破業の鬼・起の巻(8/8)
百之助達が元実との交渉に出発した時、その瞬間を捉える者がいた。
上空に赤黒い鳥、いや烏の頭を持った子供のような妖怪。
姿は烏天狗に非常に良く似ているが、赤鬼が従えている烏鬼という、呪術で烏天狗と鬼を合成した合成妖怪である。
烏鬼は大きな目をギョロギョロと動かしながら北へ飛び去る。
大江曽山。大江曽城ー。
地下の立入禁止区域である会合所。
石の円卓を赤鐘、紅鳶やその他の家臣が囲っている。
上座の石の玉座には元実、その隣に陽光が座っている。
赤鐘が耳を澄まし、手下の獄鬼と念で会話する。
数回の相槌の後、赤鐘が円卓の方を向いてニッコリする。
「烏鬼の目を通して得た最新の情報です。
都方面に人間の兵が沢山集まっています。5000程度でしょうかね。
あと、頼光さん達が動きましたよ。珠姫様と手下に5人程連れていますね。
そして、手下の内一人は『黒鬼』です。」
「ほぉれ、やっぱり動き出したか!」
すかさず、しゃがれた声で歓声を上げる者がいる。
忍びのような面頰を着けた鬼・紅鳶だ。
彼はつい最近死んだが、怨念のこもった魂によって血の主人である天鬼・鹿和津の身体を乗っ取って生き返った。
また、生き返った当初は鹿和津の身体だったが、自分の死体の残骸を使って呪術で元の姿に復元させた。
それでも彼が人鬼から天鬼に成り代わった事は変わらない。そのせいか角も一本角の上部に枝分かれした角が生えている。
「第一段階は、奴らが神仏の下に民を守る存在だという、足枷に負けて被害を広めない為に交渉を受け入れる事。
んで、我々も交渉する元実様達とは別の隊を進行させると予想したんだろうな。
読み通り、交渉組以外の隊を全て都に集結させて我々を迎え討つ気だ。これが第二段階!奴らの弱点は数!兵力など分散して戦う余裕などないからな!
何より『黒鬼』を引っ張って来てくれたのには一番感謝したい!
……流石に気付いてるだろうなぁ。元実様に留まらず『アレ』を出し惜しみしないと……。
だからあの先代の頼光も着ていたあの忌まわしい鎧だけでなく、奴の歪な落とし子までも引っ張って来たに違いない……。
全て私めの筋書き通りぃっ!」
気持ちの悪いしたり顔を浮かべる紅鳶に対し、赤鐘は興味無さそうに草子に何か覚え書きをしている。相手の情報を整理しているようだ。
「ええ、順調ですね。今の所。
私も久しぶりにお出掛け出来ましたし楽しかったですしね。」
でも前職だった私から申し上げますと、まだ何か一押し欲しい所ですねー。」
「あ、あの……父上は本当に行かねばならないのか?」
長い髪を結った女子のような天鬼・陽光は控えめに手を上げる。室内着でなく、赤黒い鎧を着ている。
最初は元実に直接尋ねようとしたが、普段より一段と険しい顔なので結局、赤鐘に聞く。彼の父は珠を逃がして以来、このように気を張ったままなのだ。
「全赤鬼の族長とは言え、鬼というのは失敗や弱い部分を見せた者には忠誠心が揺らぎ、揚げ足を取ってやろうと反抗的になるものです。
ですから全部族を黙らせ震え上がらせる為に、一度、元実様のお力を示す必要があるのです。
大丈夫です。元実様はお強いですし、私達もいます。」
その時、元実が肘掛を叩く。隣にいるが、陽光の顔は見ない。
「陽光……。」
「はいっ!」
心臓を掴まれた気分になりながら、はきはきと返事しようとする陽光。
「慈悲のつもりか?慈悲は強者が弱者にくれてやる餌のような物だ。
私の身を案ずるのは私を殺せる程になってからにしろ……。」
そして睨むようにを横目だけを向ける。
「それより城の留守を任せた。
ここは直にお前の物になる。その為に私の子である事を示せ。……お前も私を失望させるな。」
「はい。父上。」
陽光は大役に身震いしながらも、いつもより毅然とした態度で返事する。
会合の後、陽光は赤鐘に一番案じている事を尋ねる。
「赤鐘、赭はあれから……?」
「ああ、西の国の殲滅は上手くいきましたよ。赭は人間の戦に慣れてますから、本当に助かりました。
その後は軍路を確保する任に就いて貰ってます。
丁度、都を見渡せる良い山がありましたので。」
胸をなで下ろす陽光。天鬼の中で自分の人鬼を心から心配するのは彼くらいだ。
「この戦いが終わった暁には虎熊童子の称号が与えられるそうですよ。良かったですねぇ。」
赤鐘は陽光の性格に合わせて、更に良い話を重ねる。
陽光は鎧の下の赭の篠笛を忍ばせている部分に手を置いた。
(赭……。
父上から任された任の重さに震えているが、離れていてもお前の忠義が私を奮い立たせてくれる。
私も頑張る。だから無事に帰って来てくれ……。)
***
青鬼・冠羽の守護する村。
石の祭壇の上に少年のような鬼が座っている。
晴天のように青い髪。冠羽だ。
険しい顔で上空の雲や風の流れを読み取り、風上の方角を睨み付け、口に咥えてたヨモギの葉を吐き捨てる。
「嫌な風が吹いてやがる……。チリチリと鬱陶しい火の粉みてえなのが混じったやつだ。」
「冠羽?」
偶然通りかかった村の子供である雛菊が、普段見ない彼の顔付きを見て思わず声を掛ける。
「雛菊……村の全員に伝えろ。儂が良いって言うまで戸締りして家にいろってな……。これは大真面目だ。」
冠羽が睨んでいた方角。
薄暗い森林に輝く眼光。
獄鬼数体と、赤土色の髪の人鬼が一人、茂みに潜んでいる。
「妖術を使った結界か?
野良鬼ではここまで複雑な事は出来ない。とすると、赤鬼以外の鬼……。」
赭は腰の小刀の柄を手に、霧のかかった山を見据える。
「構わぬ。どんな者が立ち塞がろうが、任を果たすのみ。」
(破業の鬼・起の巻 /完)




