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夜行鬼  作者: 参望
6話/烈風の鬼・後編
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烈風の鬼・後編(2/8)

 格子戸から差し込む朝日。

 

 「離せ……!2人を……連れて行くなっ!」

 夜光はそう叫ぶと、(むしろ)の上で目を覚ます。まだ全身に痛みが残っていた。

  「夜光、起きたか!」

 目に青い炎を灯した髑髏。カムナが夜光の顔を真横から覗き込んで来る。

 夜光は仰向けのまま周りを見る。

 カムナの白い髪を首に巻いているのはいつも通り。

 しかし、八重の黒髪も巻いているのは想定外だった。また、無意識に八重の腕を自分の腕でしっかり挟んで掴んでいる所もそうだ。

 隣では八重が眠っていた。

 薄紫の小袖を着ており、素肌が見える部分には包帯を巻いている。

 夜光は八重が無事だった事に安堵する。

 

 しかし、おかしい所はまだあった。夜光と八重が並んで仰向けになっているその間に、2人に挟まって眠っている珠がいるのだった。

 珠は外套を脱いだ状態であり、角が丸出しの状態だった。

 角はあっても人間の幼女と変わらない健やかな寝顔だった。


 3人は洞窟のような閉鎖的な岩の牢にいた。


 「ぅん…。」

 八重も目を覚ます。

 その後、隣で彼女の髪を巻いた状態の夜光を見て、取り乱し、騒いだのは言うまでも無い。


 「旅してる間も同じ事してきて、何度も何度も止めてって言ってるのに!次やったら本当に叩くわよ!」

 八重は髪を手櫛で整えながらじっとりと睨む。

 こうは言うが実際に叩いた事は無い。親密な中でも無い異性に体の一部を触られるのが嫌なのは確かだが、夜光の価値観が普通の人間とは違うと分かっている為、つい許してしまってしまっているのかも知れない。

 「それに腕は何なの?しかもよりにもよって人鬼に切られた部分を握るから痛いじゃない。」

 ムスッとする八重。

 夜光は少し俯く。

 「八重が、青い鬼に連れてかれて殺されると思ったから……。夢の中だけじゃなくて本当に握っていた……。」

 「勝手な事言ってごめんなさい。……ありがとう。」

 八重はそう謝ると、握られていた腕に触れた。


 「にしても何で貴方が居るの?……ここは?」

 「そう言えば、あの時お前は気絶してたな。しかし角狩のお前がこの得体の知れないチビ鬼と仲良し子よしってどう言う事だよ?」

 カムナが尋ねる。

 「……え、珠ちゃんが鬼って?」


 カムナと八重はこれまでの経緯をお互い説明し合う。


 「で、この通り山奥の人間の村に連れてかれてよ。

 女数人に手当てされた後、牢屋にぶち込まれて朝を迎えたって訳さ。」

 「……そう。こっちもあの時、助けようとしてくれてありがとう。

 それにしても……。」

 八重は複雑そうな表情で珠に目を向ける。

 珠は角を両手で握って隠しながら、不安そうに八重の表情を伺っている。

 「珠ちゃん、鬼だったのね。会った時は、被り物で顔が良く分からなかったし、他の鬼もいたせいで風車の反応で判断出来なかった……。

 しかも夜光の妹……なの?」

 「本当かどうかは知らん。……見た目は間抜け面な所しか似てねえし。

 少なくとも、俺様は夜光がチビ助の頃から一緒に旅してるが、そんなのに出会った事はねえ。

 現に夜光も知らねえと言っている。」


 カムナや夜光の疑いの眼差しに耐え切れず、珠は叫ぶ。

 「嘘じゃないもん!兄上の母上は人間で、わらわの母上は鬼だけど、父上は一緒だもん!

 皆んなが噂してる通り黒くて歪な鬼で、父上と同じ匂いが兄上からしたんだもん!」

 珠は夜光の着物の襟を握ったままじっと夜光を見つめる。パッチリとした大きな目に涙を溜めていた。


 「待って、夜光の片方の親が人間……。つまり半鬼?

