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夜行鬼  作者: 参望
特別編/酒呑童子の変
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酒呑童子の変(5/6)

 瞬きの後、目の前にいたのは朱色に輝く立派な鬼だった。

 先程は人に近い姿をしていたのに対し、今度は禍々しく妖美な化け物の姿になっていた。

 体は熊より大きく、幹の様な硬い皮膚に覆われた筋肉は人間の武芸者よりも力強く、銅より鮮やかで、そして強い光沢がある。

 炉のような輝機を放つ朱色の髪は獅子の鬣のように猛々しく、瞳は虎目石のような幻想的な輝きを放ち、二本の立派な角は太刀のように長く、太さがあった。


 鋭い五爪の手で、剣を掴んで止める。

 剣に触れた箇所は朱色から白色に薄く変わる。


 波綱はすぐさま、後ろに飛んで間合いを取った。

 「変化したか、酒呑童子……!」


 「こいつ、なるべく人型でいる事で変化する体力を温存してたのか!それでいて、結界を押し退けていたとは……!」

 木次郎は受け身をとって立て直し、腰の朱刀を抜く。


 「まさしく体力馬鹿ってかい……!でもなその馬鹿さはアタシには負けるぜ!

 

 日吉丸!大将を頼んだ……!」

 金平は鉞を空の彼方へぶん投げる。風の唸る音。


 「金平っ……!無茶するなっ!」

 日吉丸は木次郎と波綱の間に移動して盾になろうとするが、彼女の方を振り返った。

 

 雄叫びを上げて緋寒に突っ込む金平。

 (まだ、宮比の極楽琴が効いてる内ならっ……!)


 波綱の後方にいる宮比は、頷いて板を先程より強く引っ掻く。

 脳をかき混ぜるような高音。


 金平はガッチリとした太い腕を緋寒の首に掛け、巨体の遠心力で重さを乗せ、緋寒を仰向けに叩き付ける。

 変化した緋寒の巨体なら、自重のせいで地面に叩き付けられた時の衝撃も大きいはずだ。

 

 緋寒の腹部目掛けて落下する鉞。

 「ヨ、リミツゥ……!」

 緋寒はそれを受け止める。

 

 「手も塞がった!いけ、大将っ!」


 金平が声掛けするよりも前に波綱は走り出していた。

 (すまん、金平……!)


 「……でかしたっ!」

 三成は屋根の上から援護射撃の構えを取る。

  

 波綱は再び剣を振り上げる。


 「ヨリミツッゥ!!」

 吠える緋寒。

 

 緋寒は金平の肩に噛み付き、彼女の巨体を顎の力だけで放り投げる。

 「ぁっ!」


 金平は肩・首の肉片と血飛沫を撒き散らしながら宙を舞う。彼女の首の骨は顎の力で折られていた。

 

 緋寒はそのまま波綱に手を伸ばす。

 

 「!!」

 波綱は横一文字に剣を構えて防御する。

 その波綱を片手で突き飛ばす緋寒。


 砂を撒き散らしながら門に激突。




 「無事か波綱っー!!

 クソっ、見えんっ!」

 三成は砂煙の中の波綱を見つけようと矢先を向ける。

 そこへ煙を切りながら回転して飛んでくる何か。

 「っ!!」

 金平の鉞。緋寒が投げたのだった。


 三成は首を刈られ、絶命した。




 一方、煙の中。

 砂煙を切り裂きながら血飛沫が飛ぶ。


 緋寒に腕を貫通させられた日吉丸。


 後方には波綱、宮比、木次郎が血まみれで倒れていた。

 倒壊した門に吹き飛ばされ、頭や体をぶつけたらしい。


 「逃げろ……宮比。」

 日吉丸はそれを最後に、無造作に地へ捨てられた。


 「日吉丸様!」

 宮比は急いで極楽琴を引っ掻こうとする。

 しかし、緋寒の方が速かった。

 極楽琴を掌底で粉々に割り、彼女の首根っこを掴んで片目に噛み付く。 

 悍ましい悲鳴を上げる宮比。

 緋寒は片目を抑えて悶絶する宮比を投げ捨て、口に入った血を地面に吐き捨てる。

 

 波綱は脳震盪から意識を取り戻し、どうにか立ち上がる。

 「お前たち……!」


 緋寒は両手で波綱の首を掴んで釣り上げる。同時に朱色の手がクシナダの鎧の影響で白く薄くなる。

 「お前なら、周りに『雑魚』なんて従えなくても一人で俺をやれるだろ?」


 「……酒呑童子!」

 仲間を侮辱され、淡々とした口調が崩れ、怒りで声が震える波綱。


 「隠岐……!」

 木次郎は朦朧とした意識の中、袖下から笛を取り出して吹いた。


 馬のいななき。

 門内から白馬が駆けて来て、緋寒に前蹴りを喰らわせた。


 「行くぞ、白嶺(はくれい) !」

 緋寒が手を離したその隙に、波綱は白馬へ騎乗する。




***




 ピーッ!



