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今度こそ【3】

 そんな中、悠長な会話とは違うと分かる表情で近づてくる他の女子。

 忘却の彼方から引きずり出した記憶によれば、この子は確か決闘順位(ランク)第15位・工藤美央(みお)


「私たちを助けてくれてありがとう。とても感謝してる。代表して礼を言う。その上で……不躾な態度で申し訳ないんだけど、他の部隊がどうなっているか知らない? あなたほど強い人なら情報を持っているかなって思って。東側に向かった連絡隊が返ってこないんだけど」


 東側の部隊。おそらく一番強いCSS(シーズ)が最初に交戦した部隊。

 刀果やリアがいた部隊。


「それを答える前にオレからも聞いていいか? 部隊は東西南北に分かれているようだが、編制は誰が主任だ?」

「えっと……作戦立案は鈴音さん・舞花さんで、編制立案は進藤君だったと思うけど……」


 進藤が考えたか。

 影の数が一番多いところ――すなわちこの北エリアは「罠」だ。そこに陣隊人数をかけることをあえて勧めるトラップ。

 刀果たちが気付いていたかは知らないが、東側はむしろ穴が開きやすいよう、油断しやすいよう設定してある。そこに爆弾を投下。それが例のCSS。

 そんな軍での基礎戦略さえ知らない進藤(ヤツ)が編制をやったのか。


「なんだろう。無性に腹が立つ」

「えっ……何がっ?」


 つい心の声が漏れた。


「あの……で、結局、他の部隊はどうなっているの?」

「ああ、それなら東側は全滅した。他の隊のことは知らない」


 何食わぬ顔で言うと、それを聞いていた周りの生徒が唖然とする。しばらく声を発しない。


「全……滅? 千本木さん、ハン・リアさんがいた影人の少なめのエリアじゃなかったの?」


 黙っていると他の冷静そうな女子生徒がオレの方に近寄り話しかけてくる。


「ちょっといいですか?」


 何故かこの場の指揮権のようなモノが自分にある気がした。オレは傍から見れば突然現れた超怪しい人物なはず。だが、いつの間にかこの場の指導者(リーダー)的な立ち位置になっている。


 無自覚、無意識のうちの統制能力。まるでそれが天命とでも?

 君主や王にでも成れと言うのか。


「ん?」

「おそらく、あなたは知らないと思うのでお伝えします。……実は鈴音さんと進藤くん、現在は正体不明の喋る影び――――」



 そこまで言った時、その子は喋るのをやめる。

 おそらく皆、物凄い殺気を背に感じた。背筋凍るような冷たい感覚とでも言えばいいのか。

 まあ他人はそう感じるだろうという話。

 オレは変な違和感、または「気配」程度にしか感じないが。



「君ら―――全員、後ろに下がって」


 誰もいないような静かな方角。西側の方を向き、前に出る。


「……どうして? ここに奴が……。(いつき)君と鈴音さんだよ? 勝てないはずない」


 彼女の発言が「異能界の世間知らず」そのもの。まるでこの世を知らない。

 君ら生徒にとっては学校内が最大値。決闘順位が全てでその枠組みによる勝敗が全てなのだろう。だが甘い。世界にはそれを超える異能や異能者の存在が五万(くさるほど)いる。

 いくら「異能大国(いのうたいこく)」旧日本とはいえ―――――だ。

 異能『衣』だけで仮想ブラックホールを作る男や、時空を凍らせる女性()。鬼になれる一族。時間を止めれるオレ。まだまだいる。

 

 だから無視する。

 

「――いやいやあのさぁ、どうしてうちの影人(ザコども)死んでるわけぇ? せっかくもっと絶望してもらうおうとこの鈴音(ツインテール)持ってきたのにさぁ」


 CSSが、右手に仕留めた鳥の首を掴むかのように鈴音の首を鷲掴みしながら、森の闇から姿を現す。

 脱力した鈴音の髪全体は何故か凛の髪先のように白く変色していた。

 

 影人が普通に声を発している? マナ音声……いや、普通に声帯からの発声なのか。

 見たこともない容姿のCSS。未登録の影か。


 発動した浄眼で見ると、鈴音の心臓はまだ微かに動いていた。

 この影の発言から、ここで彼女の息の根を止め、処刑する気だったようだ。

 そっとマフラーを緩め、外す。


「お前―――」


 オレは言いながら瞬間的な移動、瞬速を用いて彼に接近。

 相手は赤い瞳を持つ目を見開いて、当惑する。瞬時のことで反応できなかったのだろう。

 初見で「瞬速」を見切れるような奴には会ったことがない。当然。


「―――何者だ?」


 発言途中、マフラーを素早く振ってその右腕を切り落とす。鈴音を掴む手を。

 重力により落ちる鈴音をお姫様抱っこでキャッチしつつ奴の胴体に蹴りを入れ、その反動で距離を取る。



 鈴音の生体情報――確認。有機構築材料――決定。


 DNA情報――複製。生体細胞――復元。

 

