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青の境界 ~世界に六人しか存在しない特級異能者の一人、実力を隠し暗躍する~  作者: 蒼アオイ
第一章 プロローグ「二つに分かたれた世界で」
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雷の加護【1】

 

  *


 私は、電撃の防御を盾に3人(それとも3体と述べるべき?)の影人を相手にし、一切(いっさい)の遅れを取ることなく戦う。


 私の持っているこの雷電乖離スパークという技術は、技であり同時に私の性質のようなもの。

 別名、雷の加護……。そう呼ばれている。

 私の一族である雷電家の人間が持つ単純な電気性質の異能も当然のように使えるのだけれど、雷の加護(スパーク)はそんな異能とは無縁なもの。


 それも含めて私は、それを彼に……。

 本当は、私が雷電一族の生き残りであり(らい)電鈴音(でんすずね)という本名であること。

 成瀬くんには打ち明けたかったけれど隠していた。

 それに、私は彼にその名前を伝えたくはなかった。打ち明けたかったけど知られたくないなんて、矛盾していますね。

 でも雷電が雷電を探すって、客観的に考えれば意味が分からないでしょうから。

 頭がおかしいって捉えられても仕方がないでしょう。

 仮に家族を探しているなら、もっと具体的に容姿などが判明していなければ辻褄(つじつま)が合わないですからね。


 でも。もしかしたら、彼がサッカーボールを取らなければ、あるいは……。

 そんな虚偽の、想像の未来に意味がないのは理解してるんです。

 けれど、私は考えてしまいます。


 彼がサッカーボールを取り損ねて、私の加護に触れ雷電(スパ)乖離(ーク)が発動してしまえば、軽く電撃がボールから私を守ってくれます。

 そうすれば私は彼に小坂なんて偽名を使わなくてよかった。

 雷の異能を使っていると暴かれますが、優しい成瀬くんのことです。私が雷電だと気付いても私を(とが)めたりはしないでしょう。


 彼がボールを抑えてくれた時の私の表情は(みにく)かったことと思います。(うそ)(わら)いをして誤魔化(ごまか)そうとしていました。(はた)から見れば、見るに()えない苦笑(にがわら)いのように(うつ)っていたかもしれません。

 彼が異能を使用してまでサッカーボールを取り、私という存在を守ってくれた時、私は嬉しかった。

 これは偽りのない本当の気持ちです。

 私という存在を電気以外が守ってくれることなんて、今まで一度もなかった。

 他人から守ってもらえるという感覚。すごく優しくて、(あたた)かかった。


 生まれてから電気による絶対的な守護を受け続けてきた私は、人から守られたという経験がなかった。

 雷電体(らいでんたい)と呼ばれる電気が危険物から私を守ってくれるという簡易的で、とても分かりやすい能力。

 この生まれつきの性質により、小さい頃、まだ私がこの加護を制御できていなかった頃、私は近づく沢山(たくさん)の知り合いをその電流で傷付けた。近所の方々、先生、友達、母。


 悪意のない隣人の握手(あくしゅ)も、手を繋ごうとしてくれた友達も、頭を()でようとしてくれた先生も、()()こうとしてきた母も。

 全部全部、私の「雷の加護」が傷付けた。

 悪霊の電流。悪魔の電気。


 電気以外に守ってもらえるわけでもなく、他の人に触れることすらできなかった時期があった。

 でも今はそんなことはない。

 一度でも成瀬くんが私を守ってくれて、加護を制御可能になった今はたくさんの物に、人に触れてもらえるようになった。


 なんだ……。すーっごく簡単なことだったんですね。

 私は、私を守ってくれる誰かに出会いたかった。私の満たされていくこの気持ちは、それだけのことだったんです。


 私は力強い目で前を向く。


「そろそろくたばってくれませんか。私、こんなところで死ぬわけにはいかないの。それに……あなたたちには負ける気がしないんです」

 と啖呵を切りましたが、目の前の影人達は私の電気による攻撃を受けても、その損傷部分が発光しながら再生していく。

 恐ろしい部分は「治癒」ではなく「再生」と呼ばれていること。

 その表現の通り、(なお)るというより元に戻る、つまり再生という言葉が合っている。

 まるで攻撃が効かないように感じてしまいます。


 先ほど正面から胸部を貫通した(わか)男性(だんせい)型の影人も今は何事もなかったように傷が消え、完全に再生していた。


(これじゃあ、キリがない……。話と全然違うじゃない。 私の実力ならもっと簡単に倒せるって聞いていたのに……せっちゃんのウソつき! チューニレイダーが直ったら、絶対に文句を言いますからね)


