表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/293

誘導レールガン


 里緒が寝取られそうになる中、割と巧みなコールドリーディングだったな、などと考えていると。


『ごめん統也、悪趣味な会話のせいで作業が滞ってた……。九時の方角、鋭角43度を直線距離』


 それを聞き、悟られぬよう浄眼の視野角拡張を用いて『シューの座標』へマナ標準を定める。

 それと同時、拘束具の代わりである緑の霊体をも第一術式『解』で弾く。

 解放された手首くねらせ、軽く体操しながら――。


「永無、お前は確かに頭がいい。だが、お前らの計画はシューに依存し過ぎだ」


 オレは語りながら左手を、左の上空へ出した。そう、地上水平から43度の位置へ。


「名瀬くんさぁ、君は今更何を言ってるだい? 里緒が目の前で僕に取られるのが嫌で、そんな――」

「――そうだ。里緒が他人のものになるなんて耐えられない。絶対に拒否する」


 そうしてオレは――「ある術式」を組み終える。

 昨日準備してきた――アレ――を。


「残念だったな永無クレア。お前はオレの里緒に手を出した。そして他の奴は(みこと)を殺そうとした。お前を含めた三人とも、オレが―――始末する」

「は? 一体何を――」

「いやこれでもしばらく待ってたんだ。もっと他に何か策を用意してるんだと想定してな。しばらく時間を使ったが、特に何も無いようで驚いた。さすがにその程度でオレに勝てると考えたわけじゃないよな? ……舐めてるのか?」


 オレは冷めた眼で見下す姿勢を前出しにする。


「統也っ!! 妙な行動はしない方がいい、シューの位置はあなたの浄眼()でも索敵できない距離にいる!! 抵抗したらこの公園ごと爆炎に巻き込まれるだけ! 私だってその犠牲になる!!」