 全工程完了。


 発動――――『再構築』。



 血が出る脇腹と切断された左腕を再生させた鈴音を地面に横たわらせる。過去のマナ情報を見た時より、今この時彼女のDNA情報を覗いた時の方が驚いた。

 まあ、今考えるべきことではないか。

 

「なに!? どういうこと?」

「今、何が……!?」


 一瞬出来事の連続でついていけない女子生徒。


「僕の腕を切った……? ちょっと何してくれてんのぉ?」


 それに返事をしないで、後ろの女子へ話しかける。


「君ら、早く下がって」

「で、でも……」


 なんだ? 何を躊躇っている? さっさと下がってくれないか。

 邪魔なんだが。


「私たちも――」

「ちっ……面倒だ」


 舌打ち後、オレはノールックのまま……というよりか、数十メートル先にいるCSSを浄眼(この眼)でしっかりと捉えながら、後ろ側に手を出し『檻』の壁を展開する。

 サイズ的にはさっき出した特大の物。背後に居る女子らと自分を分断するためだった。

 正直、足手まといでしかない。他の人がいるとむしろ邪魔になる。

 今は優しいふりをする気力も余裕もない。


「ねぇ、返事しないってことはさぁ……僕を侮辱して、冒涜してるってことになるよね。ねぇ?」

「知るか」


 ぶっきらぼうに言うと苛立ったのか表情を険しくする。


「はぁ??? ……あーもう腹立った。腐った脳みそが……絶対に許さない。君は殺すよ。……絶対にね」


 何言ってるんだコイツ、という顔で奴を見る。


「ガキか」

「君さぁ、そうやって僕を冒涜して楽しい?」

「冒涜? お前、『冒涜』って言葉ちゃんと辞書で引いたか?」

「はぁ……?」


 変形手を用い、剣状に変化する手。


「『冒涜』って言葉は神聖なモノに対し使うんだ。お前みたいなゴキブリに使う言葉じゃねーよ」

「君さぁ……本気で殺すよぉ??」

「好きにしろ。出来るなら、な。……お前だろ? 刀果とリアを殺したのは」

「は、誰だよそいつ。知らないよ。酷いねぇ、それってただの言いがかりじゃないのぉ」


 オーバーリアクションで手振り身振りを付ける。


「刀を持った女子と、空気系統異能の子だ」

「あー、あの雑魚(ザコ)たちねぇ、最後まで皆を守るーとか言って死んでいったよ。まじ脳みそくさってるよねぇ。キモイよ、ほんとに。その上、最後は泣きながらぎゃぎゃーうるせーし、ま、即死させてあげたよ。僕って偉いよねぇ」




 ああ、そうか。

 


 彼女らはこんなどうしようもないクズに()られたのか。



 本当はコイツを殺す気はなかった。

 影人化できる人間。捕獲することで情報を吐かせる。他にも、大事な実験体として「影」の謎を解く、第一歩になってもらうつもりだった。殺すよりも生かして実験データを取った方が「世界の未来」のためになるからだ。一応、四割しかいないIWの人類のためになるからだ。




 だが、悪いな人類。

 



 オレはコイツを駆除する(殺す)




