異世界転移、失敗?面倒だからどっちでもいい
視界が靄のかかったように掠れ、意識が薄れていく。
面倒だ。
非常に面倒なことになってしまった。
わずかに残る意識の中で、ひたすらに面倒だと呟く。
面倒だ面倒だ面倒だ……
そして意識が完全に途絶えた。
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「んぐっ、重いなぁ」
透過体となった彼女、風角 寝雨を男の娘が運ぶ。
「どうして僕がこんなことをする羽目に…
そもそも、主様がこんなミスをするから悪いんだ。後で怒らなきゃ。」
ため息をつきながら、世界の境界線を越える。
と同時に、寝雨の体が実体化する。
「よし、軽くなった。」
実体化し、軽くなったその体を思いっきり持ち上げる。
「えいっ!!」
遠く空の彼方へ放り投げた。
防護魔法と一緒に。
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ココハ フカイ モリノナカ
コモレビガ カノジョノ ホホヲ テラス
ジメンガ モコモコ ウゴキダス
ジメンカラ オオキナ モグラガ デテキタ
バーンってなってまた吹っ飛んだ。
山をごろごろ転がり落ちる。
近くのログハウスに強くぶつかって止まった。
「んあぁ、なんじゃぁ?」
ログハウスから、髭を生やしたおじいさんが出てきた。
『あるバス・ダンボールドア』とも見間違えるほど似た背格好だ。
「なんじゃ、女かぁ。わしは可愛い男の娘が趣味なんじゃがのう」
どこかの男の娘さんの背筋に悪寒が走った。
ブツブツ呟きながら、寝雨を家に引き摺り込む。
あいにく防護魔法がまだ効いているので、傷はついていないようだ。
そしておじいさんは、乱雑に彼女を部屋の隅に放り投げると、寝てしまった。
……一ヶ月後
まだ寝雨は寝ていた。どうやら、防護魔法が寝雨の意識が戻るのも守っているみたいだ。
これに気付いたるは男の娘。気配と姿と匂いを完全に消しながら、意地でもおじいさんにバレないように寝雨を連れ出した。
「この子不運にも程があるだろ、主様も主様で悪いけど…」
ぐちぐちと悪態を吐きながら寝雨を運ぶ男の娘。今度は丁寧に孤児院の前に置いた。
「流石にこれでもう大丈夫だろ。」
フラグである。これ以上にない完璧なフラグである。
しかし、男の娘には『フラグ回収回避』という便利なスキルがあるので(誰のせいで身についたのだか…)もちろん回収はしない。無事、寝雨は引き取られた。
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目が覚める。開口一番「面倒だ」と呟く。今回に限っては誰でも呟きかねないので許そう。
「あら起きたのね、ちょうど朝ごはんの時間よ。」
いかにも先生っぽい人が私に声をかけた。