6月の雨の日
一人の男がぼんやりとじめじめとした空を眺めていた。
その男の名は『嵯峨惟基』と言った。ここは彼の指揮する部隊、遼州同盟司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』の隊長室だった。
「あれも6月だったな……」
嵯峨はそう言うと静かに胸のポケットからタバコを取り出した。
静かに火をつけ、じっと外を見つめる。
雨は絶え間なく降り続けている。
嵯峨が椅子に座りなおした時、彼の居る隊長室の扉が開いた。
見た目は8歳くらいに見える幼女が手に書類の束を持ちながら、いかにもめんどくさいというような姿で部屋に入ってきた。
「おい駄目人間。いい加減、部隊長会議にアタシを代打で出すのやめてくんねーかな」
鋭い目の少女は苦笑いを浮かべつつ不服そうにそう言った。
「面倒くさくてね。それに、事前に会議の内容の情報は秀美さんから入ってるし。今回も形だけの会議。出るだけ無駄だよ。すまないね、いつも」
「安城中佐からか?」
「そう、安城秀美さん」
嵯峨はそう言うとにやけながらランを見つめる。
「いっとくけどさ。安城中佐は隊長のことなんてなんとも思ってねーぞ」
呆れたように少女はそう言うと隊長の大きな机の前に置かれた応接セットのソファーに腰かけた。
「言ってくれるねえ。知ってるよ……まあ、人間の情なんてものは……自分じゃどうしようもないモノさ」
「分かってんならそれでいーや」
ちっちゃな制服を着た少女、『クバルカ・ラン中佐』は嵯峨の言葉を聞きながら視線を窓の外に移した。