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夜行鬼  作者: 参望
7話/破業の鬼・天の巻
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破業の鬼・天の巻(4/8)

 一方、夜光と赭が戦闘を開始する少し前ー。


 いろは達は夜光を追って森を移動していた。

 いろはの背に珠を抱いた八重、その後ろに三ツ葉が跨っている。


 夜光が通った道は、倒れた木や不自然に裂かれて傷付いた木が散乱していた。


 カムナは珠に抱き抱えられていた。不満そうに歯軋りして唸っている。

 「夜光の奴……、逆上せやがって……!

 今頃は後先考えない無茶苦茶な戦い方してるに違いねえ。

 ……あのバカは戦いに集中しすぎて周りが見えなくなる所がある……!全体図を見ながら考える役がいてやらにゃ……。」

 

 「でも、夜光はいろんな人の血を飲んでいろんな力を手に入れてきたわ。新たに百之助様や冠羽おじ様の血も飲んだし……。」

 落ち着かせようとする八重。


 黙って周りを警戒していた三ツ葉が呟く。

 「それでも、いや、それだけじゃ足りない……。

 特に今の代の酒呑童子には……。

 カムナの言う通りそれなりの戦略も必要だろう。」

 『酒呑童子』の名を口にする時だけ、彼の声が震え、口角が上がったように見えた。


 「何だ、三ツ葉?おめえ、あの化け物に会った事でもあんのか?

 俺様だって、会った事ねえぞ。……そもそも会ったら命ねえし。」

 「……いや?

 卜部隊がまとめた資料を読んでそう思っただけだ。

 『旧・大江山の鬼退治』や『酒呑童子の変』とかは角狩に入隊すると歴史上の主要な鬼は大体座学で習うだろ?なあ、八重。」

 「え?ええ。」

 急に話を振られて不思議そうな八重。


 八重達が酒呑童子について話しているのを黙って聞いている珠。

 (やっぱ兄上と父上、戦っちゃうのかな……。

 でも、いくら父上でも殺すまではしないはず!

 だって、父上は兄上の事が好きだって言ってたもの。……だからきっと。)



 急にいろはが叫んだ。

 「おい!この先に鬼が待ち伏せしてやがる!

 さっきの無愛想な女人鬼とデカくて薄汚え男鬼、2匹だ!」


 三ツ葉は一瞬考えた後、声を上げた。

 「やられた……!

 夜光の方に全員向かったと見せかけて俺達をおびき寄せ、一気に叩いて姫を奪う罠か……!」


 「先に一人来た!……なんて速さだ!」

 いろはは離れるように斜め横に進路を変えて走る。


 進行方向の先。

 木の枝の上を俊敏に動く、一本角の女鬼。

 東雲だった。


 枝と枝を跳んで渡りながら、青い炎に身を包んで鬼形態に変化する。

 淡い朱色と白金色の硬化した皮膚に、鋭利な鱗や水掻き、トカゲのような尻尾がある姿だった。

 女の鬼といえども体全体は筋肉質で、その腿は丸太のようにがっしりとしていた。

 東雲は四つん這いで木の側面や枝の下に張り付き、素早く動き回る。ヤモリのようにしっかりと張り付いていて重力を感じさせない。


 三ツ葉は腕の携帯用の風車を確認する。

 (異常な回転速度……。元実の人鬼だけあって天鬼相当の妖力か。

 それにこの俊敏さ……。

 守りながら戦える相手じゃない……!八重を側に置いておけば混戦してる隙に瞬殺されて姫を奪われる……!)


 三ツ葉は弩の矢を装填し、いろはの上から飛び降りる体勢になる。

 「三ツ葉様、何を?!」

 「八重、いろは!姫を守って先に行け!

 待ち構えているもう1匹との戦闘は避けて、夜光のいる所まで直進しろ!」

 「でも相手は人鬼よりも上です、いくら精鋭の三ツ葉様でも……!」

 心配そうな八重。

 「お前といろはでは、何かをする前にやられる……!」

 時間が無い!」

 迷う八重の代わりにいろはが答える。

 「三ツ葉殿、了解した。

 八重!」

  八重は申し訳なさそうに頭を下げる。

「……三ツ葉様、どうか御武運を!」




 木が軋んで、葉が騒めく音。

 そうこうしている内に、東雲が木の幹を蹴って弾丸のように跳んで来る。


 挑むように三ツ葉も地面に跳び降りる。


 着地した三ツ葉に向けられる掌底。

 魔除け用の手鏡を取り出す三ツ葉。


 「あぁ……ぅん。めぇ……、まぶし……。」

 目に入った反射光に怯み、怠そうに両手を覆う東雲。

 

 弩を構え、すかさず射る三ツ葉。


 東雲は両手で顔を覆ったまま、足を鞭のように素早くしならせて矢をはたき落す。カマキリの鎌のように速く、ほぼ動作が見えなかった。


 三ツ葉は一旦木の陰に隠れる。

 「!!」

 が、そこから咄嗟に横飛びする。


 粉々になる大木。太い幹から太い枝がへし折れたかと思うと、粉々の木片になって飛び散る。


 振り返った先ー。足を大きく開脚して弧を描き、飛び回し蹴りを放っている東雲が視界に入る。


 「ぅんっ、外れた……。」


 脚力だけで幹を蹴って素早く切り返したのだ。

 赤鬼の中でも俊足の彼女の脚力なら、垂直な木の壁を蹴ってその反動で移動するなど造作も無い事だ。

 そしてここは森で、木はいくらでもある。


 (まずい!)

