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夜行鬼  作者: 参望
7話/破業の鬼・天の巻
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破業の鬼・天の巻(7/8)

 「百之助!」

 叫ぶ木次郎。

 手の平の黒く半透明な紡錘型の結晶を見る。石の色の濃淡で浄化の力の量を測定する器具なのだが、色は高濃度を示す半透明の明るい灰色になっていた。

 (浄化の力は天鬼が動けなくなる濃さまで上がってるっていうのに!

 流石酒呑童子の兄弟、馬鹿力で動きやがる……!)


 木次郎は瑠璃の壺を持ち、隊員に指示する。

 「おい、お前達!何とか冷神酒を近寄せて支援するぞ!」

 「はい木次郎様!」


 「おっと、部外者は見てなきゃ駄目ですよ。」

 そこへ現れる赤鐘。何の前触れも無く木の陰から現れた。

 笑みを浮かべたまま走り寄って来る。 


 「じ、人鬼!」

 怯える卜部の隊員。

 それを庇って間に入り、曼荼羅の描かれた厚みのある木札を突き出す木次郎。木次郎が特注で作った、設置のいらない魔除け札だった。


 それに弾かれるように後ろに仰け反る赤鐘。

 「うわ〜、びっくり。

 前もって貼らなくても咄嗟に結界が用意出来るなんていいですねぇ。」

 「……お前らじゃ無理だ、道具持って先に行け。」

 木次郎は先に隊員たちを行かせる。


 「いやいや、お弁当を召し上がりながら和やかに観戦してたのなら申し訳ありませんー。

 貴方達が邪魔なので、と許可が出ましてね。」

 赤い鱗模様が浮かび上がる手の平を突き出して軽く構える赤鐘。

 木次郎も朱刀を抜いた。


 しかし、赤鐘の背を何かが襲う。

 「おおっ?!」

 袖をヒラリとさせて避ける赤鐘。


 「お前!」

 木次郎は赤鐘を札や刀で牽制しながら、その何かに跳び乗って一時退避した。




 遅れて霜が張ったように元実の手足が白くなる。

 浄化の力も咄嗟の猛攻の中では発動がやや遅いという事であった。

 

 百之助は脳震盪で苦しむ中、手探りで剣を拾おうとする。

 (っく。硬い兜故、ぶつかった時の衝撃も……!)

 その手を踏み潰す元実。

 「ああああっ!」

 「私が戦力外だと踏んで、このような愚策で挑んだのか?

 思い上がりも甚だしいっ……!」

 怒りで瞳を震わせ、吐き捨てる。


 角狩達があまり情報取集出来ずにいた元実という天鬼。その戦力について、弟である緋寒は赤鐘にこう語った事があるー。


 『兄上は強い鬼だから好きだ。基礎の体型も俺より良い。

 何と言っても子供の頃、俺は兄上にいつも負けてばかりいて、それを乗り越える事だけに躍起になっていたものだ。

 歳をとった今でも兄上ならまだ俺を殺せると思うのだが、なかなか本気になってくれない。


 ……兄上が急に弱くなったのは、12の頃だっただろうか?確か母上が死んで腑抜けになった父上(関緋)が、俺達を殺そうとした時だったろうか?

 あの時から、変化出来なくなり、負け犬のように嫌味を言って怯え、激情を抑えるような存在に成り下がってしまった。』




 元実は何度も何度も百之助の胴を踏みつける。

 踏む度、地面が揺れ、百之助が深く埋まった。

 「ふん、鎧だのみでこの程度とは。硬い甲羅に篭った亀のようだな。」


 手が白くなっていくのに構わず、百之助の肩を掴んで釣り上げる。

 そして兜越しに頭を何発も殴打する。

 鬼形態に変化してないにも関わらず、その拳は鬼形態になった天鬼のものより重かった。

 鬼術が使えなくなっても、意思のみで身体を無理矢理動かしていると思われる。


 百之助は兜の中で頭を酷くぶつけ、気を失いかけていた。

 兜の角飾りが折れ、隙間から血が流れる。


 (百之助、しっかり!駄目だわ、浄化の力をもう一段階解放したけどあの鬼、止まらないわ!でもこれ以上は……!)

 鎧に宿ったオミナが、脳内に呼びかけるが反応が薄い。


 「鎧が壊せぬなら、四肢を引き千切ってやるだけだ……!」

 元実は百之助を肩で担ぎ、百之助の片方の腿と片腕をそれぞれ左右の手で掴んで引っ張る。

 「ぁあああああああっ!!」

 肉と骨が軋む音。

 関節周りの肉がじわじわと裂けていく痛みで叫ぶ百之助。


 「どうした?!関緋や緋寒を退けた浄化の力はこんなものか?!

 噂ほどにも無い!!」

 興奮して高笑いする元実。


 痛みと途切れそうな意識の中、百之助は必死で考える。

 (酒呑童子の変で緋寒と戦った時は先代の波綱様が致死量の浄化の力を解放していた……。

 やはり、それをやらねば……!

 私も、長としての務めを、命を捨ててでも……!)


 「ォ、オミナ……。

 残った力をここで全部解放し……!」


 その時、動物のいななきが響いた。

 馬の声だ。


 元実の背に叩きつけられる、2本の前足。

 白嶺であった。


 「美しい獣だが、邪魔だ……!」

 百之助を肩に担いだまま、白嶺の胴を脇に抱えて持ち上げ、肋骨ごと折ろうとする。

 痛々しい鳴き声を上げてもがく白嶺。

 

 「白嶺……!かつてのお前の主、波綱様を守れなかった上に、お前まで……!

