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青の境界 ~世界に六人しか存在しない特級異能者の一人、実力を隠し暗躍する~  作者: 蒼アオイ
第一章 プロローグ「二つに分かたれた世界で」
13/293

「奴ら」【1】

 

  *


「ッドン!」


 オレの走って向かっている方角から大きな爆発音が聞こえる。

 オレは立ち止まり、軽く耳を(ふさ)ぐ仕草をする。


「K、大丈夫か?」


『……んんっ。今の音なに? 鼓膜破れそうだったんだけれど……』


「さあ、オレも分からない」

 正面の煙の立ち込める方を向く。


『なにかの爆発音?』


「そのようだな……。前方方向数百メートル辺りだ」

 どうも嫌な予感しかしないが、オレはあの煙の立つ場所に行って状況を確認する必要があると判断した。


 それに加え、辺りが(さわ)がしい感じがする。これは一般人がどうのこうのというレベルではないが、一旦は無視しておこう。


 オレは意味もなく装着している紺色無地のマフラーを触り、その感触を楽しむ。


(行くしかない……か)


 オレは再び走り出す。


『まさか……鈴音さんが関係している?』


「さあな。確認しに行くまであの爆発の正体が(なに)かは分からない」


『統也……もしかしてだけど、そこへ向かう気なの?』


「当たり前だ」

 オレは即答する。


『そう……。私が止めてもどうせ行くんでしょう?』


「ああ」


『……好きにしなよ』

 彼女は呆れたと、オレを突き放すと思っていたが、そうでもないようだ。

 今の「好きにしなよ」は、頑張りなさいよ、という意味のニュアンスに聞こえた。

 オレの全くの勘違いということもあり得るが。


「K、チューニレイダーの使用制限時間は後どれくらいだ?」


『今の時間帯なら早くて25分、長くて40分くらい……だと思う』

 神経に接続するチューニレイダーは、時間帯によって最大稼働率が異なる副交感神経が大きく関係しているため、その時間帯によっては最大使用時間が異なる。


「分かった。ちなみに、電気系魔素とオレの相対距離は縮まっているのか?」


 要はこの相対距離が縮まっていれば、雷電の正体に近づいていることになるが……。


 彼女は口を開く。

『うん……。縮まってるよ』



  *



 私は数分前に爆発した現場に丁度(ちょうど)今到着したところです。

 辺りは工事現場のようで崩された材木(ざいもく)や鉄筋、コンクリートなどが山積みになっていた。

 その近くにはクレーン車などもあり、どうやら今日も工事は続いていたようだった。

 私は足音が鳴らないようゆっくりとその工事現場へと侵入する。

 まだ煙が完全には晴れていないので、辺りは微かに煙っぽいです。


「うっ……っん……」

 解体作業をしているすぐ目の前の建物付近で男性のうなり声が聞こえる。

 私は走って、その声の聞こえた方向に向かう。

 煙ですぐ目の前が見えなかったけれど、地面に倒れている人影を発見し、その場に急いで近づく。

 (あん)(じょう)、男性が倒れた状態で伸びて(もだ)えていた。


「大丈夫ですか? どこか怪我はありませんか?」

 私は(かが)み、この人の様子を観察するが、見た感じ目立つ外傷(がいしょう)はない。


「……だ、だいじょうぶだ……。それより人が、まだ中に……」

 彼は倒壊しかけている建物を指差す。


「はっ! 中にまだ人が!?」


 私は軽く彼に応急処置を(ほどこ)し、その場を離れる。

 辺りを見渡す限りマナの残影(ざんえい)を確認できるため、謎の爆発は異能士の仕業だと考えられますが……。


 異能士とは、異能力を使用し「奴ら」を討伐することで、それらを生業(なりわい)とする者たちのこと。血統や血脈によって能力が引き継がれることがほとんどで、有名な家系では名瀬(なせ)伏見(ふしみ)三宮(さんぐう)雷電(らいでん)白夜(びゃくや)風間(かざま)などがあげられる。


 特に、名瀬(なせ)家は空間を制御する「(おり)」、伏見(ふしみ)家はエネルギーを収束、発散させる「(ころも)」、三宮(さんぐう)家は光現象を操る「(いと)」。

 この強力な三つの異能を使用する家系は、北日本国のほどんどの領土である北海道の異能士世界をまとめる「異能御三家」と呼称されている。


 また、この世に異能士がいることに不思議に思う人も少なくないでしょう。

 IWは安寧世界。「奴ら」が存在しない、救われた世界。そんな世界で「奴ら」を討伐する職など必要なのか、と。

 結論から言えば、必要不可欠な存在です。

 

 なぜならこの世界は、本当は「救われていない世界」ですから。

 

 話が逸れ過ぎたけれど、異能士がこんな爆発を起こすだろうか。

 人類を守る存在であっても、脅かす存在にはなってはいけないはずです。

 それに、このマナの残影もなんだが気味が悪く、瘴気(しょうき)に近いものを感じます。

 言い表すなら、「奴ら」に近いマナを。

 「奴ら」の活動時間は基本的には夜であるはず。

 何故だか()かりませんが、昼間に活動する個体は希少であることが知られています。

 今は真昼(まひる)と言っても過言ではないような時間帯。本来なら「奴ら」が活動している(わけ)がありません。

 そんなことを考えながら慎重に建物に踏み込み、中に入る。


 爆発の影響かは分からないけれど、軽い倒壊によりもはや入口と呼べるものは存在せず窓からの侵入となる。

 辺りの様子からこの建物は元々しばらく改築されなかった病院か何かだろう。

 内部では(いま)だに煙が残っていて足元などがはっきり見えない。

 ですが、前に進むしかありません。

 気配を消し、静かに中を捜索していくと、奥にたくさんの人影が倒れている状態で見つかる。

 (じゅう)数人(すうにん)がそこで倒れていました。


「これは……なんてこと」

 私は急いでそれらの人達に近づいて様子を見に行ったのだけれど……。


 そこには───────。


 煙で明瞭(めいりょう)に見えなかったものが近づくことで見えていく。

 私は呼吸が荒くなるのを自覚する。


「はぁはぁ……はぁはぁ」


 これは。これは。これは……。どうして……?


 心臓の鼓動が早くなっていく。

 私の目の前がグラグラ動いているような錯覚まで感じ始める。


 これは。


 これは。


 いったい何が……。



お読み頂きありがとうございます。


興味を持ってくれた方、続きが見たいと感じてくださった方がいれば、高評価、ブックマークなど是非お願いします。


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