 そう。そうだったの……。」

 「え!いやそうだけど、そうじゃないような、ええっと……。」

 カムナがはぐらかそうとする。

 「いや、良いのよ……。うん。」

 八重は一瞬驚いていたが、特別嫌がったりせず、それ以上は何も言わなかった。


 「……お前、何しに来たんだ?

 赤鬼なら枯皮の天鬼や、天津の女天鬼の仲間だろ。」

 夜光は少し怪訝そうな顔をしている。

 今までひたすら暴行を受けたり、騙されたりと、彼にとって鬼は危険を脅かすものでしか無かった。だから不信になっている。


 「兄上に会いに来たのじゃ!父上が兄上は強いって褒めていたから、仲良くしたいって思ったから来たのじゃ!」 

 「……え?」

 あまり記憶のない自分の父親。それも酒呑童子という皆に畏怖される強い存在。

 それが自分に対して好意的であると聞き、動揺する。

 彼は自分の感情に気が付いてないが、善悪関係なく正直に言うと、多分嬉しかったのだ。


 「でも青い天鬼にあっさり負けちゃったね。」

 珠は思った事をそのまま言ってしまう。

 夜光はムッとする。

 彼にしては珍しく、若干ムキになっている。

 「『あっさり』じゃ無い、次は絶対勝つ!」

 珠は大きな声にびっくりして黙り込んでしまった。

 「や、夜光落ち着いてよ。お兄ちゃんなんでしょ?」

 八重が夜光を宥める。


 「でもいいのじゃ。八重ねえにも会えたんだもん。

 人間で角狩なのに、強くて、綺麗で、優しくて、カッコよくて『鬼の力』が出せるんだもん!」

 「ん?」

 聞き返すカムナ。

 八重は慌てて珠を抱き寄せて口を塞ぐ。

 「あ、ああ。私、力があるから『鬼みたいだ』って思ったのよね?

 大太刀なんか簡単に持てちゃうから……。」

 八重は顔を曇らせ複雑そうな表情を浮かべていた。

 しかし角狩衆の敵である鬼であるとはいえ、無邪気に腕に擦り寄って甘えてくる珠を咎める事が出来なかった。

 

 「しかし馬鹿だな。鬼は強いものに惚れ込む種族だとはいえ、八重に近づくなんてよ。

 ……お前に敵意が無くても、お前は赤鬼で雌鬼である以上、面倒事の塊さ。

 角狩衆の連中にしょっぴいて貰おうぜ。奴らもこう言う時だけは役に立つ。」

 「カムナ、それは……。

 確かに百之助様にはどうにか相談するけど、怖い思いをさせるつもりは無いわ。」


 「ムクロカムリの意見に同意だな。ここを守る儂としても、長居はして貰いたく無い。」

 格子戸の方から声がする。

 変声期を終えたばかりの少年の声。つまり、あの青鬼・冠羽の声だった。


 「出たな青鬼!って、ちっせっ?!」

 カムナが食い掛かろうとするが、口をあんぐりと開く。


 「普通に体を動かせる位には回復したみたいだな、坊主。

 寝てる間に獣の血を飲ませておいた甲斐があった。」


 格子戸の前に立っていたのは、角を生やした10歳位の少年だった。

 短めの髪は晴天の空のような鮮やかな青で、三角眼の瞳は黄金だった。寒色でまとめた麻の腰巻を幾重にも重ね着し、青瑪瑙と動物の骨を削って作った腕輪や足輪を着けている。

 冠羽の鬼に変化する前の姿、つまり人間形態の姿である。


 「お前そんな姿だが、ガキじゃねえな?年寄り臭え話し方だし、本当はジジイかオヤジだろ?!」

 「はっはは。妖気が強けりゃ、幾らでも若作り出来るってもんよ。

 この姿なんて完全な鬼の姿と比べたら仮の姿みたいなもんだしな。」

 冠羽は腕を組み、歯を見せてケラケラと笑う。


 「冠羽おじ様……。」

 八重が呟く。正直嬉しそうな顔ではなかった。

 「おじ様?

