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夜行鬼  作者: 参望
7話/破業の鬼・血の巻(7話完結編)
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破業の鬼・血の巻(4/11)

 緋寒は斜め縦に持った骨の槍に指を滑らせ、目を凝らす。

 「ふぅん。これは面白い。

 背骨を海老や蟹のように脱皮させたものを尻の骨から生やして、固めて槍にしたのか。

 どれ。背骨の脱皮は出来んが、同じように投げてみよう。」

 

 緋寒は槍を手玉のように頭上に投げて、取ってを繰り返す。

 相手の油断を誘う、くだけた動き。


 そこからは一瞬だった。

 片腕をスッと素早く挙げたかと思うと、その手から槍は無くなっていた。


 夜光は急いで立ち上がる。

 (槍が!どこに行った……!?

 見えなかったが、手に無いから投げたのは確か!)


 夜光は角にジーンと温まって痺れる感覚を感じる。

 彼は叫んだ。


 「カムナ、八重!出来るだけ遠くに離れろ!!

 上だ!」


 


 「上……!?」

 八重達は空を見上げる。


 遥か上空にあったのは茜色の空を覆い隠す青い炎の渦。

 嵐の海のようにうねるそれは、白金に色を変えながら渦を巻き、地上に降って来た。

 「空のお天道でも降らせやがったのか!?冗談じゃねえ!」

 いろはは八重達を背に乗せたまま、慌ててその場から駆け出した。


 よく見ると対岸にいた赤鐘達も走って移動している。


 青ざめるカムナ。

 「酒呑童子の仲間でさえ逃げ出すって事は……!」




 炎の渦は熱風を起こしながら、森を包んだ。

 岩場を砕く轟音。




 辺りが静かになった時。森の草木は焼けて真っ黒な炭と化していた。

 逃げ遅れた魑魅魍魎達も骨を残さず炭となっている。

 夜光が立っていた場所は岩が全て砕けて、地面が抉れ、地層が見えていた。隕石が落ちた後の巨大クレーターのようである。


 一番掘りの深い場所に骨の槍が一本刺さっていたが、風に吹かれて形を失いサラサラとその黒い消し炭が流れる。

 

 緋寒は特に動く事なく、髪をなびかせ腕を組んで突っ立ている。




 夜光は辛うじて生きていた。

 クレーターの外側にある森の入り口で、生き残った事を実感したかのように溶けて無くなりそうな岩を手放した。槍が落ちる時、咄嗟に手頃な岩を地面から引っぺがして盾にしたのである。

 身体に青い炎を鎧のように纏ってもいる。


 彼の背後には八重達がいた。いろはが八重、珠、カムナを庇って尾で包み込み、それを後から夜光も庇ったのである。


 「夜光、ありがとう……。

 岩が沢山飛んで来たし、貴方が盾にならなければ、いろはが怪我をしたかも知れない。

 貴方は大丈夫?」

 八重は心配そうに夜光を見る。

 「ああ。百之助の力で炎の鎧を着たから問題ない……。」

 いろははうっとおしそうに舌打ちする。

 「余計な事しやがって……。

 八重を守るのは俺だけで十分だから、テメエは自分の心配だけしやがれ。鬼術を使いまくってヘバってきてるんだろ?

 鬼に、礼は言わねえからな……。」

 目を合わせず、いつもより口調が大人しい。


 夜光や八重達は久し振りに近くで互いの目を合わせ、少し不思議な気持ちになった。

 少し前まで様々な事情から気まずくなっていたのが、戦いを通して重い感情が薄くなっているのを実感したからだ。

 この戦いを終える事。元の事情は違えど、強き赤鬼達を倒して生き残ると言う志は、今同じだった。


 カムナが口を開く。

 「しかし不味いな。童子の野郎、見よう見まねであの威力……!

  夜光、潮時だ。

 最初の人鬼と戦ったし、いろはの言う通り既に体力を消耗してるんだ。お前はしちゃ十分よくやったさ。……だから、もう撤退するんだ。」

 カムナはいつものように怒らずに静かに言った。

 

 しかし、夜光は首を振った。

 「駄目だ。アイツからだけは、逃げない……。絶対……!

 でもお前達は先に逃げてくれ……。」

 「しかし……!」


 不安そうな珠の顔が目に入り、夜光はその頭に大きな手を乗せた。

 変化した鬼の手は異形そのものだが、彼女の髪を撫でるそれはとても優しかった。

 

 珠は悲しげな兄の瞳から、懺悔の念を感じた気がした。

 珠が愛していた父を殺す。それを許して欲しい、と。

 

