ツール:交換日記
「交換日記をしましょう」
彼女がそう提案してきた。
ここのところ毎日電話している。交互に電話することにはしているものの、毎回1時間近く話しているため、いい加減にしろと親に怒られる始末だ。それでも、
「私と電話してるの、楽しくないの?」
と、彼女が拗ねる方が面倒なので、親からは大人しく怒られることにしている。
それよりも、毎日一時間も話す内容がないのが問題だった。途中で黙っている時間もあり、個人的には何でこんなに時間を費やすのかあまり理解していない。ただ、名残惜しそうにするため、ドライに電話を切ることができないでいた。
彼女も今年受験生で、時間を使っている余裕はないはずなのに。そう思ってたところで、この提案だ。
「ほら、電話だとどうしても時間使っちゃうじゃない? 交換日記だったら、自分の時間で書いたり読んだりできるから、通話の時間減らせるかと思って」
それは大賛成だ。交換日記って何するものかは知らないけど、電話口で黙っているよりははるかに建設的だと思う。
「というわけではいこれ。このノートに1ページずつ書いていこう!」
渡されたのは、猫のかわいいキャラクターが表紙の落書きノート。こんなの僕のカバンに入ってたら明らかに不自然なんだけど……
「このキャラ、好きなの」
そう言われると反対するのも躊躇われ、何とか目立たないように持つしかないか、と諦めた。
「じゃあ、記念の1ページ目、お願いね」
あ、自分から書くのか。やばい、何を書けばいいんだろう? 日記だから日記でいいんだよね?
こんばんは! たぶん読むのは夜だからこんばんはで合ってると思います。
交換日記なんて何を書けばいいかわからないから、とりあえず思ったことを伝えようと思います。
まずは、毎日朝から駅で待っててくれてありがとうございます。駅からは7分くらいで学校についてしまいますが、楽しい通学時間を過ごせています。
放課後は時間が取れなくてすいません。校則変更の草案が大詰めで、総会の準備も並行して進めているからてんてこまいです。まあこの生徒会の最後の仕事なので、一生懸命頑張ります。
それから、寺田さんの家族にもとても感謝しています。遊びに行ったときはいつも美味しいご飯を出してくれて、とても暖かいです。うちも仲が悪いわけじゃないのですが、あまり家族でいろいろな会話をするといったことはないので、とても新鮮です。寺田さんが、自分が思っていることをしっかりと言語化できる素養はそういうところからきているのかな、と思います。僕は逆にあまり自分の気持ちを話すといったことをやってこなかったから、いま寺田さんにすごく刺激を受けていると感じます。
こんな感じで大丈夫でしょうか。これからもよろしくお願いします。