 はっ、これは?!」

 その時、ぼやけた百之助の視界にある物が映る。

 白嶺の鞍に取付けられた矢筒に入った一本の朱矢。派手な錦の線で描かれた、魔除け札が巻かれている。


 (これは木次郎様が長い研究を重ねて開発した対・酒呑童子用の札!

 白嶺に託して下さったのか!

 しかし、これは酒呑童子戦での使用を想定して作った、たった一枚の切り札……!)

 手を伸ばすのを躊躇う。


 その時、木次郎の声が聞こえた。

 彼は獄鬼の大群を相手に、百之助に呼びかける。


 「馬鹿野郎!

 俺がそれを作ったのはお前が生き残る為だ!今使わずいつ使う!

 こんな所で命張るな、百之助ー!!」




 (そうだ……!長として、責任を持って最後まで、仲間達の指揮をせねば……!)

 百之助は必死で手を伸ばし、朱矢を手に取って元実の背中に突き刺す。


 「んぬぅっ!!!」

 痙攣で仰け反り、百之助と白嶺を落とす元実。


 地面に転がった百之助は、めまいを堪えて剣を拾い、必死に

手を伸ばして白嶺の鞍を掴む。

 百之助を振り落とさない程度に、彼を引きずって退避する白嶺。


 鞍には隊員達が縄で縛って吊り下げたと思われる瑠璃の壺もあった。

 百之助はそれを手に、冷神酒を兜の上から被る。

 「……いくぞ、オミナ、白嶺!」

 百之助は吹雪のような粒子を纏いながら白嶺に跨り、剣を高く掲げた。


 「……この、忌々しい、紙クズがあああああああっ!」

 元実は目を血走らせ、雄叫びを上げながら、壊死しかけた肩と腕を無理矢理動かして矢を抜く。

 札の力で抵抗力を失ったせいか、浄化の影響を受け、先程より身体中に広がる霜で動きが鈍くなっている。

 「……これしき、我が力で押し返してやる!」


 騎乗して向かって来る百之助。

 それを睨み、地面の亀裂から大蛇のように噴き上がる溶岩を全身に纏わせ、炉のように輝く魔神となる。


 「はああああーーっ!!」

 「ヴァァアアアアアアアアッー!」


 雷のような白い閃光を放つスサノオの剣と、火の水が滴る拳。

 

 重なった瞬間、纏った溶岩を石に変えながら、膝を着く元実。

 その身を天の光に輝かせ、軽やかに走り抜ける百之助と白嶺。




 「よっしゃーー!!よくやった頼光ー!」

 見守っていた木次郎と卜部の隊員が歓喜の声を上げる。

 反対に不安そうにどよめく鬼兵達。




 「……はぁはぁっ!俺は高貴なる血の朱天鬼!まだまだ……!」

 元実は歯を食い縛り、脇腹を押さえて荒い呼吸をしている。

 切り傷の周りは肉と血が無色半透明になり、霜が腹から胸に広がっていく。


 元実は一太刀浴びせられた怒りでなく、別の思案で瞳に影を落としていた。

 懐から一粒の 『丸薬』を取り出して口に含む。


 赤鐘に思念を飛ばす。

 (赤鐘、アレを使う……。退避せよ。)

 

 赤鐘は微笑みながら返す。

 『……後はお任せ下さい。……良い夢を』

 



 膝を着いたまま微睡み始める元実の脳裏に、ある光景が蘇る。


 『父上、お許し、を……。ち、ち、うえ……!』

 強面の天鬼に首を両手で絞められている、子供の頃の元実。

 『この先、酒呑童子の称号を継ぐ俺の子ならもっと激しく戦えるはずだ!

 どうした!?この手を振り払って、さっさと変化しろっ!

 怯えた目を見せるな!』

 相手は彼と緋寒の父親、関緋であった。

 『関緋様!それ以上は若君が死んでしまいます!』

 家老の大志摩が止めに入ろうとするが、関緋は止まらない。

 関緋の指が元実の首に食い込む。元実は怯え、泡を吹いて白目を剥き始める。

 一方、関緋は歯を剥き出しにして怒り狂いながら、どこか寂しげに瞳を震わせている。

 『この間死んだお前の母も、息子のお前も、緋寒も!

 何故、誰一人、俺が望まぬ事ばかりして!何故……、心を満たしてくれぬのだっ……!!

 俺が愛した者と、その血を分けた子供でありながらっ!』


 (あの出来事が無ければ、自分の意志で鬼に変化出来ないなどと言う事も無く、父上を殺し、酒呑童子を継いでいた。

 俺が、緋寒より先に……!)

 元実は記憶をなぞるのを止め、首にある縄で絞めたような痕に触れる。

 そして眠りに就いた。





 「百之助!早くトドメを!

 この状態が怖いのが鬼だ!」

 

 木次郎に促され、元実の側で剣を逆手持ちにする百之助。

 「……限られた時と深い業が無ければ、手を取り合う道を選びたかった。

 ……許せ。」


 刃を振り下ろすその時、開眼した瞳から漏れる黄金の閃光。

 「きさっ……!!」

 そして爆炎で吹き飛ばされる百之助。


 溶岩がせめぎ合う轟音と、立ち塞がる光の柱。

 百之助と木次郎がその中で見たもの。


 それは龍。もしくはもっと悍ましい別の何かだったー。




<おまけ・落書き 緋寒と元実の幼少期&父・関緋&母・実鈴>

挿絵(By みてみん)

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