 内裏の入り口から中程。儀式などに使われる広い正殿。

 中で近衛兵達と待機していた百之助。笛の音に耳を済ます。


 「これは……、木次郎様が言っていた笛の音だ!

 これを聞いたら私は奥の殿へ移動する手筈……。」

 (そんな……角狩の綱の弩隊、貞光の奇襲部隊、金時の鉞隊、卜部の五行防壁部隊……。それら全て一人で破って、四天王様達にまで?!)


 悪夢のような光景を想像して頭がどうにかなる前に、百之助は急いで、周りの近衛兵に呼び掛ける。

 「皆さん!奴が来ます!出来るだけ下がって……。」


 そう言った瞬間、入り口の方から大木が折れる音がした。


 「酒呑童子だっー!!!」


 近衛兵の悲鳴。

 百之助は酒呑童子の姿から逃げるように、殿の奥へ走り出した。




***




 白馬に乗り、変化した鬼の歯牙を防ぎながら駆ける者がいる。

 艶めく朱色の身体で突きや回し蹴りを放つ緋寒。

 動く度、沖の暴風のような風が起こって、木造の柱や梁が粉々になり、周りの近衛兵が巻き込まれる。魔除けの掛け鎧も効かず、血飛沫があちこちで上がる。また、こちらに配置された角狩衆の精鋭ですら、赤子のように遊ばれた。


 白馬は爪の斬撃や突き・蹴りの衝撃波を、谷の鹿の如く軽やかにかわしながら、主人を守る。

 波綱はその白馬と呼吸を合わせながら、騎乗から鍔迫り合いを挑む。


 交差して火花を散らす、スサノオの剣と緋寒の腕。

 鬼らしい緋寒の剛腕を、剣が浄化の力を放って弱らせる。

 拮抗する、白銀に輝く鎧人と赤銅に輝く化け物。

 



 正殿より更に奥。帝の住居にあたる場所。


 将軍の前で百之助が跪いている。

 後ろには重臣や帝の側近らしき者が控えている。

 そして一番後ろには、小柄な10代の少年がいた。

 冕冠(玉すだれの飾りがついた冠)を被り、裾の長い黄櫨染(こうろぜん 淡く赤みがかった茶色。)の直衣を纏っている。

 帝と思われる。


 「何、頼光四天王も?!

 こうしてはおれん!もっと奥に、奥方様のいる後宮に撤……。」


 そう言いかけたのも束の間。

 入り口の簾が吹き飛び、柱がえぐれる。

 一同は奥に固まる。

 百之助は朱刀を抜いて将軍達を背に構えた。激しい動悸と喉の渇きが彼を襲う。


 同時に倒れ込んでくる氷の鎧人。側にあった瑠璃の壺が割れる。

 そして同じく投げ飛ばされる血塗れの白馬。白馬の方は虫の息で立てそうに無い。


 百之助の爪先に兜が転がってぶつかる。

 波綱は仰向けに倒れていた。頭と口から血を流している。


 「波綱様!」


 破れた簾の奥から、青い火の粉を振りまきながら歩み寄る朱色の鬼が見えた。


 波綱は剣を地面に突いて、震える手足で立ち上がった。


 波綱は側にあった瑠璃の壺に手を掛ける。

 それは『冷神酒』の入った壺だった。


 (駄目だ!むき出しの顔にかけたら皮膚が溶けてしまう!兜を!)

  波綱の外れた兜を拾って渡しに行こうとする百之助。


 しかし、波綱は振り返って叫ぶ。

 「帝から離れるな!!!」

 数刻前まで病人のように穏やかだった顔は、鬼の形相となっていた。


 百之助は木次郎の合図で既に悟ってはいた。そして、その表情で全て確信した。

 

 (波綱様はアイツと、刺し違えるおつもりだ!)


 波綱は頭から壺の中の液体をかぶる。

 髪や鎧に液が流れて染み込み、辺りを漂う粒子が煌めきを増す。

 元々白くなってた髪は透明に透き通り、唇も赤紫から灰色に、目も雪のような完全な白になる。

 そして、雫が流れた跡から皮膚が剥がれ落ちていき、赤から透明になった肉が剥き出しになる。

 

 殿の階段を軋ませながら上がる緋寒。

 虎目のような眼光を放つ瞳を、嬉しそうに細める。


 波綱は化け物の眼光から目を反らす事なく、剣を上段の火の構えにする。


 震えて高笑いする緋寒。

「人間が鬼に対峙する時、人も鬼に変わる。

 勝つために手段を選ばず、倫理や他人と己の命を捨て、外道や修羅に成り代わる……!

 良い……。その顔が堪らなく好きだ!!」


 波綱が念じると、彼の背後で体の透けた少女が袖を水鳥のように広げた。

 (クシナダの鎧に憑依した我妻、オミナ。

 今が時だ。

 抑えていた全ての力を、解放せよ!)


 辺りは眩く光る濃い浄化の霧に包まれた。




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