それぞれの思惑
「不平等というべきか……」
兼州軍のアサルト・モジュール飛来の報を聞いて仮眠から戻ってきたオーギュスト・ブルゴーニュは苦虫を噛み潰した表情で画面を眺めていた。上空からの無人偵察機の映像は檄を飛ばすアサルト・モジュールとその周りに群がる兼州軍を示していた。
「勝負は決まっているんですから……『外憲』の無茶を無視できるような時間が経つまではうちは航空戦力の投入はできませんよ」
通信端末の向こうで息子のアンリ・ブルゴーニュはやや浅薄な笑いを浮かべながら呟いた。
「しかし……一方的に攻撃されればうちも動かざるを得ない。央都にはうちの戦闘機六機を待機させている」
「無駄に終わるでしょう。西園寺孝基という男は馬鹿じゃありませんよ。士気を鼓舞する以上の使い方はこちらが挑発でもしない限りやらんでしょう」
「勝つ気があれば先手必勝で……」
父の言葉にアンリは大きなため息をついた。
「だから西園寺は馬鹿じゃないと言うことです。あの名宰相西園寺重基の嫡男というのは事実なんですから。兼州離宮のアサルト・モジュール七機を起動させればそれこそ東和に喧嘩を売る話になる」
「東和は本当に動くのか?」
ためらうように呟いたオーギュストの言葉に再びアンリは大きなため息をついた。
「東和は本気ですよ。すでに青州に長距離航行の可能な戦闘機を移動させました。また東海洋上には二個空母艦隊が臨戦態勢を取っている。これまで経済でしか遼州に影響を与えられなかったことを後悔するように首相の菱川重四郎は強気の発言を続けている」
「東海にはそれを止める空軍力は無い……アサルト・モジュールの実戦投入はまだだが十倍の戦闘機をどうこうできるとは思えない」
「そういうことです。それに今動けば南都がこの戦いの矢面に立つことになる……それだけは避けてくださいね」
たしなめるようにゆっくりと語りかけてくる息子の口調に少しばかりオーギュストは怒りのような表情を浮かべていた。
「それとアンリ。本当にゴンザレス将軍は献殿下に刺客を差し向けるつもりなのか?」
オーギュストのたどたどしい調子の問いにアンリは笑顔を浮かべた。
「武帝に続いて献殿下を亡き者にする。まああの御仁ならやりかねませんし近くに傭兵軍団をいくつか束ねていますからやる可能性はあるでしょう」
「やるなら今のうちが良いな」
「父上は正直者だ……ただ今の段階で献殿下を消せば東海は離反するでしょう。東モスレムも独立の志向を強めるでしょうし……父上は?」
「ワシの持ち札も増えるからな」
「だったら今のうちは無いでしょう。四面楚歌になるくらいなら多少の犠牲は出しても央都の兵力で兼州を屈服させるでしょう」
アンリはそう言うと静かに頷く。
「なら我が軍は……」
「動かないに限りますな。これ以上兼州は戦線を広げる力はないでしょう。早晩央都軍が動くのですから父上は黙って座っていればいい」
「人を置物みたいに言う。それでも息子か?」
「父上だから本音を申し上げているのです。身内でなければ持ち上げて総攻撃を進言している」
「食えない奴だ」
アンリの言葉にオーギュストは冷や汗を浮かべながら吐き捨てるようにそう言うと通信を切った。
「君、戦線に動きは?」
参謀を見つけたオーギュストは急にしゃっちょこ張って敬礼する士官に尋ねた。
「現在のところ特に動きは……」
「こちらからは仕掛けるな。戦線を維持しつつ消耗に備えよ」
「は!」
オーギュストの言葉に士官は走って消えていく。
「央都での工作はアンリに任せてワシはじっと戦線で黙っていよう」
自分自身に言い聞かせるようにオーギュストは呟いた。




