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夜行鬼  作者: 参望
特別編/酒呑童子の変
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酒呑童子の変(3/6)

 緋寒が都に侵入したその半日前の事。


 数ヶ月前、緋寒は夜光の誕生を見届けた後、朱天鬼の一族から逃亡していたが、自ら追い掛けて来た元実に結局元に連れ戻される。

 その後、夜光を始末させない条件の一つとして『都の帝と将軍の首』を要求されたのだった。


 大江曽城を出発する前、元実は緋寒を私室に呼ぶ。

 

 「ふん。他者どころか肉親にも媚びぬお前が、自分の子の為に何かをするとはな。

 それも人間などの血が混じった歪な子供などに……。」

 元実は憎悪の目を向けながら、片方の短い角をさする。包帯が巻かれたそれは異様に短い。数ヶ月前の兄弟喧嘩で折られた角だ。


 「機嫌が悪いな兄上。

 角は俺に折られたが、最終的に勝ったじゃないか。あのまま、赤鐘が仲裁をしなかったらの話だが。」

 

 元実の態度を気にする事なく、緋寒は逆立ちしていた。

 筋肉のせいで重さがある体を、指一本で支え、立て伏せをしている。


 「それより、楽しみだ。

 父上(関緋)を退けた、『頼光』がいるのだろう?」

 緋寒は相変わらず、不敵な笑みを崩さない。


 「ああ。今の時代の『頼光』だ。

 ただの人間だが、小賢しい呪具を使っている。

 纏うだけで我々の存在を最も強く否定する『浄化』の力を発する鎧のようだ。

 無策では父上の二の舞になるだけだ、精々その飾りの頭で必死に考える事だ。」




***



 緋寒は大通りを歩きながら、元実から聞かされた言葉を思い返す。


 彼が通る度、道の両端にある篝火が煙を巻きながらフッと消え失せる。

 進む先は明るくとも、通った道は灯りを失って暗闇だった。


 (俺さえも消しかねない力。

 その力が、俺を否定するものが強ければ強いほど、狂おしく、愛しい。)


 緋寒は自分の胸に爪を立てて握りしめる。

 目を見開き、剥き出しの瞳を震わせ、声を抑えて笑う。


「愛しい我が子よ。

 正直、今の俺は最愛のお前がどうでも良くなってしまう程昂ぶっている……。

 楽しみでしょうがないのだ。

 鬼の歴史の中で絶対無敗の人間、『頼光』と殺し合えるのが……。」




***




 都の中央から少し北側。

 頼光四天王が配置されている門前。

 

 早馬に乗った伝令が興奮したような様子で、波綱達の前に跪いている。

 伝令は南門で起こったありのままの出来事を伝達する。

 

 「半分の兵を失い、入り口の結界さえも……。

 経を唱えて結界の動力になってた坊主の何人かが、奴が結界を押し通った際にその神通力に押し負けて失神したって聞いて察しはついていたが……。」

 木次郎は指を折り、俯いて集中しながら、状況の整理をする。


 波綱達は険しい顔のまま黙っている。


 「篝火、術返しの鏡、どれも効果今一つ。朱刀・朱矢の効果は分からず……。

 どれも効かなくは無いが、無効化されたって所か。直感的にこちらの道具の仕組みを理解して尚且つ、それに合った対応もして前進あるのみ……。」

 波綱は頷く。

 「ああ。火のように攻めるが、分からない物には深入りせず引き際を心得てた関緋より厄介だ。」


 波綱と四天王達は暫く小声で何か話合った後、駆けて各々の配置に着く。


 百之助は張り詰めた空気に不安になりながらも、次の指示を待つ。

 

 「百之助。」

 波綱が呼ぶ。

 「はい!」

 「打ち合わせ通り、時が来たらお前は将軍と帝のお側に付いて二人を守れ。

 それから、『冷神酒』は帝のおられる殿に運ばせてある。確認をしておけ。」

 「はい!」 


 (『冷神酒』を帝達のお側に?使う機会があるとすれば最前線となるこの場所の筈……。

 そんな内部と言われたら、まるで、そこまで……!)

 百之助は更なる不安を感じながら返事した。


 


***




獅子の鬣のような髪をなびかせ、大通りを駆ける男の鬼。

緋寒だ。


 ある区間に差し掛かった直後、彼の体は何かにぶつかったように反発する。

 雷鳴のような音が鳴り響き、閃光が走る。入り口の羅城門にあった結界と同じ反応。


 しかし、今度は押し通るのに時間がかからなかった。

 額の2本の角をかざして、見えない壁に突き刺す。角は高熱で炉のように紅く輝いていた。

 その熱が、結界の緋寒を拒む力と結び付き、火花を激しく散らして爆発する。


 緋寒は止まらない。

 黒煙を振り切って帯を引かせながら、ひた走る。

 再び新たな結界を前にしようとも、同じ体当たりで突破する。


 彼は、その後も将棋倒しの将棋の駒のように立ち並ぶ何枚もの結界を襖を破るような軽快さで押し通って行った。


 途中、角狩衆の弩隊が横陣を敷いて前方から射撃。

 しかし、彼は止まらない。


 回し蹴りや、髪で叩き落とす。

 弓より強い弩の朱矢も、考え込まれた隊列による朱刀の斬撃も、彼はその身に何も触れさせなかった。


 彼に触れる事が出来るのは、彼が自ずから触れて来た時のみ。

 そしてその時は、人間達が肉塊に変わる時だった。

 爪を尖らせて突き、手刀で裂き、時に頭を握り潰す。


 多量の血が弾け飛ぶ空間。

 しかし、土砂降りのように降りかかる鮮血さえも、彼を捕えて汚す事が出来なかった。




 何枚もの結界を押し通り、何人殺したか分からなくなった頃。

 緋寒はようやく止まった。

 内裏前の門。それを楽しそうに見上げる。

  

 門の屋根には5人の人影があった。




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