 この青鬼と知り合いなのか、八重?」

 カムナが聞く。

 「ええ。姿を見た後すぐに気絶しちゃったから説明出来なかったけど。

 その、私の……父の友達よ。」

 八重は気まずそうに目を逸らしてそれ以上何も言わなかった。 


 冠羽はその八重を見て一瞬悲しそうな表情をしたが、切り替えるようにまた笑顔を作る。

「すまねえな。八重はちゃんと家の中に泊めてやりたかったんだが、その坊主が気絶したまま全然手を離さなくてな。仕方なくそこに寝かしたんだ。

 ほら、青鬼以外は村の連中が怖がるから……。」

 「お気持ちだけで十分です、おじ様。助けて頂いてありがとうございました……。」

 八重は一瞬だけ目を合わせて礼を言った。


 「おいおい、仕方なく夜光や俺様を連れて来たって風に聞こえるんだがよ?ならとっとと出てこうぜこんな所。」

 「……私も、出て行きます。」

 悪態をつくカムナに、八重も同調する。

 「ちょっと待て。両方とも用があるんだ、儂は。

 悪いが出て行って欲しいのは、その赤鬼の嬢ちゃんの方だよ。」


 珠は首を振る。

 「い、いやじゃ!兄上と八重ねえからもう離れない!折角会えたんだもん!」

 「赤鬼は喧嘩っ早いからな。他の部族を潰す事しか考えてねえ連中だ。嬢ちゃんみたいな子供でさえ争いの種にしかならんのさ。」

 冠羽は優しく笑うが、やや声を強張らせて厳しく言う。


 「八重ねえ達の約束守るから、良い子でいるから、お願い……!元の所に連れ戻されたら、今度はきっと二度と会えなくなっちゃう!」

 珠は八重に抱き付いて首を振る。


 「……。」

 夜光は怯える珠をじっと見ていた。

 初めて珠を見た時、その身なりから察するに同じ仲間の赤鬼から丁重に扱われていたのだろうと思い、彼女の事があまり好きになれなかった夜光。

 しかし今の珠の姿は、鬼にも人間にも拒否されて、1人カムナを抱いてその場から静かに去っていた時の彼自身を思い出させた。また、「一緒に居たい」と思えた人々の元さえ、最後には出て行く羽目になってしまう所もだった。


 夜光は溜息を吐いて、珠を庇う。

 「こいつを追い出すなら俺も一緒に出て行く。それで良いか?」

 怠そうな表情だが、いつもよりもハッキリと喋っている。


 「冠羽のおじ様、何とかなりませんか?

 私も用が済んだら直ぐにこの子と出て行きます。」

 八重も嘆願する。


 「はあ、分かった。

 でも村の人間が不安がるから角は隠せ。それで1日だけなら許してやる。でも少しでも粗相をしたら叩き出すからな。

 それに、今日は『特別な日』だからな。

 いつもは100の内1しか許さない所を10許してやる。」

 冠羽は渋々同意した。


 「もう少し休んだら外に来な。鍵は開いてる。」

 そう言って出口の方を親指で指差し、去って行った。


 珠は驚いたように夜光の方を振り向く。

 初戦で冠羽に負けた夜光の事を少し肩透かしに思っていたが、今の彼女の目には彼が頼もしい存在として映っていた。

 「兄上……、ありがとう!」


 「意外とお兄ちゃんらしい事も出来るのね。」

 「全く……、兄貴面しやがって。どうなっても知らねえぞ。」

 周りで八重とカムナが茶化す。

 「ぴったりくっつくな。気持ち悪い……。」

 珠に頬擦りされ、夜光は少し照れ臭そうに顔を逸らした。




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