破業の鬼・翔の巻(7/7)
夜光達は百之助達の待機している場所まで戻る。
「戻って来たか。
時間をやった価値は、……あったようだな。」
百之助の視線の先。
精悍な顔付きの夜光の姿があった。
「……待たせた。もう休まず行こう。」
百之助は立ち上がって合図する。
「では出発だ。」
移動する中、夜光は頭の中に流れ込む冠羽の記憶に想いを巡らせる。
嵐が過ぎ去った森の中。
群青色の鬼の肩に飛び乗ってはしゃぐ空色の鬼。
冠羽と蒼はそのまま人間態の姿に戻る。
『やったぞ蒼!あの酒呑童子を追い返して村を守ったんだ!
二人でな!』
『……ああ。みたいだな。
冠羽、お前が囮にならなければ勝てなかった。
ありがとう……。』
『何だよ赤くなって、照れくさいのかー?
まるで隣に越して来た巫女の与紫乃と話してる時の顔だな!』
『な、何で与紫乃の話が出るんだ!
ったく、お前に感謝しようって思った俺が馬鹿だった!』
景色が消え、暗闇の中で悲しげな冠羽の声が響く。
(本当に、お前がいなきゃ駄目だな儂は……。
一瞬だけ夜光じゃなくお前に血を託せたらと思ったがよ、やっぱり親友であっても最後に同調なんてらしくねえ。
儂達は強さを高め合い、常に向き合ってなきゃならん。
そうだよな……。雷神。
だからよ、最後にもう一度だけお前と戦って、今度こそ勝ちたかったぜ。……蒼。)
***
「よ、う、こう様……。お許しを……。」
森の中。
上下する視界の中で目を覚ます赭。
何者かが彼の体を肩に背負って移動している。
忍装束で男装した女の人鬼・東雲だった。
血の主人は元実であり、酒呑童子・緋寒の監視役でもある。
見た目はすらっとした体型の若い娘だが、赭の大柄な体をいとも簡単に担いでいる。しかもそのまま、木の上を跳んだり走ったりをしている。
「目が覚めたか、赭。」
落ち着いていながら色のある声。
「東雲……、何故俺を?」
「ご命令だ。元実様と赤鐘からの。
動けるぐらいには傷も回復したなら、元実様の方に向かって貰う。」
東雲は進行方向を見たまま淡々と話す。
「分かった。……無様な負け方をしたからには、足一本になってでも戦おう。
地面に下ろしてくれ。」
「私が担いで走った方が早い。
お前の鈍足のせいで、部下に遅刻者がいると元実様に恥をかかせたくない。」
その時、東雲達の前方から乾いた笑い声が聞こえた。
「ははっ。お前は本当に兄上が好きだな。東雲。
本当にお前と赤鐘は、弟の俺より可愛がられていている。」
中性的な顔立ちに、朱色の鬣のような髪と、黄金の隻眼。
酒呑童子・緋寒だ。
東雲に負けず、暴風のように先頭を移動している。
「黙れ囚人。
私は、お前が一番厄介だ。
先程のように勝手に青鬼と戦って寄り道した挙句、止めを刺さずに捨て置いたりと、手の掛かる事ばかりする。」
東雲は硬い表情を少しだけ歪める。
赭は怠そうな顔から目が覚めたようになる。
「そうだ!あの風神の青鬼!
緋寒様が手を下されたと言ったか?」
「ああ。殺さなかったようだがあの致命傷では、放っておいてもじきに死ぬだろう。
しかし、緋寒。何故生かした?」
緋寒は虚無を集めたような冷ややかな目を細め、物欲しそうに微笑みを向ける。
「あの青鬼は我が子を知っているようだった。
ならば、あのままにした方が戦いが面白くなるだろうと踏んだのだ。」
(そうだ……。
どうせ詰まねばならぬ若芽なら、激しく、狂おしい方が良い……。)
緋寒は木の上で立ち止まり、南の方角を見据える。
射るように放った視線と、その覇気で森の鳥達が一斉に飛び立つ。
(我が子よ……、俺はここだ。
早く、殺しに来い……!)
(破業の鬼・翔の巻/完)
『蒼』
・青鬼の天鬼。
八重の父親。妻は旅の巫女だった人間の与紫乃。
鬼形態の体色は群青色で、雷を用いた術と拳による強力かつ素早い連続打撃が得意。その強さは酒呑童子の緋寒が認める程。
冠羽が阿陀護村に来る前の幼い頃から、隣村の洞窟で一人で暮らしていた。
幼い頃に人間に迫害を受けた経験がある。
ある事情から、八重が生まれてからは妻子の前から姿を消し、陰から見守るようになる。
基本的に無愛想で、素直になれない性格。友人であれ、恋人であれ一度心を許した相手には一途。自己評価が低いせいか、相手に幸せを与えようと自己犠牲になりがち。
<おまけ>冠羽、蒼・風神雷神図




