破業の鬼・起の巻(1/8)
漆黒の闇に包まれた洞窟の中。
胡坐をかいている者がいる。
人に似た姿をしているが、額に2本の突起がある。
彼はジッとして動かない。
座してる地面からは真下に流れる地脈を、水晶の群生から伝う雫からは水脈を感じ取っているのだ。
彼はゆっくりと目を開けた。
黄金の眼光が暗闇に浮かび上がる。
気流の乱れる曇天の空の下。
都より遥か東にあると言う霊山・富士。
青々とした裾をゆったりと広げるその山の中腹に、小さな穴がある。
遠目では見る事は出来ず、実際に登ってそこまで行かなければ分からない程の大きさだ。
そこから奇妙な生き物が出て来る。
人間に近い姿であり、顔付きは鼻の高い中年の男だが、背は十代の子供程しか無い。腹の出たずんぐりむっくりの体型から伸びる足は短く、反対に腕は足の倍の長さだ。
また、顎髭や腕、脛に生やした毛は非常に濃い。この熊のような体毛は高山の身を切るような寒さを凌ぐ為にあると思われる。
この生き物は高山の洞窟に住む種族・『鉱童』である。
妖怪と言う者もいれば、仙人と言う者もおり、呼び方も『槌鬼』、『土猥夫』など様々である。
清浄な場所を好み、人間との関わりを避けながら、穴を掘って静かに暮らしている。
彼は鉱童の中では珍しく、とある人間達を商売相手に、鍛冶屋を生業としている。鬼以上に鉱物を知り尽くし、手先が器用で細かい作業が得意な種族にはもってこいの仕事だった。
鉱童は声を上げながら背伸びする。ずっと同じ体勢だったのか、背骨がパキパキ言う。
「あーっ、いデデデ……。
角狩達に頼まれた『特注品』に手ぇかかってて、奴の事すっかり忘れてたわい。」
彼は箒の先のような顎髭をボリボリと掻きながら、別の場所に空いた穴に入ろうとする。
「むうっ?!」
その入り口でばったりと誰かに会う。
痩せ型で背の高い鬼。歳は人間の30代半ば位に見える。
2本角で髪は群青色だった。
鋭く凄みのある眼光は、何処か悲壮感が漂っている。
「なんだ、生きとったか。
流石のお前も1ヶ月も飲まず食わずじゃひもじいだろうよ。
なあ『蒼』よ?」
『蒼』と呼ばれた鬼は鉱童を避けながら外に出る。
「『平善』……。」
ボソッと鉱童の名を呼ぶ。
「何だ?飯か、水か?」
「……出かける。留守を頼む。」
「おう。
って、ここは元々俺の家じゃい!居候はお前の方だろうがぃ!」
「……暫く戻らないかもしれない。」
「瞑想だかはもういいのか?」
「行かねば。……そう大地が教えてくれたのだ。」
彼は前だけを見据え、麓へ向かって歩き出した。
空からは雷鳴が聞こえ始めていた。
『平善』(本名は「フェルゼン」日本人に馴染むように勝手に改名された。)
・富士に住む鉱童。(西洋ではドワーフと呼ばれている。)
角狩衆の協力者で鍛治師。主に人間では作れない魔力を秘めた鎧・武器の製作やメンテナンスを得意とする。
先祖は太古の昔にユーラシア大陸から日本列島に渡り、富士山周辺でひっそりと暮らしていた、その生き残り。
先祖代々鍛治の神『芭瑠觀』(ヴァルカン=ヘーパイストス)を信仰している。




