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夜行鬼  作者: 参望
7話/破業の鬼・翔の巻
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破業の鬼・翔の巻(5/7)

 時は冠羽が赭に打ち勝って数刻後の事。


 霧に隠された、冠羽が守護する阿陀護村。

 村の広間は人一人おらず、話し声すら聞こえなかった。

 

 村人達は冠羽の言い付け通り、皆農作業を止めて家に篭って戸締りしていた。

 冠羽を慕う幼い少女・雛菊も両親や兄弟と一緒に家の中で静かにしていた。


 「冠羽……、遅いな。

 いつもは悪い鬼や山賊がやって来ても、すぐ倒して帰って来るのに……。」


 すると、家の外から足音がした。


 「きっと冠羽だ!」

 雛菊は扉のかんぬきを抜こうするが、それを彼女の母親が止める。

 「待ちなさい雛菊!まだ鬼神様の合言葉を聞いてないわ……!」

 すると、雛菊の父親が小声で二人をたしめる。

 「……静かに!外からまだ何か聞こえる。

 それも複す……。」


 木の戸を突き破る丸太。

 雛菊を庇って伏せる母親。

 

 扉の反対側の壁からも丸太が突出する。

 背中を突かれて吹き飛ばされる父親。

 「お父さん!!」


 丸太は縦に横に暴れ、木造の家屋を障子紙のように突いて破って破壊の限りを尽くす。

 支柱までも折れ、家屋は遂に倒壊した。

 

 


 雛菊は自分を抱く母親の腕の隙間から外を垣間見る。

 太い足と、その指についた鋭い爪。それがいくつも迫るのが見えた。

 

 「よおし、これだけ壊せば魔除け札も意味ないだろう!!

 宴だ!楽しむぞぉ〜!」


 それは無数の獄鬼や餓鬼だった。

 雛菊の目に入った数だけでも10匹はいる。

 家屋を力付くで破壊したのは彼らだった。


 村の家屋のあちこちから悲鳴が聞こえた。


 雛菊は父親や弟がいた方を見る。

 父親は口と腹から血を流して死んでいた。下腹から鳩尾程の幅がある大きな木片が貫通していた。

 弟は崩れて来た屋根の下敷きになって意識がなかった。

 餓鬼が四つん這いで駆けて来て、その小さな手を引っ張り出して頭からバリバリと齧り出す。

 

 叫ぶ事も出来ず放心状態の雛菊。

 「早くっ!逃げなさいっっっ!」

 母親が彼女を立たせて押す。


 母親は獄鬼に押し倒され、顔を舐められる。

 獄鬼は不気味な息遣いで囁く。

 「お前のような顔のいい奴は餓鬼の素材行きだ!

 食べないで可愛がってやるから感謝しろよ?」


 「やめてっ!……お母さん!」

 巨体に抑え込まれ、必死に叫んで抵抗している母親。それを見て恐怖から雛菊は泣きそうになる。足は震えて動かない。


 「雛菊!行きなさいっっっ!!!!」

 雛菊の母は声を枯らして叫ぶ。彼女自身も母として恐怖と戦っていた。


 ギュッと目を瞑って走り出す雛菊。

 しかし、別の獄鬼がその襟首を掴んで持ち上げる。

 「おーい、こいつも餓鬼の素材だ!まだチビだが、その女の子供ならいい塩梅になるだろう。」

 

 彼女の目に、止めてと涙を振り撒いて悲鳴をあげる母親が見えた。

 吊されたまま、雛菊も両手を伸ばすが母親から遠去かるだけだった。

 雛菊は目の前が真っ白になった。

 

 村の中は阿鼻叫喚の状態に陥っていた。

 悍ましい断末魔と、獣の咆哮が響く。

 

 農具を手に戦おうとするが、巨体に叩かれて頭を割られ、腹を爪で突かれて倒れゆく男達。

 無数の餓鬼によって四肢を食い千切られる者。

 苦痛の中で生きたまま丸齧りされる者。

 身体を弄られた後、逃げられないように手足の骨を折られる若い娘。

 子供を返せと嘆願する親と、その子供を同時に食う獄鬼。




 村の境ではあの濃い霧が消えていた。

 

 村の方へ這って移動する者がいる。

 角を折られ、片足、片手を千切られ、わき腹には穴が空き、その身を血で真っ赤に染めた空色の鬼。

 冠羽の姿だ。

 風袋のような膜も付け根の部分から完全に千切られていた。


 「……お前ら!に、げろ……!

