表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/11

04 第二ラウンド、開始

 二度目だ。二度目の時が、やって来た。


「じゃあ次、そこの女の子!」


 祥がこちらを見ている。……いや、祥だけじゃない、自己紹介を終えた人、終えていない人、そしてこのアニメをリアタイ視聴している原作ファン。全員が私を好意的に、それ以上に否定的に、注視している。

 つとめて目立たず、妙な行動は起こさぬように。私は前回同様、深呼吸を一つ挟んでから立ち上がる。


「藤吉アリサです。私もみんなと同じで、高校二年です。よろしくお願いします!」


 ――決まった。

 必要以上に緊張せず、おどおどせず、快活そうな雰囲気も出さず、何の特徴もない自己紹介だった。当然、前回のように世界が途切れ、メビウスの元に戻されることもない。当たり前だ、これはまさに女子生徒Aと言っていい自己紹介だっただろう。あとはタイミングを見計らい、いらないキャラだと思われないような行動を――なるべく主人公である桜の手助けになるような行動を取ればいい、それだけなのだ。

 さて、もちろん何も突っかかられるような要素も無かったために、円滑に自己紹介は進んでいく。

 私の次に立ち上がったのは、鮮やかな髪色を持つキャラクターが多い中で、唯一艶やかな黒髪と長い睫毛に縁取られた切れ長の黒目を持つ、凛とした美少女……というか美女だった。左隣からすごくいい匂いがしていたのは多分この子がいたからだ。

 その最大の特徴は、他が全員ブレザーなのに対して、この子だけが黒いセーラーを着用しているというところだろうか。


「五十嵐千鶴よ。高校二年。……と言うか、全員同じ年齢みたいね」


 辺りをちらりと見回して、千鶴が言った。言われてみれば確かにそうだ。最後の女の子を除いて全員が高二だと言っているし、その最後の女の子も、桜と同じ茶色のブレザーを着ていて、尚且つリボンも同じ赤色。となれば、恐らく――……


「あたしは桐島燈子! その子の言う通り、あたしも高二ね。そんで桜の大親友ってワケ! ね、桜!」

「も、もぉ……! 恥ずかしいよ、燈子ちゃん……」


 赤茶のショートカットの髪、きりっとした茶色の目。そして雑な制服の着こなし……なるほど、明るくてちょっと男勝りなタイプの、攻略対象に興味がないサポートキャラと見た。実際に行動選択に入るまでプレイしていないから定かではないけど。

 となると、千鶴が恐らく隠しキャラを出すための女キャラということになる。ちゃんとプレイしておけばよかったな、と今更ながら思った。


「うん、これで自己紹介は一通り回ったな。じゃあ次、例の手紙についてだけど……ていうかこれ、いつまで俺が仕切るの?」


 やや困惑した様子で祥が言う。まあ他に仕切れそうな人もいないし仕方ない――というかこの乙女ゲーム、私が入ったことで男女比がおかしくなって、祥が幹事で合コンやってるみたいだな。まずい余計なことに気付いた、笑いそう。

 なんとか笑いを堪えつつ事態を見守っていると、静まり返った食堂にカチャ、という音が響いた。これは多分アレだ、眼鏡のブリッジを指で押し上げた時の音。……この空間に、この音を出せる人間は一人しかいない。


「引き続き、多々良さんが指揮を執れば良いのでは。五十嵐さんでも良さそうですが、いちいち変える必要もないでしょうし」


 菱川伊月(いつき)。黒色のブレザーをかっちりと着込んだ、鬼門よりやや濃い青――紺に近い色の髪と黒縁の眼鏡、そして髪と同じ紺色の瞳が印象的な、潔癖っぽい雰囲気のある知的イケメン。……まずいな、イケメンが多すぎていらない語彙が増えてきた気がする。攻略対象の四人はもちろんのこと関係ないけどメビウスもイケメンだし、あとヒロイン含む女三人衆も可愛すぎる。浮くわこんなん。

 私が頭の中でごちゃごちゃとどうでもいいことを考えていると、おずおずと桜が手を上げ、小さな、それでいてはっきりとした声で言う。


「あの、私も多々良くんでいいと思います。多々良くん、すごくしっかりしてるし、慣れてそうだし……」


 おそらく、みんな同じ意見なのだろう。千鶴含め、肯定的な反応を示している。

 そんな中で、私はちょっと下種なことを考えていた。この辺りまでは原作ゲームをプレイした記憶があるが、この時の桜の発言には選択肢がある。

 ひとつ、祥を推す。つまりこのアニメでは、このルートが採用されているのだろう。ふたつ、伊月を推す。これもまあ、よくわからないが多分好感度が上がるのではないだろうか。そしてみっつ、千鶴を推す。おそらくこれを選択することが、隠しキャラを登場させる条件の一つになるのだろう。……ということは、このアニメ、隠しキャラは登場しないのだろうか。そのキャラにもファンはいるだろうに、そんなことある? いや、それにしては祥がわざわざ誕生日席に座っていて、私の向かいの席が意味深に空いているし……でもこれじゃあ登場する切っ掛けが――


「分かった。じゃあ、引き続き俺がやるよ。……話を戻して、手紙のことだけど」


 まずい、集中しないとヤバい。はっとして私は祥の方をちゃんと見る。ここでしっかり話を聞かないと『藤吉さん聞いてる?』『あっ、ごめん! 聞いてます!』という会話が発生し、アンチスレが立つ。いやこれだけで立ちはしないかもしれないけど、何らかのきっかけで立った時に『あの時のアレって祥に気に掛けてもらうためなんじゃね』とかいう意味不明な勘繰りをされかねないので、とにかく今は目立たない方がいい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