 「兄上!父上は、本当はね……!」


 珠は夜光の母親はきっと生きてると言おうとしたが、夜光はすぐに踵を返して駆け出して行ってしまった。


 黙って見送ったカムナが口を開く。

 「八重。俺様を置いて先に行け。

 夜光は俺様の子分だ。地獄であろうと俺様が側で残るのは当たり前よ。」


 八重は首を振った。

 「百之助様の命令よ。この戦いが終わったら夜光を連れて一緒に帰るわ。」

 「下手に邪魔すれば簡単に殺されるぞ。あの化け物親父に……。」

 「うん……それでも。これはきっと、みんなの戦いでもあるから。

 見てるしかできなくても声が届くなら……、それで助けられるかもしれない。」


 一方、いろははそっぽ向きながら答える。

 「異論は無い。

 この怪しい空間から脱出できるかも分からんし、急に沸いた妖怪達に奇襲される可能性もある。それに、赤鬼の人鬼連中も童子と夜光の邪魔に入れないようだし、それを盾に終わるまで待つ方が良さそうだ。……今はな。」


 カムナは溜息を吐いた。

 「どいつもこいつも……。

 

 ……ありがとな。八重、いろは。」

 

 


 夜光は再び父の前に立つ。

 クレーターの対岸に立ち塞がる朱色の鬼。


 「我が子は発想力・創造力に溢れているようだ。

 俺と同じく、血の持ち主の潜在能力を理解し、そこから新たに新しい技を作るのが得意なようだ。

 俺と違う点は抑制でなく、共感力によるものである事。お前に半分だけ人間の血の賜物か。」


 「例えばこの技。」


 緋寒の脇と肘の間に生えてくる黄色く薄い膜。それは冠羽が持っていた風袋のような膜に似ていた。


 (この膜はまさか……!)

 夜光は反射的に回避行動を取る。


 緋寒はその膜に空気を溜めて膨らませ、袋の口を夜光に向け、一気に吹き出す。

 吹き出した風は炎に変わった。


 (冠羽の風と一緒なら……これは軌道を……!)

 夜光は咄嗟に側にあった自分より大きな岩を持ち上げ、自らその下に下敷きになる。


 緋寒は両腕を振り上げた。

 すると直線移動する炎の壁は曲線を描きながら、天に向かって上昇し燃える竜巻となる。


 夜光は息を止めながら、岩の下で耐える。

 冠羽の竜巻の時と違い、重さのお陰で飛ばされず済んだ。


 竜巻が消えた時、夜光は岩を押し退けて這い出てきた。


 「熱は炎の鎧で相殺したか。」


 夜光は苦しそうに息を大きく吸って緋寒を睨む。

 

 「なんでお前が、冠羽と似た技を使える……?!」

 「さっき、言っただろう?お前と同じ力だ。

 俺も血を飲んで相手の能力を学べる。お前程、独創性はないがな。」

 「冠羽の血を飲んだのか……?!」

 「相手に勝って、その血肉を喰らってひたすら強くなる。そしてその種を残す。本来の鬼らしい、生き物らしい普通の生き方だ。」

 「なら手負いの冠羽をあんなに傷付けて血を飲む必要はあったのか?!」

 「傷付けた?少し様子を見て遊んでいたら壊れてしまったのだ。

 血は勝ってしまったから飲んだだけ。強き者と戦ったら本能的に糧にしたくなるものだからな。更に強くなる為に。

 

 そして、半分生かしたのはお前の為にもなるだろうと思ったからだ。」


 「お前……!俺の母親も、冠羽も……、全部自分の都合でっ!」

  夜光は目を見開いて牙を見せた。


 「おお、怒ったか?

 なら、角も手足も体も無くなるまで殺ろう……。」


 緋寒は慈しむように囁き、腕を広げる。皮膚が赤銅のように揺らめく。


 抱擁を誘う行為。

 しかし、彼は夜光を待つ事なく自ら走り出した。


  (やっぱり最初の動きは本気じゃなかった!

 遥かに速い!)

 

 考える間も無く眼前まで距離を詰められる。

 夜光は咄嗟に角に熱した。炉のように赤く輝く。


 (動きが、見えない……!

 だが、これだけ近くにいるのなら!)

 挙動が見えず、絶望的な間合い。

 夜光はそれでもと、緋寒の動きを想像し、肘に突起を生やして振りかざし、膝蹴りを入れた。


 手足をはたき落とす音だけが聞こえたと思った瞬間、夜光の体は宙に浮いた。

 

 夜光は腰に手を回され、抱き上げられていた。

 夜光は初めて至近距離で緋寒と目を合わせた。変化した父の顔は微笑んでるようにも、無常観を感じているようにも見えた。

 



 「もっと強くなって、俺のいる所まで這い上がって欲しい……。そう思ってたのだがな。

 我が子よ……。」




 無感情な声。

 そして、胸と腹が閉塞する猛烈な痛み。それと、腰骨が折れる音がした。

 

 夜光は口に何か込み上げて、吐き出す。

 (俺の、血……。)


 カムナや八重の叫び声が遠くに聞こえたような気がした。

 それも聞こえなくなった時、宙に放り出された気がした。

 そして何も見えなくなった。




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