかったり、私たちコンダクターだけ秘匿比率が異なっていたり……私はこの制度あまり好きじゃない。現に私が大学生なことも、統也は知らないでしょう?』
茜がオレの情報を取り入れるのは、オレの補佐をしなければならないのだから当然と言えるが、オレが補佐官の情報を取り入れたとしてもアドバンテージがない。
単純にそれだけのことだと思うがな。
それにしても驚いた。
「茜、大学生なのか? だとしたらすごいな。コンダクターと大学生を同時にやっているってことだろ? 今度から出来れば昼間は呼ばないようにする」
チューニレイダーを接続し連絡を繋いだ瞬間、茜は授業中でした……というのは笑えない。
『え、気にしなくていいよ。私は分かっててこの仕事をやってるんだし』
「……そうか。ならいいが」
――――とは言ったものの、昼にチューニングを繋ぐのは控えようと決めた。
茜の邪魔はしたくないからな。
だが……確かコンダクターになるには、知識や戦闘能力、判断力やサポート能力などといった沢山の技能が、その資格審査で問われる。
彼女が今大学生兼、補佐指揮官であるということから察するに、高校時代、受験勉強と補佐官資格検定の勉強……この二つをこなし見事両方手に入れたということになる。
「なあ、もしかして、茜……『――――』か、あるいは異能士だったりするのか?」
オレは純粋な疑問をぶつけてみることにした。
彼女が卓越した能力を複数持っているのは知っている。
それは杏姉や旬さんが言うのだから間違いないだろう。
だが、それでも受験と検定試験を同時に合格するには、片方で裏技……例えば特別推薦などを獲得している可能性がある。
それが補佐指揮官の方の推薦なら、『――――』もしくは、異能力があるとみるべきだろう。
『うーん、統也には隠す必要がないって思えたから話す。そう……私は異能を持ってる。……さすがだね、うまく隠せてるつもりだったんだけど』
やはりそうだったか。
これで、彼女が誰からの推薦を受けたかは分かった。
オレらの隊全体を仕切る人物。伏見旬。彼の推薦でまず間違いないだろう。
「やっぱりな。どんな異能を使うんだ?」
オレは彼女の異能に興味があった。
『それはまだ答えられない……かな。でも一つ言えることはある』
「ん? 言えること?」
『私―――――、統也と同じくらいには強いよ』
彼女は悪戯っぽく、そして落ち着いた口調でそう言った。
まるでオレの強さを知るかのような口ぶりに疑問を感じたが、オレはこの念を払拭することにした。
オレはこの時期から少しずつだが確実に、彼女に心を許していく。
これは自分にとって非常に珍しいことだった。
オレにとって人を信じるということは、とても勇気がいることだったしストレスがかかることだった。
過去に、茜も自分のことを人間不信な面があると語っていたことがあった。
彼女の幼少期、周りの環境が自分を人間不信にした、と。
オレと彼女はある意味、似た者同士なのかもしれない。
天霧 茜 (あまぎり あかね)
……コードネーム「K」。統也の補佐をする指揮官。基本的には冷静沈着、クールな性格で、感情を大きく露にすることは滅多にない。優秀な知識と戦闘能力を持っているらしい。




