表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/293

白昼夢



  *(みこと)


 

 次の日の早朝。


「ああ……どうして気付かないの? どうして……?」

 

 私はいつまでも、あなたを待ってる。なのに、どうして気付いてくれないの?

 

 たった今、統也のマンション前の道路を通過した――。


 ね、気付いて? 私はあなたを感じてる。今も、はっきりと。

 

「え――ミコさん……? 何がですか?」


 送迎者の中、助手席からマネジャーが問いかけてきて、私は少しはっとなった。


「なんでもないです……」

「そ、そうか……最近ミコさんの様子がおかしいから少しだけ心配なんだよ。何かあったら、誰でもいいから相談するんだよ?」


 誰でもいいから、か。

 私は駄目なの。統也じゃないと。


「はい……」



 私は統也を、運命の赤い糸をこんなに明確に感じれるのに。

 どうして、統也は気付いてくれないの? 私の存在に。


 こんな能力が、こんな糸が、里緒さんにある……?


 ないでしょ。

 私だけが統也を感じているのに。どうして?

  


 ああ……壊れちゃいそう。



  *



「起きて、『蒼の――』……起きて、『蒼の――』」


「ん……?」 


 オレは目を覚ました。そして目の前の光景を見て驚く。

 ここは、確実にオレの部屋ではなかったからだ。


 宇宙のようにも見えるし、白い部屋とも思えるし、深海の底とも思えるその場所は、どこまでも外部からの情報が完結しない、落ち着かない場所だった。


「貴方は『蒼の――』なの。気付いて、貴方は『―』なの」


 お……? ん、なんだ? なんて言ってる?

 ノイズがかかって聞こえない。


 突如正面に見える金髪、碧眼の女性――。

 碧眼……? いや、これは普通の碧眼じゃない。


 その時オレの思考回路を閉ざしたのは、明確な、『同類である』という意識。

 この眼は、間違いない。


 ――浄眼。


「あんた、誰だ?」


 尋ねている最中、オレの脳内を駆け巡ったのは、唯一「この女性が、どうしようもなくディアナに似ている」という事実だけ。


「私は『――――・――――』。貴方もよく知る旬のギア――」


 なにっ? エミリア・ホワイト?

 彼女は間違いなく四、五年前に死んだ。旬からはそう聞かされている。

 当然混乱する脳内。

 

 死者の幻覚? 人格本体だけの精神抽出? 

 霊体化の成功? 精神次元に乗り移った……? どれもあり得ない。


 いや……今考えるべきはそれじゃない。

 この際彼女がどんな存在であるかはいい。

 

「あんた、本物なのか? 本物のエミリア・ホワイトなのか?」

「もちろんよ。私は、貴方が有する『―』の神に勝った。だから“反蝶術式との接触”と“イザナミ之命からの強い信号”が引き金で今、領域の結界が壊れた。精神世界……そうね、精神次元での領域構築……で貴方と会える権利を得た。一時的ではあるけれど……次は私がそれを継承していく……でも、私は一生、旬の味方。旬だけの味方。だから、彼のために、貴方に伝えなければならない」


 この人は一体、何を言っている?

 要領を得ない発言、というより理解不能な発言が多い。


「気付いて―――。貴方は『()』であると―――」



――――


 

 瞬間、ぷつりと途切れる液晶テレビのように、その世界は途切れ、現実世界の景色に戻った。

 目の前に見えるのはよく知るオレの部屋。間違えようもない。


「――ぇ、ねぇ、ねぇってば! 統也、あたしの話聞いてるの?」


 裸で、かけ布団を用いて胸元から下を隠す里緒がベッドの上でオレを揺すっていた。


「あ、ああ……すまない」

「……? どうしたの? なんか変だったよ?」


 変だった?

 そうだ、エミリアと会話していた時、そもそもオレは眠りから覚めたわけではなく、とっくに起きていた。

 里緒との会話に花を咲かせていた。


「里緒、オレは今どれくらいの間硬直していた?」

「え……? そりゃ、精々三秒くらいだけど?」

「三秒? そんなはずはない」


 思わず強めの声が出てしまう。

 あの場所での時間感覚と同期しない、だと?


「いや、ホントだって。統也に見てもらいたい動画あったからBeeTubeで見せててたらいきなり統也の方が止まったんでしょ」


 そう言ってスマホを横にして、フル画面で動画を見せてくる。

 動画はいつかに放送された番組映像のようで――。


『――ミコさんの好きな男性のタイプってなんですかー? ズバリ、聞いていきたいと思います!!』


 司会役の女性アナウンサーが問う。質問コーナーのようなものか。


『えー、なんでしょう……優しくて守ってくれる人が好きです、なんてお姫様みたいな痛い事言ってもいいですか?(笑)』


 答えるミコ。オレにとっては(みこと)だが。


『全然痛くないですよー、他には?』

『あと、マフラーを首に巻いてる人が結構タイプだったりします……(汗)』

『えー、ミコさん、それはほんとですか!』

『はい………いや、やっぱり今のところカットしてください(笑)』

『えーどうして??』

『恥ずかしいので……』

『うわー可愛いですねー、さすが今話題の完璧アイドル! これは、明日からマフラーを付けて歩く男性が増加すること間違いなしです。といっても真夏へ突入するこの季節に、そんな人がいれば、の話ですけど』


 その女性アナウンサーの発言と共に笑いの爆発が起こり、この動画は終わった。



「このアナウンサーの煽るような発言がきっかけで、このあっつい季節にマフラーをする男性猛者(ファン)が急増してるんだって。(みこと)のこれ、絶対統也のことだーって思いながら見てた」

「かもな」

「かもなって……なんか(みこと)に冷たくない?」


 今のオレはさっきの白昼夢が気がかりで、とても(みこと)のことを考えている余裕はなかった。


 目覚めている脳の覚醒状態で、現実で起きているかのごとく夢のように映像を見る非現実的な体験―――白昼夢。


 さっきのは、一体――?


 故人エミリア・ホワイトだと?


 ふざけてるのか?

 







この章終わります。お疲れ様でした。

いよいよ黄昏編に入っていきます。統也、他の皆もどうなっていくのか。世界はどう変化するのか。

本格的に動きます、全てが。


黄昏編、作者からはですね……「閲覧注意」とだけ述べておきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