「星香、お前は知らないんだ」

「え……??」


「――――オレが一人じゃないって事を」


 オレに、優秀な指揮官(コンダクター)がいるって事を。


「何をする気!!?」


 焦る星香に合わせて永無も怪訝な顔色に戻し、気持ちよく抱き合っていた里緒から離れようとする。しかし―――。


「ん、リオさん? 放してくれるかい??」


 すぐに異変に気付き、取り乱す永無。


「おい放せ!! 君!!」

「んー、だってあたしのこと愛してくれるんでしょ? なら受け取ってよね、あたしの『波動(あい)』!!!」


 瞬間、永無の背中に撃ち込まれる強烈な『波動球(ウェーブブレイカー)』。第三術式の波動式を乱数的に重ね球状に模る技。威力にして拳などによる通常打撃のおよそ二十倍。


「ぐあっ―――!!!」


 クレアがうめき声を上げ、吐血する間、里緒は浴衣で動きにくそうにバク転し、反対側へ回避する。


「なにっ!! これは……どういうこと!!」と星香。


 すまない里緒。冷静なふりをしながらオレは、やっぱり、君が大切だった。

 君が他の男に奪われるなんて耐えがたい。他の男が触れているだけで腹が立つ。

 タイミングも合わせず、すまない……。


 そう思っていると、浴衣を直しながら愛らしくピースしてくる笑顔の里緒。

 オレは頷く。




「空間収束式『蒼玉』」




 オレは左手に野球ボールほどの濃くも蒼い虚像空間を発生させる。

 極限まで受ける蒼の収束――。


「統也!! クレアを弱らせても、何をしても無駄だよ!」


 言いながら星香は三つの『霊体・翠燐』――魂のような緑の光体をぶつけにくる。といっても本来は視認できないはずのものだが。

 余っている右手を前に構え『檻』の障壁展開をしたものの、拮抗した末難なく破壊される。


 そうか。この『魂』……呪いや怨念などを付与し、精神エネルギーを高めることでエネルギー要素を強くし『檻』を砕けるように改造してるのか。

 これで貫通できると星香は考えた。実際貫通したしな。


 だが――ー。


「第一術式『解』」


 オレは青く光るオーラを纏いし右手の手刀で、迫りくる『霊体・翠燐』を三つ共々破壊していく。手刀の打撃とも斬撃とも取れる攻撃を受け弾ける緑の光波。


「私の霊体素子が!!! なんでっ!?」


 あくまで『霊体術式』で構成された代物。ならその術式を解体するまで。

 第一の『解』ではそれが可能。


 あんたら聖境は何故かオレの『第零術式』についてだけは詳しいようだな。誰かリークした奴がいる……おそらく杏姉だな。


 継続して上げる『蒼玉』が付する左手へさらに究極の術式を付与する―――。


「統也!! 何をするつもり!! あんた、何しようとしてるの!!」


 星香はオレの左手に巻く荒々しい青電を見て、こちらが何かを企んでいるとようやく気付いた。



 まあ、遅いがな。

 これは「炎の矢」よりも速い。




「虚数術式・虚電(こでん)拡張――――――」





 じゃあなシュペンサー・火花・クルス。

 せめて次は仲間として生まれ変わってくれ。

 聖境の経典で、そう願ってくれ。

 なんて、な。





「――――――『λ(ラムダ)』」




 そう、オレが凛の『月夜術式』を復元、権能により『再構築』し完成させた術式。

 オレ自身が雷電一族ではないので、扱える電気量には制限があるが。


  

 君のお陰だ、鈴音(すずね)。君の持っている潜在術式の作用を浄眼で記憶し逆転させたモノがコレ。

 つまり、『雷電乖離(らいでんかいり)』と対になる―――。




「『雷電誘導(らいでんゆうどう)』」 




 オレが呟くと同時、手のひらに乗る『蒼玉』が青い電撃の道を真っ直ぐと進んでいく。

 物体を電磁気力、ローレンツ力により加速して撃ち出すその速度は音速(マッハ)の約七倍。

 絶対命中の『蒼玉』を出力限界80%にて放った。


 そしてそれは、ミサイル誘導のように決して()()()()()

 なぜなら、クーロンにおける引力。虚数電荷により電子制御は完璧。誘導と連携した飛翔制御で『蒼玉』の飛行方向は正しく目標に向けられる。

 つまりどんな速度でどんな場所に逃げようとも、永遠に追いかけてくる『蒼玉』がシューに迫る。

 空間という性質の『蒼玉』に電子を滞留させておくのは至難な操作だが、領域構築で補えた。


 残念だなシュー、代行者がこの場に来るまでの間でオレはお前の位置を大方暴いていた。

 オレも狙撃の練習をしたことがあるから、よく分かったよ。お前が狙撃の名手だと。

 でも同時に、今日の風向きと天候、地上の光量関係から推測できた。 

 あとは茜に正確な位置を教えてもらい、浄眼で透視するだけでいい。



 さて。



 それを撃ち込んだ次の瞬間には、星香の元へ空間収束での接近。


「なっ――――――!!!!!」


 慌てる星香を前に、オレは右手の手刀で彼女のボディを一瞬にしてスライスし三枚におろす。かわす暇や対処する時間など与えずに。

 星香の身体から噴き出る鮮血を回避するように下がる。

 

 数メートル先で、赤く染まりながらもうつ伏せで倒れる永無が目を見張る。


「なに!? 『千斬』だと!? お前、名瀬一族じゃないのか!? どうしてお前が!!」

「ん? ……ああ、これは『空間断裂』だ。別にマフラーを介さなくてもできるぞ? 知らなかったのか?」


 原理的にはマフラーと同じ『空間断裂』。この青い断裂状態に触れれば、対象は現実世界から消失するように空間を抉ることが可能。


「あたしが、永無クレア、あんたに愛されたいって? 本気で思ってたの? あほくさ。なわけないじゃん。あたしは統也のためにいるし、統也が大好き、彼がたとえ(みこと)を選んでも、その『好き』は変わんない。それに、統也は初めから気付いてたんだよ……シューのことも、代行者があなた達と関りがあることも、これが第零術式を消耗させるための罠であることも、全て」


