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夜行鬼  作者: 参望
6話/烈風の鬼・前編
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烈風の鬼・前編(4/7)

 八重は大太刀を抜刀した後、両手持ち脇構えの体勢になる。


 「音と匂いで武器を持った小娘が近寄って来てると思ったが、やっぱり角狩か。

 一人で現れるとは舐められたもんだ……!」

 紅鳶は片手で腹を抱えて笑う。

 (並みの人間の小娘の体格で、足や腕は細いばかりで筋肉量が無い。そこに、あの大袈裟な大太刀か……。

 ふん。案の定、両手持ちでも刀の重さに引っ張られて腕も腰も安定してない。

 ハッタリか?)


 八重は息を大きく吐き、大太刀の峰を肩に乗せて担ぐ。

 栗色の瞳が黄金に、黒い髪が群青色にぼんやりと発光し始める。

 それを合図に、紅鳶の方へ一気に距離を詰める。

 「!!」

 それは暴れ牛のように力強く、素早い踏み込みだった。一蹴りしただけ砂や小石が激しく跳ね、彼女の歩幅の倍の距離を進む。


 紅鳶はその動きから彼女が並の人間では無いと悟る。

 (最初の時と力加減が変わった?!こいつ……!)

 

 上段からの袈裟斬り。

 大太刀の重量とそれを振り下ろす時の遠心力、そしてそれ以外の何らかの力が合わさった、破壊力のある斬撃だった。


 紅鳶は片手で受け止めてやろうと言う思考を止め、斜め後ろに跳んでかわす。

 ビュオッっと、激しく風を切る音が聞こえ、一瞬近くの草が倒れ、木の葉が騒めく。

 紅鳶は更に大きく宙返りして、木の上に着地する。

 しかし、八重はそれに追いつく。彼女も木の高さまで跳んだのだ。


 「そこだ!」

 八重は大太刀の峰を下に向けて持ち直し、逆袈裟斬りを放つ。

 その峰打ちの刃は珠を抱えている方の腕を打った。

 紅鳶の腕の骨が砕け、珠が解放される。


 八重は片手と膝で珠を胸に抱え込んで着地する。

 「大丈夫?」

 「う、うん……。」

 八重は先程までの修羅のような表情を綻びさせ、優しく問い掛けた。

 珠は八重の顔を恐る恐る見上げる。


 珠の安否を確認して間も無く、八重は再び武器を構えた。

 「向こうに馬がいるわ!早くそれに!」

 「馬鹿力がっ……!」

 八重は珠を庇い、紅鳶の爪と迫り合いを始めた。

 

 珠は八重を振り返りながら、言われた方向に走る。

 (あの女の角狩……、わらわが角を隠してるから人間の子供だと思ってる?目的の『兄上』は角狩とつるんでいると言う噂……。これは好機かもしれぬ!

 ……それに、弱者として守られたのは癪じゃが、……綺麗で、いい匂いがして、ちょっと格好良かった!)

 珠は八重の温もりや、優しい声を思い出して頬を染めた。




 一方、激しく拮抗したままの両者。

 紅鳶がフッとしたり顔をする。

 「お前の存在は気になるし、たっぷり腕の礼をしてやりたいが、俺の任務は雑魚相手じゃない。さっさと姫をお届けしなければ。」


 紅鳶はそう言うと、片手を挙げて合図する。

 既に変化を終えた獄鬼が2匹、咆哮を上げながら茂みから現れる。

 

 「お前ら追い着くのが遅いぞ!

 角狩、それも女の生き餌だ。骨も残さず喰らってやれ。最高に、下劣になぁ!」 

 紅鳶は下衆な高笑いをしながら、蹴りを放って脱出し、八重の脇をすり抜ける。 


 「待ちなさい!」

 八重は追おうとするが、獄鬼達の巨体がそれを阻む。

 

 八重は四方から跳び掛かる獄鬼達に、大太刀を振るって間合いから遠避ける。しかし、獄鬼も肉食獣並の素早さがある為、間を通り抜ける事が出来ない。

 

 「小娘のくせに、でかいブツを!

 これならどうだ!」

 獄鬼達は角に神経を集中させ、青い火の玉を放つ。

 「しまった、鬼火!」

 八重は横跳びで火の玉を辛うじて避ける。

 しかしそれに気を取られ、獄鬼の1匹に背後から羽交い締めにされる。 

 宙に浮いた足で獄鬼の腹を蹴とばそうとするが、もう1匹の獄鬼に両足を捕まれる。

 「くっ!」

 八重は拘束を解こうと暴れるが、体勢のせいで上手く力が入らない。 

 「生きがいいのはいいが、手こずらせやがって……。」

 「ご命令だ。最高に下劣にしてやる、へっヘッヘッヘ……!」

 両足を持っている獄鬼は八重の足を左右に広げ、股を開かせた。


 


 「珠姫様ぁ、出て来なさい。」

 紅鳶が歩み寄りながら叫ぶ。

 珠は馬に化けていた。八重が乗って来た馬の隣にいる。

 「フフ、無駄ですよ。私には震える貴女の呼吸音も、匂いも、バッチリ分かります。

 それに、また獣に化けてやり過ごそうなんて思わないで下さい?子供の貴女には、もうそんな妖力は残って無いはず。」


 「……!!」

 珠の頭の中は混乱状態にあった。

 (変化も限界……。このままじゃ捕まる……。でも流石にあいつの足からは逃げ切れない!どうしよう……。)




 獄鬼達は草鞋程の大きさの舌を出し、虎のような歯を見せて下劣な笑みを見せる。

 羽交い締めしてる方の獄鬼が頬から首を、両足を持っている獄鬼は腿の内側を舌でなぞり始める。唾液が垂れている。

 「……ぅっ!!」

 八重は歯を喰い縛りながら、鬼達を鋭く睨んだ。

 「へっヘッヘッヘ、前座はお嫌いで?それとも、もっと痛いのが好きかい?」

 「手、足、尻、腹、脇、胸、頭……。ちょっとずつ喰ってやるから、いい声で鳴け、よ……グヘッゴホッゴホッ!」

 獄鬼は話の途中でむせる。

 煙と煤が口に入ったようだ。 


 周りからは火の手が上がっていた。

 先程、獄鬼が放った鬼火が木に当たって森が火事になったようだ。

 「こうケムいと集中できねえ、場所変えようぜ!」


 八重は花を供えた桜の木のある方を見て、血相を変える。

 「……まさか!」


 「……離せ!」

 八重の髪から放たれる群青色の光が濃くなり、揺らめく。


 「ん?えっ、何だこの力!?」

 八重の両足が狭まり、やがて腿を舐めてる獄鬼の首に絡み付く。

 そのまま四の字固めで締め上げる。

 「ゲグッ!っぉ!!!」

 獄鬼は泡を吹く。

 「離せっ!」

 八重は叫ぶ。

 そのまま羽交い締めの獄鬼の腕を力任せに外してしまった。


 脱出した八重は、2匹の獄鬼の首を大太刀で跳ね飛ばす。

 首は血を撒き散らしながら火の海に落ちていった。


 八重は獄鬼達には目もくれず、桜の木のある方へ駆け出す。

 「お願い!燃えないで!」

 

 


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