 振り返りながら走る三ツ葉。


 上空から踵を振り上げて落下してくる東雲が見えた。

 三ツ葉よりふた回りも大きい影が迫る。


 (大木をへし折って粉々にする脚力!

 あの一蹴りで確実に死ぬ!)

 

 三ツ葉は先端に丸い物が付いた矢を装填して射る。


 カンッと東雲の皮膚で跳ね返される音。

 同時に矢先の丸い部分が割れ、白い煙幕が包み込む。


 「また目くらまし……。しかも魚臭い……。」

 怠そうに言いながら、構わず踵を振り下ろす東雲。

 踵から炎が龍の尾のように伸びて弧を描く。

 熱風で掻き消される白煙。


 前転で間一髪回避する三ツ葉。

 東雲の視覚と嗅覚を塞がなければ、もろに当てられていただろう。

 

 しかし、安堵していられなかった。

 振り下ろしの熱風に当たった瞬間、彼の体は服ごと引き裂かれる。

 横腹や手足のあちこちにパックリと無数の切り傷が現れ、血が一斉に噴き出す。ジュウッと傷口が焼ける音がし、血は水蒸気になった。


 「ぐ、ぁっ!!!」

 (風圧だけで、当たっていない場所までっ!

 鬼術も混ぜてるのか!)


 引火した服の火を消しながら走る三ツ葉。背後に迫る東雲。

 膝蹴りが飛んで来る。

 辛うじて側転で回避する三ツ葉。

 

 しかし、東雲はその方向へ身体を向けていた。

 両手を地面について勢いよく空中前転。炎の弧を描いて回る身体。

 坂を下る火の車のような踵落とし。しかも両足同時だった。


 (避けないと死ぬ!)

 三ツ葉は側転の方向を変えて回避しようとする。


 避けきれず、踵が脇腹を僅かに掠る。

 

 腹を抉るような衝撃が響く。

 咆哮して倒れる三ツ葉。

 「ぅああああっっっ!!!」

 深く殴られた後のように胃液を吐いて悶える。


 「おかしい。今ので肋骨が折れたはずなのに。

 人間の癖に、しぶとい……。

 まるで忍だった昔の私みたい。いや、それ以下か。

 お前も、もっとしぶとくて、痛みに強くて、気持ちを全部殺せれば、私みたいに元実様に鬼にして貰えたのに。


 まあ、どうでもいい。死ね。」


 東雲は淡々と無感情に語った後、地面に這いずり回る虫を見るように三ツ葉を見下ろす。

 仰向けで荒い呼吸をしてる三ツ葉。

 東雲は踏み殺そうと片足を上げた。


 長い前髪の下。

 一瞬だけ輝きを放った眼光。

 怪しい笑みの後、三ツ葉は手を忍ばせていた懐から何かを取り出す。


 布が見えたと思った瞬間、彼の姿は消えてしまった。


 「また小細工……!」

 まだ近くにいると冷静に考えて、音と勘を頼りに狙いを定める東雲。


 しかし、三ツ葉が背中側へ回り、魔除け札を貼り付ける方が一僅かに速かった。

 札は鳳凰札だ。


 痙攣して、動きを止める東雲。

 「んぅっぅっ、っぁっぁっぁーー!」


 「残念だったな……!人間だからしぶといんだよっ!」


 彼は鬼から身を隠せる粉、『鬼隠れ』が塗られた布を纏ったのだった。

 隠密任務で待ち伏せや長期の偵察をする際に使われる、大布の型式である。


 三ツ葉の姿は見えぬまま直刀二本が現れる。後ろから逆手持ちで東雲の前首に突き刺す。

 ビキビキと刃こぼれの音がする。

 突き立ててガンガンと叩いてみても、刃はなかなか通らない。


 (首の関節部分なのに、なんて硬さだ!)


 「効ク……ト、思ッタ、カ……?」

 首を無理矢理に後ろに回し、眼前で目を見開く東雲。

 そして、殺意で細くなった瞳孔。口を開け、牙を見せて笑った。


 東雲は両腕を動かし、三ツ葉を掴もうとする。


 「鳳凰札でまだ動きやがるか、クソ野郎……!」

 鬼の握力に捕まっては最後、骨をへし折られる。


 三ツ葉は一旦その場から離れ、離脱した。


 東雲はブルブルと震えながら背中に手を伸ばし、札を剥がして破り捨てる。

 

 そして、札の拘束を無理矢理解いて興奮状態になったのか、自分の身を抱き、甲高い声で笑い出す。

 「元実様が苦痛を『喜べ』と命令するなら、この痛みも極上の快楽……。ぅふふふっ、ヴフッ!キャハハハハハッ!!!」




 三ツ葉は少し離れた場所にある木の後ろに隠れている。

 (もう動き出したか……!

 この人鬼相手で、鬼隠れがどこまで通用するか……。)


 三ツ葉は口の中の血を吐き捨て、歯を剥き出しにして笑みを浮かべる。

 そして大布を被ったまま茂みに伏せ、弩を構えた。

 

 (こんな所で、死んでたまるかよ……!)




<おまけ 東雲・人間形態&鬼形態デザインラフ>

挿絵(By みてみん)

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