「なにぃぃぃぃぃぃ!!!! そんなわけがない!!!! 僕は完璧なプランを立てた!!」


「完璧? 統也が説明した内容と違った点をあえて述べるなら、あまりにも愚策だったってことくらい。あんまりあたしの統也(ギア)を舐めないでよね」


「最初にオレが嘘をついたお陰で、お前も心理的優位な気分を味わえただろ。良かったじゃないか永無クレア」


 オレが言うと、血が溢れるほど唇を噛みしだく。


「きさぁまぁぁぁぁぁ!!!」


 永無は古式の霊体系念動で黒い刃物を浮かし、それらを風を切る速度で飛ばしてくる。

 狙いは――里緒。

 

 だが、オレはもう里緒を守らない。

 

 いや、正確には守る必要がない。檻の防御を使う必要がない。



 智拳印を取る里緒は静かに告げた。柄じゃないくせにカッコを付けながら。



「領域構築『波導閉門(はどうへいもん)』」



  *



 昨夜。特別区という異能士の訓練を許可された森林中エリアで。


「里緒がこれから会得する技は『領域構築』による波動の防御だ。波動の密度を高めて防壁を作るイメージ。だがこの技術は里緒にしか教えない。他言無用を約束してくれるか?」

「うん、それはもちろんだけど……」


 少し表情を曇らせる里緒。


「いいか? これは、ただ波動を身体に纏うのとは根本的に違う。衣服を纏うだけじゃ防御はできないだろ? それと同じだ。つまり、衣服を重ね着してもらう……一瞬で」

「げぇ……難しそう……。そんな高度なこと、あたしにできるの?」

「ああ、できる。これは『領域構築』といって元々『ある技術』に対抗して作られたものだ。そしてその基本となる部分は、里緒が持っている才能が教えてくれる。今日中に出来るようになるといいな」

「えええ、あと数時間で?? 無理でしょ!」

「いや、里緒は今日中にできるようになるさ。なぜなら、お前は――――」


 超越演算者(アベレージオーバ)――異能とは違う、その「ある技術」の才能をも有する――。

 

「天才だからだ」



  *


 

 里緒に永無の黒き刃が触れる直前だった。



 バジン―――!!!



 強く弾き返し、波動の余韻が音波に変換され、空間を伝播した。

 基本的には不可視だが、被弾時や出力増強時には幕が目視できるのか。

 実は実物を見るのはオレも初めて。

 しかし里緒は昨日、数時間でこれをものにした。

  

「なにっ!!!! なんだその防御!!!」


 怯えた様子で、涙目になる永無クレア。


「ああ、あれか? お前も知ってるだろ? 『領域構築』だ」


 オレはクレアの前に来ると、そのまま見下す。足裏で彼の頭を踏み付ける。


「領域構築だと!? それのどこが!! 本来、マナ標準を薄く延ばす技術だぞぉ!!」

「里緒のは、身体を術式でコーティングし密度の高い空間を構築する技だ。列記とした『領域構築』。対象が自分か敵かで結果が大きく違うように見えるだけだ」


 永無は諦めていないようで再び、黒い刃物を空中浮遊させ、オレと里緒にぶつけにくる。


 里緒の波動防御では「魂」のようなスピリオンと波動自体で構成された攻撃は防御できない。あくまで物理攻撃のみの防御。

 だから先に、星香を殺した。

 だが里緒は今、物理的な効力ならほぼ完璧に防御可能――。

 


 バジン―――!!!



 里緒は構築空間の波動で、オレは『檻』の青い障壁で防ぐ。


「くそぉぉぉぉ!!!  貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

「うるさいな。少し黙れよ」


 頭を強く踏み付けながら言う。


「で。永無、あんたに相談があるんだ」

「誰が貴様のぉぉ!!」

「――いいから話聞けよ。殺すぞ。まあ聞いても殺すんだが」

 

 永無は屈辱などを涙や血として地面にぐちゃぐちゃに垂らし、押し潰し、悶える。


「聖境の最高権力者の元へ、オレを連れて行け」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