 何がなんでも。必ず。




「あのザコ、もしかして君の好きだった人とかぁ??」

「黙れ」

「うわぁ、引くわぁ。さっさと死ねよ」

「黙れ」

「黙れ黙れって僕の喋る権利を冒涜してるよね? それってあっていい行為じゃないよねぇ?」


 そう言いながら変形手の剣で殴りかかってくる。斬撃ではなく殴り。

 裸眼なら見切るのがやっとな速度に対し、カウンター。オレもマフラーに檻を付与して切りかかるが。

 二度見せる瞬速で流石にかわされる。

 だが殴ろうとしていた行動を変更し、かわしたことで少し足元がふらついた。

 そんな隙さえ見逃さない。オレは奴に向けて『蒼玉(そうぎょく)』を放つ。



 出力調整、工程省略。



 こんなの適当でいい。



 一般的に言う「雑」な一撃。その代わり異能演算式の構築が特段に早い。




 檻「蒼」―――――空間収束『蒼玉』。




 凄まじい速度で放出した青い球は、奴の身体を空間ごと押し出し、半身を吹き飛ばすに至る。

 その攻撃を食らいながら。


「へ――――――?」


 呆気に取られるヤツは、大量の出血と光の散布。吹き飛ばされ、なぎ倒された木々の奥でやっと止まる。


「さっきの余裕はどうした?」


 後ろから話しかける。

 オレはいつの間にか数メートル先に吹き飛んだヤツの背後に回っていて、再生も間に合わないうちに、心臓部を切りつける。

 だが空間ごと切り裂いているのに、何故か(コア)が破壊できた感触がない。おそらく咄嗟にその位置をずらしたか。


「まさか……貴様が……名瀬統也!! 奴が言っていた、()()()()()()()()()()()()!!」

「奴って誰だ? 誰に命令されてこんなことをした? 鈴音か?」


 身体の四割ほどを失ってもなお、息を切らしつつ再生していく。オレはそれに歩み寄っていくだけ。


「鈴音って……確か……はぁはぁ……さっきの弱ったツインテール?」

「そうだ。お前が『(ふるえ)』を使って瀕死にした相手だ」

「待て貴様、どうしてそれを知っている!?」


 『振』異能者であると見抜いたことに対する驚きだろうか。


「簡単な話だ。鈴音は初めからオレや他人と会話できていた。普通にオレの出す音声を耳に入れていた。彼女は自分に接近する物体やマナ……具体、抽象に関わらずあらゆる存在(もの)を電気の力により乖離する。ただし『波動』以外だ。彼女、『音波』という他人の声は普通に聞いていた」


 音声を乖離しているならばそもそも体にぶつかる音波全てを常に弾いていることになるが、そんな様子はなかった。光である光波も同右だ。つまり、波は唯一あの加護を通すのだと、初めから思ってはいた。

 異能決闘で不動スタイルを貫く鈴音が、里緒相手の時だけやむを得ず戦闘したというのがどうにも引っかかった。

 推測になるが死んだ舞も当然のように気付いていただろう。加護の弱点は波動(なみ)であると。


「あのツインテールのことまで随分詳しいみたいだけどさぁ」

「その反応的に、鈴音の指示じゃないな。鈴音はおそらく利用されただけだ。で……お前も利用されただけだ」

「貴様ぁ……」


 怒りを表すヤツは再生が終わり次第立ち上がり、剣の手で殴りかかってくる。尋常でなく速い。異次元の速さ。

 だがオレの、常時発動している浄眼の前では大した意味を持たない。

 その剣には高周波が付随していたことも確認済み。


 オレは目の前に檻の障壁を展開し、攻撃を阻む。


「死ねぇ!! 死ね死ね死ね死ねぇぇえ!!」


 左から右から上からなど、全ての攻撃を檻の高速展開で防御していく。


「そろそろ気付け。そんな波動の剣、オレの前には何の意味も持たないんだよ」



 何故だろう。今ここでは何も失わないからか。

 今まで溜まってきた鬱憤を、制約のない、縛りのない「この場」で晴らせる。暴れられる。そんな興奮。ハイになっている。

 完全に身体(からだ)中が「破壊」を求めている。


 オレは今すごく気持ちがいい。

 いや、違うな。全てが不快すぎて全てが心地いいと勘違いし塗り替えている。

 脳が勝手に誤った認識を刷り込んでいく。

 だがここ()にある全能感――――。


 気味の悪い表情だろうと自覚するほどにオレの口角が上がってゆく。



 ああ。



 オレは今からコイツを殺せる。



 誰の命令でもない。自分の意思で殺せる。



「この僕を冒涜していいわけがない!!」


 直後地震のような揺れが発生する。

 地面に足をぶつけ、その衝撃をレイリー波に移行させる技か。

 オレは異界術で高くジャンプし、空中に上がる。

 地震の主要動で揺れるのは地面だけ、一応空気も揺れるには揺れるが局所的な仮想地震程度で空中までは干渉できない。


 森林にそびえ立つ樹木よりも高い頂点。位置エネルギーの最大に来ると、自身にある運動エネルギーが概念上の自由落下をもたらす。

 落ちてゆく流れ、その風が成す何とも言えない爽快感に身を任せ、上下逆さまで落下し始める。


 逆さのまま。限りなく大きい「正負の無限大」で拡大している空間の発散速度を上回る「発散」を生み出す。



 今のオレになら出来る気がする――――。

 


 人生初の空間極限。淡い青を――――。



 左手の人差し指に乗る球体(それ)は同じく青色だが濃い「蒼玉」とは異なり、色が淡い。





 檻「蒼」




 空間発散『青玉(せいぎょく)





「因果応報だ。死ね」

 


 逆さのまま告げる。

 左手の指先からは空間発散を放出する。右手はというと奴へ中指を立てる。




「なっ――――――――――――――――――」




 奴はオレが作り上げた淡く青い球体に触れる。



 瞬間、球体はアブノーマルなまでに強烈な放散をもたらす。一帯は青の大爆発。



 オレは自らを檻で囲み、その爆発から逃れる。



  *



 檻から出ると、跡形もなくなった景色がそこにはあった。

 ここ一帯にあったはずの森を形成する木は何もなくなり、更地となった。

 大きなクレーターの中心にオレはいた。



 空間を制御する御三家「名瀬」を見くびったな。




「まずは一人、殺した」




空間発散「青玉」の話。


 無限大の発散速度。

「X→∞」の極限において無限に拡大するスピードは、Xの対数関数 ≪ Xの多項式 ≪ Xの指数関数 ≪ Xに対する任意の「青玉(せいぎょく)


みたいなイメージで言ってます統也は(笑)

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