 私は腕時計を見る。

 まずい……。すでに戦闘に入って、かなりの時間が()っている。


 一か八か。私は右手にビリビリと鳴る電流を集める。手は電気に溢れた放電状態となる。


 すると決着を早めに付けたほうがいいと考えたのか、私から見て右側にいた影人が攻撃を仕掛けて来る。


「そういうのを早とちりって言うんですよ」


 私はその攻撃をうまくスライドして()ける。

 避けた後、カウンターとして電気にまみれた手刀(しゅとう)を彼の体に素早く()()す。

 先ほどと同様、赤い血が吹き出るが……。今度はさっきよりも手ごたえを感じる。何か丸い形状の心臓(?)のような物を破壊した感覚が手に残る。


 パキンッ。


 何かの金属が割れるような音と酷似した破壊音が鳴る。


 その時でした……。


「え? なにこれ……」


 影人の体は、野球ボールくらいの手のひらサイズの謎の紫紺(しこん)の石ころを残し、他はまるでダイヤモンドダストのように急速に消えていく。


「これって、影人を()ったってこと?」


(殺せば、こんな風に消滅するというの……? こんな風に消える生命体がこの地球にいるなんて、許されるの?) 


 これは、他の生命体とは異なりすぎている。私の理解の範囲を大きく超えていた。


 そんなことを考えていると、残り二人の影人も私に向かってくる。


 せっかく一人は仕留め切れたのに。休ませては、くれないようですね。

 それぞれが私の背中(せなか)と左腕付近に触れようとし、二人とも再び私の加護の電撃を受ける。


「あなた達には知性というものがないのですか?」


 彼らは先ほどから何度も何度もこの雷電乖離(スパーク)に触れている。

 そろそろ物理攻撃が効かないと気付いても良い頃だと思いますが、恐らく、そのことに気付いていながら行動しているのでしょう。

 よって、おそらく彼らには知性はあるのだと考えられます。

 私に対して闇雲(やみくも)に攻撃をぶつけているように見えますが、厳密には多様な射角から死角がないか確かめながら()()んできているのでしょう。


 数多くの部位をそれぞれ2人が交互または同時に攻めてくる。

 もちろんダメージは入りません。相変わらず電撃が私を影人から守るってくれるからです。

 二人の影人の攻撃を私の加護(スパーク)が防ぐたびに電気が激しく火花を散らす。高い電圧がかかっている証拠です。

 私の雷電乖離(スパーク)という完全防御に死角などない。

 私のこの防御に隙間などがあれば、当然それが弱点になっていたことでしょう。


「そろそろ、終わりにしましょう。ちょうど、あなたたちの同じような攻撃にも飽きてきたところです。しつこい男は嫌われますよ」

 私は影人達に向かって少し笑う。

 彼らは長身の黒いナイフで攻撃をしてくるのが基本的で、異能を使用することはない。


(もしかして影人の攻撃方法は物理攻撃だけ……なんですか。だとするなら、とんでもなく恐ろしいことですね)


 彼らは異能も使用せず、圧倒的な力とスピードだけで。たったそれだけで人類の6割を絶滅させたというの?

 そっちの方が私にとっては、逆に恐ろしく感じてしまうのですが。


 そんな時。


「え?」 


 今のは……。

 ビュンと、目に見えない速度で私に切りかかる。



 バチンッ。



 今までと同様に強烈な加護(スパーク)の電撃が入る。だが、さっきの加護(スパーク)よりも数段威力が増している。

 先程の彼らのナイフによる()り込みと比べて数倍の速度があったが、この攻撃はどうやら影人のうちの一人が行ったようです。私の動体視力ではもはや追いつけない速度でした。


雷の加護(スパーク)を持っていなければ、私もやばかったかもしれませんね)


 彼らは、これだけの戦闘をしておきながら、まだ余力を残していたということになる。 

 この時の私は少し。いいえ、かなり焦っていました。

 私は大きめの電気を体中に(まと)い、それを一気に放出させる術式を組む。


 λ、δの基本電子の空間固定―――完了。


 超電荷同士でそれぞれを衝突させ、それを放出すればいい。


 電撃、発散の術式――――――雷爆(らいばく)!!

「これでも食らってください!」


 (あた)りは私のこの電気の攻撃により、雷が落ちたような音と共に衝撃が伝わり、煙だらけになる。


 少し電圧を高くしすぎた?

 

 キーーーーン。

 

 頭の中がグラグラ動くような感覚と共に、激しい耳鳴りがする。


「まっずい、ですね。これは……」


 私は体を支えるだけの方向感覚と意識を失い、その場で片膝を床に付けて座り込む。

 私は力を振り絞って腕時計を見る。

 なるほど、時間切れ……ですか。


 その時、正面でカタンと物音がする。

 やはりダメでしたか。あの術式じゃ影人は倒せなかったのね。

 かなり強い一撃をお見舞いしてあげたというのに……。


 いや、そうじゃない。

 私は顔をあげて正面を見る――――――。 


 


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