破業の鬼・翔の巻(4/7)
都から北へ向かう山道。
そこを移動する集団がいる。
まず目立つのは、氷のような甲冑を纏い、白馬に乗った人物。角狩衆の統率者、源頼光・百之助である。
そしてその周りを離れず、囲うように陣形を組んで進む者達。
精悍な顔付きの老人、卜部隊の後援者・木次郎。
大太刀を背負った髪長の少女・八重。
毛皮を纏い、狐面を被った八重の従者・いろは。
白に朱を滲ませた髪色の童女、朱天鬼の姫・珠。
前髪の長い男、貞光隊の精鋭・三ツ葉。
クセのある黒髪の少年鬼・夜光。その首に髪を巻いてぶら下っている骸骨・カムナ。
その他、馬に密閉された桶や葛を乗せて手綱を引く軽装の卜部隊員が数名。
朱天鬼の長・元実の誘いにより、交渉場所に向かっている所だ。
珠は八重と共に馬に乗って、百之助の隣にいる。
今回の交渉の最重要人物となる為、血で敵を殺して守れる八重と、大将である百之助の手の届く位置にいる。
珠は百之助の着ているクシナダの鎧の浄化の力で怠そうだった。
そんな珠の視界に妙なものが目に入る。
百之助の鎧から身体の透けた少女がフワリと抜け出し、笑顔で珠に手を振る。
蝶の形に結った髪型に、貫頭衣を纏った古風な娘だった。
「や、八重ねえ!百之助殿の背中に女の人が生えてる!」
珠は八重の外套を引っ張って指差す。
「ああ、そのお方は……。」
八重の代わりに百之助が答える。
「姫、彼女は味方だ。私の鎧や剣に宿っている古の巫女の魂だ。
これはあらゆる邪気を祓って無に変えてしまう程の強力な武具だからね。着ている私や鬼の珠姫達に影響が出過ぎないように彼女が鎧から溢れる力を抑えているんだ。」
(城の大志摩の爺が言ってた、父上の片目を駄目にして敗走させた前の頼光……。その人間が着ていたのがこの鎧……。)
『そうなのよ。一つお利口になったわね、鬼のおチビちゃん。』
オミナは触れられて嬉しそうに相槌を打って話すが、彼女の声は百之助だけにしか聞こえない。
「さあオミナ。悪戯は止めて大人しくしてなさい。」
百之助にそう言われ、オミナは不満そうに頬を膨らませて、再び百之助の中に入って消えた。
一方、百之助の前方を少し距離を取って歩く、夜光と三ツ葉。
夜光は三ツ葉の顔を盗み見る。
しかし気が付かれ、直ぐに目と目が合う。
「どうした?夜光。」
「……いや。何でもない。」
夜光は目を逸らした。
「そう言えば、君と行動するのは初めてだな。
君程の体力は無いが、足手纏いにはならないつもりだ。 宜しく頼む。」
三ツ葉は口元に笑みを浮かべる。
「話が早くて助かる。こいつがお守するのはそこの大将一人で十分だからな。」
カムナが代わりに答え、三ツ葉はそれに愛想笑いを浮かべた。
それでも夜光は無表情で三ツ葉の目をずっと見ていた。
長い前髪から垣間見える鋭い目。
(この目……。何処かで……。)
ふと風向きが変わり、夜光の正面に当たって流れて行く。
その時、夜光の閉じ気味の瞼が全開に開く。
彼は急に足を止めて、片目の黄金の瞳を輝かせる。
「夜光、腹でも痛いのか?だから出発前はちゃんと……。」
カムナの言葉を遮るように叫ぶ。
「沢山の、人間の血の匂い……、この方角は……冠羽の!!」
夜光は冷や汗を流し、非常に険しい表情をしていた。
八重と珠の顔が凍り付く。
百之助の真横にいた木次郎が、腰の刀に手を掛けながら声を掛ける。
「おい坊主達!
何か発見したなら直ぐに伝えるんだ!」
夜光は後方の百之助の方を振り返る。
「……百之助、頼む!少しだけ冠羽の方に行かして……。」
そう言いかけてまた進行方向に向き直る。
「誰か来る……!
足音が小さい……。多分子供で、匂いは人間……、だと思う。」
「百之助様、私が様子を見て参ります。」
三ツ葉は早まりそうな夜光を制して、百之助に跪く。
「分かった、頼む。
仮に罠で、何かあった場合は無理せずこちらに引き込め。」
「了解しました。」
三ツ葉は脱兎の如く駆けて行った。
「よし、三ツ葉が戻るまで警戒しながらゆっくり進む!」
木次郎の言葉に一同は周りの木々や茂みに目を凝らし、音に神経を研ぎ澄ませる。
「夜光、その『冠羽』について説明が欲しい。
緊急事態なら尚更だ。」
夜光は冠羽と彼との関係、彼が守護する村について百之助に説明する。足りない部分は八重が補った。
話が終わった後も落ち着きがない夜光を見兼ねて、木次郎が声を掛ける。
「坊主……、お前は前衛を任されているんだ。今は堪えろ。」
「おじ様……。」
八重も彼の身を案じ、注意がやや散漫になっている。
その斜め後方に徒歩で付いている いろはがそんな彼女の腕を掴む。そして集中しろと言わんばかりに、紅の瞳を向ける。
「都の進行の拠点目的か。
交渉の時までは人間の集落は襲わないという決まりですが、奴らの大嫌いな青鬼が支配する村なら規約内と言う事でしょうな。」
いろはは百之助に聞こえるように推論を話す。
やがて三ツ葉が戻って来る。
子供達を数人連れた状態だった。
「百之助様。やはり話の村人のようです。阿陀護村と言っていました。」
子供達は酷く怯えた様子で、周りを警戒していた。
珠の姿を見た時、三ツ葉の後ろに隠れる。
「髪に赤っぽい(朱)色が混じってる。赤鬼……。
アイツ、前に村の祭りに来た時は頭巾を被って隠してけど……。きっと騙して、仲間と通じてやがったんだ……。」
光の無い瞳が痙攣したように揺れている。
珠は自分の首を絞めて来た西の国の姫の目を思い出して目を背けた。
自分じゃ無いと言いたかったが、それで治る状況でない事も理解していた。
「あの子鬼は大丈夫だ。隣におられる頼光様が手に治めている。」
「う、うん。
それより早く!生きてる人と鬼神様を助けてあげて!
鬼神様の友達のお兄ちゃんと角狩さん達なら何とか出来るでしょ?!」
子供達は目に涙を溜めていた。
「まず敵の数と状況を知らないといけない、さっきの話を詳しく頼む。」
三ツ葉は子供を気遣いながら促す。
子供達は冠羽が1匹の赤鬼と戦いに行った事と、その後の出来事を話した。