 逃げてくれぇっ……!」

 心身の痛みで声を絞り出しながら、いう事を効かない四肢を無理矢理動かして進む。

 来た道には血の跡が残っていた。

 赭と戦った草原から這って来たのだった。


 そこへ大きな桶を運ぶ獄鬼が通りかかる。

 中からは子供の泣き声が聞こえた。


 「うるさいぞ!大人しくしてろ!

 ……良かったなーお前ら。愛玩用の餓鬼になれば天鬼様達に犬のように可愛がって貰えるぞー。」

 獄鬼は桶に手を突っ込んで子供の髪を掴んで釣り上げる。虚ろな目の少女。雛菊だった。


 「……ひ、雛菊っーーー!!」

 冠羽は手を伸ばす。片方だけ残った黄金の瞳を悲壮の色に染めて顔を歪める。

 「冠羽……?」

 雛菊は冠羽の姿を見て正気に戻ると同時に、彼の痛ましい姿を見て絶句する。

 

 獄鬼は冠羽の存在に気が付く。

 「ん?

 ああ、お前がここの青鬼か。赭様をやってくれたそうじゃねえか!」

 

 獄鬼は冠羽を踏みつける。

 「……っぁ!!」

 痛みを限界まで感じさせられた状態で更に痛みを与えられるかのような、悲痛な呻き声。

 巨体の体重で冠羽の脇腹と口から血が流れ出す。


 「ほれほれ、死ぬまで吐け吐け!

 賢者だか孤高の青鬼だか知らんがこうなりゃ形無しだなぁ!グォッハッハグォア!」

 

 「冠羽っーーー!!止めて、もう止めてよ……!」

 見ていられず、雛菊は泣き叫んだ。


 また踏み付けて来る獄鬼。

 しかし今度は受け止めた。

 地面に伏せた状態で、片手で獄鬼の足裏を徐々に押し上げる。力を入れる度、やはり脇腹の風穴から血が流れた。

 牙に血を滴らせながら歯を食いしばる。

 

 痛みを掻き消すように響かせる咆哮。

 「ォォゥオアアアアアッッ……!!!」

 爪を立てながら手に力を込め、足の指の骨ごと握り潰す。 


 「何ぃ!?ぎゃっ!」

 土踏まずから爪先を千切り取られ、均衡を崩して尻を打つ獄鬼。

 桶が落ちて、子供達が投げ出される。


 「し、死に損ないっ!」

 獄鬼は冠羽に覆いかぶさるように上から突きを放つ。

 

 「冠羽っ!」

 雛菊は顔を覆った。


 しかし目を開くと、血を吐いていたのは獄鬼の方だった。

 獄鬼の突きを片手でいなして、もう片方の肘から先の無い腕で心の腑を貫いたのだ。

 その腕は骨が剥き出しで折れて尖っていた。


 獄鬼は激しい痙攣の後、大量の血を背と口から流しながら事切れた。


 雛菊は直ぐに冠羽に駆け寄る。

 冠羽は事切れたように再び地面に倒れた。


 「……雛菊。生き残ったこいつらと……、都まで降りて近くの人間にこの事を伝えるんだ。」

 「もう喋らないで!……死んじゃうぅ。」

 雛菊は冠羽の頭を抱いて頬を寄せる。その頬も髪も血で紅く染まる。

 

 「鬼神様……負けちゃったの?」

 他の子供達も遅れて集まる。

 「ああ……。」

 冠羽は頷く代わりに目を閉じた。


 赭には勝った。しかし、その次の戦いで負けた。

 守り神を名乗っている以上、連戦や、相手を言い訳になど出来なかった。


 ふと、冠羽は残った角に何かを感じ取った。

 瞼を開ける。

 「馬の蹄の音……。それに……アイツまで。

 早く……行くんだ!お前達だけでも助け、られそう、だ……。」

 冠羽は微かに笑う。




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