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ダークテリトリー調査「帰還」



  *



 運転者は紅葉と風間蓮の二人。二台。紅葉の方の乗組員は里緒、オレ、雪華。

 他は風間の車に乗って帰還していた。


 帰宅途中の「LAV」の中。


 相変わらず気絶している里緒は左隣で横になり、安静にしている。

 右隣、すぐ近くに座っているのが雪華。距離は五センチとない。

 

「統也」


 雪華が静かめに、そして活力の失った声で呼びかけてくる。寂しさ、切なさ、そういった声。


「ん?」

「私たちは何のために、ここへ来たのかな……」


 オレは答えなかった。


 別に。

 答えれないわけじゃない。

 ただ、答えることに意味がないと判断した。


「もう疲れちゃった……」


 静名真昼、神崎雫、凪瀬柳という優秀な隊員三名がこの一回の調査派遣により命を落とした。うち神崎雫は裏切り者でもあった。

 雪華はよく頑張ったと思う。自分に出来る最高選択を常に選別していた。


「お前は頑張ったと思うが」

「そうかな……?」


 自分を訝るように言った。

 隣の雪華がゆっくりとオレの右肩に自らの頭を置く。もたれる形で。


「雪華……?」

「今はこのままでいさせて」


 そのまま体重までもをこちらに預けてくる。その行動に驚くがそれ以前に意外に軽かった。

 オレの右側面は、柔らかい雪華の体と密着していた。

 以前同じようなことを左肩で、里緒からされたことがあったが。


「……こんなのおかしいって分かってるけど、今はこうでもしないと平常心を保っていられない。寂しいっていうか。精神が崩壊しちゃうから」

「まあ……分かった」


 そのまま数十分が過ぎる。

 オレ達がいるこの車はその間も進み続ける。影人という障害を避けつつ前進する。アドバンスしていく。青の境界を背に、元居たIWという居住区に帰還するために。


 ふと喉が渇いたオレは車内、近くに置いてあった水筒を手に取り、蓋を開けてみるが。いかにも冷えていない様子の水が見えた。


「はぁ……」


 ため息を吐くオレ。

 その一連を見ていたようで右でくっ付く雪華が少し身動きする。


「氷、入れようか? 私の出したのがヤじゃなければ」


 一瞬脳がはてなで埋め尽くされるがすぐに意味を消化した。


「別に嫌じゃない」

「分かった、その水筒貸して」


 こちらに手を出してくるので蓋の空いた水筒を持たせると、雪華は白く細い指先から素早く、500玉くらいのサイズの(こおり)結晶を三個を構築していき、水筒内に落とす。


「はい、できた」

「ああ、ありがとう」


 例を言いつつ受け取り、その水を飲んだ。結構喉が渇いていたので、少し勢いよく飲み過ぎたくらい。


「おいしい?」


 なぜか水をがぶ飲みするこちらの様子を、柔らかい目で観察してくる。


「ああ。というかオレを観察しても何も面白くないだろ」

「いやいや、結構面白い。私の出した氷を美味しそうに飲んで」


 なんだ、その語弊のある言い方は。


「正確には水をな?」

「うん、まぁね」



  *



「雪華」


 数分後今度はオレから呼びかける。


 右にいる激近の雪華。空色の髪。水色ふさふさの睫毛が綺麗にカール。細い眉毛まで水色で協調されている。白夜一族のオッドカラー。

 そして何より、まるで本物のガラス体で構成されているかのように、煌びやかなアクアブルーの瞳。オレの浄眼による青い瞳、雷電凛の赤瞳、功刀舞花の紫の瞳とは異なり、明らかに研磨された宝石や水晶のように見える『水晶眼』。


 本物の水晶が埋め込まれているのでは、と疑いたくなるほどだ。

 瞳孔部分がまるで水晶のように光を乱反射している。


 こう見ると雪華も翠蘭などに引けを取らない。スタイル、きめの細かい肌など。


「なに? 統也」

「オレが事前に対策などを用意しておけば、被害をもっと減らせたかもしれない。だから……すまない」

「ううん。それは違うよ。統也ってそうやって変に抱え込む癖、あるよね。それ止めた方がいいかも。統也のせいじゃないことは明白だし、敵が強くて勝てないって場合があるのもしょうがない……。そう、しょうがない……」


 雪華、彼女はかつての仲良しだった人間、刀果とリアを失っている。

 なのにまた、真昼を、雫を失った。

 これでは彼女の心が持たない。


「次は、誰を失うのかな……」


 雪華は言った瞬間はっとする。


「っ――――……ごめん。私今、最低なこと言ったね……」

「いや」


 そういう偏った思考になるのも仕方がない、か。




  *




 そうして――――矛星(ステラ)という組織は優秀な隊員を80名近く失った。




 もちろん利益はゼロだった。ダークテリトリーの拠点を設置どころか影人一人捕獲することさえ叶わなかった。



 そう、むしろマイナスだった。



 その上現出した被害総額、総死者数。それだけでなく現役の隊員の心を潰した。メンタル的にも支障しかきたさない調査。




 とんでもないほどの代償を支払う『ダークテリトリー調査』、それに関わる活動は議論の余地もなく問答無用で()()された――――。




 世界の真実に辿り着く(すべ)を、インナー人類は一つ失った。

 






ここまで読んでくれた方、本当に本当にありがとうございます。感謝しかありません。

こからも読んでくれると嬉しいです。



さて、次から新章「白昼」が始まります。



~おさらい~

統也が使える虚数術式は――――、

①「術式空間ごと解体する「解」の強化・術式強制解除『虚空』」

②「空間発散と空間収束の複合術式『勿忘』」の二つ。


どちらも「不完全な虚数術式」による発動のため実践では成功率に波がある上、連発できない。


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