表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/293

第一の友人


  *

 

いくつかの授業を受け終え、数時間後の昼休み。


(さて、昼休憩も始まったことだし、そろそろ様子を見てみるか)


オレは決して悟られないように教室後方の席にいる一人の男子に意識を向ける。

彼は他の友達に囲まれ、彼らと談笑をしたりして楽しんでいた。少なくともオレからは平凡な暮らしをしているように見えた。


 あれが例の……。

思っていたより普通の生徒だな。

報告にあった通りの人間とは思えない。

案外、オレがここに来る必要はなかったかもしれない。

 そんなことをして、彼を観察しているときだった。

 オレのすぐ後ろの席から声を掛けられる。


「なーなー」

 オレが振り向くと、そこにいたのは後ろの席の男子生徒だった。何やらこちらに用がある様子。シャーペンの上端の方でオレを軽く突いてきた。


 後ろの生徒の名前は確か、東川(ひがしかわ)(こう)

 オレは自己紹介した際に、一瞬で教卓の上にあった座席表を確認し、オレと近い席の人物だけ名前を記憶していた。


「ん? どうかしたか?」


「……どうかしたっていうかさ……。俺、東川香っていうんだ。『かおる』って書いて『香』だ。よく女の子みたいな名前って言われる。多分漢字が『(かおる)』だからだとおもんだけどよ。まあ、とりあえずよろしくな」


 いきなり自己紹介を受けたが、仲良くしよう、ということらしい。


「ああ、よろしく。オレは朝に言った通り、なせ……」


「名瀬統也だろ? ちゃんと覚えてるって。というかよ、あれだろ、名瀬って確か(ひがし)北海州(ほっかいしゅう)地主(じぬし)だったよな?」


 ほう、これまた珍しいことを知っている人間がいたもんだ。


 東北海州(ひがしほっかいしゅう)とは、大まかに北海道の東部地方のこと。その土地一帯を統治し統括している大地主の家、それこそが名瀬家。

 だがこんな土地の統括権を持つ家を認識している人は少ない。だから名瀬という本名を隠さず暮らすことにしたというわけだ。

 だが一発目でそのことを認識している人に当たったのは不運としか言いようがない。


 ちなみに、東北海州とは別に北海道の西部と南部を西南海州。北と中央の地域を北中央州と呼ぶ。

 青の境界の設立以来、北海道の人口密度は急激に増加した。

 このことが原因になり過疎地帯であったはずの北海道内北部や東部にも人口が増えた。それからは、地名や州の改名が行われ、この東北海州、西南海州、北中央州は「北海道三州」と呼ばれている。


「そんなこと良く知ってるな」


「ん? 俺の親父(おやじ)が詳しいんだよ。なんでか知らないけどー。でも、そう答えるってことはやっぱり地主の家だな?」


「ああ、そうだ。……だができれば、そのことは他のクラスメイトには言わないでくれないか」


「え、別にいいけどよ。どうして隠すんだ? そこの土地の偉い人の家系だろ?」


 偉い人の家系……か。それは間違ってはいないが。

 土地を統括(とうかつ)する権利をいちいち気にして生活する人間がこの世にどれだけいる。おそらくほとんどが知らないだろう。東川(ひがしかわ)みたいなケースは(まれ)だ。

 つまり異能士でも何でもない一般人からすれば「名瀬」という家は、ただ少し金を持った土地権利を有している家ということになる。

 もちろん異能士以外の話だ。少なくとも異能士や、その世界に触れた人間は「名瀬という名家」に対してもっと別の反応をするだろう。


「まあ、オレの親に口止(くちど)めされてるんだよ。家が地主なことは隠しておけってな。ごめんな」

 こんな嘘でも効果はあるはずだ。


「あー。なるほどな。任せとけよ。誰にも言ったりしないから。というかこんなこと知ってる人、多分俺くらいしかいないし」


「ありがとう。確かに、それもそうだな」


 東川がいい奴で助かった。

 本当に……な。


 ――――――殺さなくて済む………。


「そういえば、呼び方は東川でいいのか?」


 彼の呼び方を聞いてなかった。


「え、お前なー。同級生なんだから、オレのことは(こう)でいいよ」

 そう言ってくれたので、せっかくだ。香と呼ぶことにするか。


「わかった。香と呼ばせてもらう」


「おう。俺も統也って呼んでいいか?」


「もちろん」

 

 こうしてオレは記念すべき一人目の友達を獲得したのだった。


お読み頂きありがとうございます。


興味を持ってくれた方、続きが見たいと感じてくださった方がいれば、高評価、ブックマークなど是非お願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